テニスの王子様 10年後の王子様 氷帝の場合 結婚式に触発編

ゆにっち
@yuni_stardust_

触発




20××年 ドイツ某地方


「見ていかないのかい?・・手塚のあんな恰好なんてそうそう見る機会なんてないと思うよ?」


くくっと笑いながら自分に問いかける不二に、複雑な表情の跡部はタキシード姿の手塚を見やりながら答える。「俺はたまたま通っただけだからな。招待されているわけでもない」


「ふふ、キミがそんなことを気にするなんてね。ちなみにボクもたまたまドイツに出張にきただけだよ。・・ま、話は聞いてたんだけどね。」


「相変わらず仲良しごっこかよ、青学は。」「それに乗っかっているのがキミだろ?ここにきたのは仕事だとしても、それは手塚に関係したことなんだろ?スポンサーとして」


「!」それまで表情を崩さないままだった跡部の顔に、わずかに動揺が走る。「・・どこまで知っている?」


「手塚のことを心配しているのはキミだけじゃないってことさ。キミのとこの関連会社が手塚のスポンサーになったのはキミの方針だろ?それも、キミが関係してるとはわからないように。」


「お前・・なんかの調査会社にでも入ったのか。ま、当たらずとも遠からず・・ってとこだな。だから、手塚の結婚のいきさつも知っているが、あいつがそんなロマンチストだとは思わなかったぜ。見ろよ、あの顔」


 そう言われて手塚の方を見ると子供に向かって手を振っているとこだった。中学生からの親友もそしてライバルも、けっして見ることのなかった彼の優しい笑顔は、この日から正式に親子の関係になるその女の子に向けられていた。


「手塚のあんな顔、近くで見たら爆笑もんだと思うから、いいかげん俺はいくぜ。それに・・」と別の方向を見ながら跡部が意味ありげに言葉を続ける。「お前らの邪魔もしたくないからな。ったく・・一人もんには目の毒だぜ」


 跡部のその言葉に不二はああと言って手を振る。「彼女はただの出張の同行者だよ。語学力が優れていてね、こういう海外出張には大抵ついてきてもらっている。・・それだけだよ」


「お前は相変わらず残酷なやつだな。・・少しは大事にしてやれよ。じゃないとお前も・・」


「?お前も?・・何?」そう不二に問い直されたが、跡部は何事もなかったかのように前を向いて・・自分に言い聞かせるかのように「愛してるって言葉は・・強ええんだよ。良くも悪くも人生を左右するほどにな。その点は、手塚を尊敬するぜ」


 そう言ってレンタカーの助手席に乗り込むと、彼は不二や結婚式の方を見ることもなく去っていった。残された不二は少し離れた場所に立っていた女性に「ごめんね」と声をかける。「尊大なとこは中学のときから変わらないようだよ、それに・・・」(人を見る目も相変わらず確かなようだ、ボクのことも・・彼女のことも)ずっと笑顔を絶やさずに自分を見ている彼女をうながして、結婚式の輪の中に戻っていく。式が始まると自然に手塚の顔に目がいく。緊張しているようでもなく、普段と変わらない彼と記憶の中にある中学のころの彼が重なる。(基本的なところは変わらないように見えるんだけどな)モテるのに女子生徒が声すらかけづらい中学生だった彼。そんな彼のこの10年は断片的にしか耳に入ってこなかったが、同時に夫と父親になるという決断をさせるほどに人生を変えたようだった。


 ふと傍らにいる彼女を見る。新郎新婦を見る彼女の顔はさっきよりもにこやかだった。(やっぱり女の子なんだな、あんなキラキラした目で花嫁を見ていて・・)そんな彼女に俺は・・と心の中で苦笑する。『お前は相変わらず残酷なやつだな』跡部のあのセリフは不二の心にぐさっと刺さった。(確かにひどい男だよ、ボクは。わかっているのに、そして結論も出せないのに、彼女に間近で結婚式を見せているんだからな。なのに彼女は・・)優しい。彼女はとても優しい。残酷な自分の仕打ちをそれでも受け入れてくれるほどに。(愛されて・・いるんだろうなボクは。でもボクはそれに甘えて。そして彼女は強い。男らしく・・ない)そんな自分をいつまで彼女は愛してくれる?いつかあいそをつかされる時がきたら自分はどうなる?好きなのに!


