終章

「こっちだよ」

突如として眼前から消えた竜。はっとして背後を見れば、悪寒のする―地獄のような笑みが浮かんでいた。その地獄の笑みに目を取られた瞬間、辺りは轟轟と燃え盛る_真赤で大きな翼に包囲されていた。

「でも、君、すっごく高くまで跳べるんだね!凄い!」

大火が空を焦がす音に紛れて、竜がまた嗤った。赤く光る瞳孔が、己の中で昂る感情を精一杯に伝え来る。


『俺はまだ本気じゃあ無いんですよ、きっと貴方の留まるその高さまで跳んで、撃ち落として見せます』

そう、まだ手段は幾らでも残されているのだ。

俺はゆっくりとその場に大きく広がる翼へと歩み寄る。刀を抜き、手元に携えた。

無遠慮に翼の中へ踏み込む。刹那襲い来る、想像を逸した灼熱感。

それらを全て_翼ごと凪ぎ払った。まるで怯えた様に退く残骸と、拓いた道が俺を迎える。

地獄の輪から脱け出すなり 俺は全速力で輪の外を駆けた__竜の元へと跳ぶために。


「…ありゃ、炎は効かないのかな?まさか逃げられるだなんて!やっぱりあの子は凄い!」

天空より見下ろす竜は、稚児のように喜ぶ。事実、今まで自分の能力を見てその場に留まる者は誰一人として居なかった。だから、嬉しかったのだ。相手にしてもらえた事が 自分を見てくれた事が。

そして何より、彼が自分を“殺そうとしてくれる”事に感動していた。

「__燵に、頂戴。“完全な死”を」


戦場を駆けた青年は自らの刀の鞘を支えとし 体重を預け、全力で跳んだ。

空中で再度刀を抜き 力の限りに_投擲した。

暫くの間真っ直ぐに突き進んだ刀が、次第に放物線を描くようになった頃_それは竜の尾に届いたのだ。

キィンッ

しかし、切断するには及ばなかった。

鋼のように_否、それ以上の硬度を誇る鱗の前に、彼の刀は屈した。

『…っな…?!

…おいおい、チートかよ…』


凶悪な竜の前には、矢張誰も敵わないのか__?

著作者の他の作品

バレンタインネタ