(!・・どうなるんだろうな。ふっ、後悔しかない人生になるだけか。わかっているのに・・な。どうして一歩を踏み出せないのかな、ボクは)


 そう思いながら不二は写真を撮り続ける。そして、またあの笑顔に出会った。血の繋がりこそないが、この先手塚が「一番の宝物」と言ってはばからない愛娘に向けられた笑顔を不二はカメラにおさめた・・・。(大事にしたいもの・・か)



「本当にご覧にならなくてよかったのですか。・・今回の渡欧の一番重大な目的だったのでしょう?」


運転席で涼やかな笑顔でハンドルを握る男性から声をかけられ、跡部は憮然とした顔で答える。


「はん・・投資したものの行く末を見定めるのも俺の役目だろうが。そして俺は忙しいんだ。大丈夫なのかどうか、すぐに判断できなきゃしょうがねえ。」


素直になればよろしいのに・・、くくっと笑いながら運転席の秘書は言う。この秘書は跡部の大学の先輩で跡部の卒業後に跡部グループに入社。すぐに彼の秘書となった。もちろん跡部よりは年上ではあるが、立場をわきまえつつ跡部にとっては気の置けない存在で、跡部の私生活にも深くくいこんでいた。


「なかなかに素敵なお二人でしたね。いえ3人ですか。理想の家族そのものって感じでしたよ。天国の故人も安心でしょう。・・景吾さんも触発されたのではないですか?そういえば、不二様も綺麗なお嬢さんをお連れでしたね」


「・・お前、そんなに喋るヤツだったか。つたく、よく見てるというか。だいたい、俺よりお前の方が結婚しなきゃいけない年齢だろうが。」何を興奮しているんだと跡部は呆れる。この秘書は跡部の目から見てもなかなかにいい男で、女子社員やクライアントに言い寄られる、ということが多いのも跡部は知っていた。だが、特定の女性がいたという話は聞いたことがなかった。


「・・自分は景吾さんが身を固めるのをみるのが楽しみなんですよ」


「そのわりには、俺にくる見合いの話を全部止めてるじゃねえか。まあ、それには感謝しているがな。」


跡部のその言葉で秘書は少し複雑な表情になる。そして「私の目からみても貴方にふさわしい女性が皆無でしたからね。申し訳ないと思ってはいますが。」


 跡部は笑って「お前に俺の女の好みなんかわかるのかよ。女を見る目があるのか・・」


「不二様には本当はこうおっしゃりたかったのでしょう。惚れた、惚れてくれた女は大事にしないと後悔すると。言えなかった「愛してる」という言葉はいつまでも心の足枷になってしまう、と。あの時の貴方のように」


「そして何が言いたい?」と跡部は冷たい声で言い放つ。静かに、しかし相手を圧する声。秘書はため息をつく。


「申し訳ありません。・・ただ、自分の判断が間違っていなかったことは確認いたしました。景吾さんには妥協はしてほしくはありませんから、今後も見合いの話には介入させていただきますよ。貴方が止めない限りはね。」


「・・勝手にしろ。俺は少し寝・・る」


そう言うと跡部は本当に目をつむり、すぐに寝息が聞こえてきた。(まさか、本当に寝るとは。お可哀想に疲れ果てていらっしゃる・・)そんな跡部に秘書は自分の上着をかける。


(この結婚式を見るために、かなりの強行スケジュールだったからな、無理もない。なのに・・)一言ぐらい手塚に声をかければいいのに、と秘書は思う。大学時代から何度も彼に手塚の話を聞かされた。よほど大事なライバルなのだろうと秘書は思っていた。手塚の話をする時の彼はとても素直で、とても楽しそうだった。・・それと同じくらい彼女と接しているときの彼は幸せそうだった。お似合いのカップルだと思った、


(どうして肝心なときだけ素直になれなかったんだろうな、景吾さんは。彼女の想いも自分の気持ちもちゃんと理解していたはずなのに・・。頭のいいこの人が、なぜ)


そう思いながら車のスピードを落とし、そして・・彼の頭を撫でてみる。生意気ではあったが自分と妙に気の合うこの御曹司のことは大学時代は弟のように可愛がり、そして秘書となってからは誠心誠意尽くしてきた。彼女とのことがあってからは時折かいまみえるようになった彼の危うさを、秘書は見過ごせなくなった。(1人にはしてはおけない。でも、景吾さんに本当に必要なのは・・)


ううーん、と彼が発した言葉に思わず手をひいた。「ごめん」・・彼は確かにそう言った。初めて聞く彼のそんな言葉。車を止めて彼の寝息を確かめる。まだ寝ているようだ(どんな夢をみているのか)


 再び空港への道を車を走らせながら秘書は思う。この人にはまっすぐ前を向いて堂々と歩いていく人生が似合っている。13年前、中学の入学式で見たあの跡部景吾は自分の憧れだったのだから・・


「日本である結婚式がうまく後押しになればいいのだがな。氷帝テニス部員・・か」



帰国後、すぐに後輩の結婚式に出ることになっていた


ある波乱を含む結婚式であることを


このときは跡部も秘書も


結婚する本人たちでさえ知る由もなかった・・・



 


                              To Be Continued