人魚の唄

アメツキ
@black_a_dream

阪神共和国─前

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「んな警戒せんでええって。

 侑子さんとこから来たんやろ?」

 

 「ゆうこさん?」と、小狼が聞くと、「あの魔女の姉ちゃんのことや」と男は答えた。あの魔女は、“次元の魔女”や“極東の魔女”など、色々な呼ばれ方をしているらしい。

 男と一緒に入ってきた女性は、押し入れから布団を出すと小狼に渡し、男は〔有洙川 空汰〕、女性は〔嵐〕と名乗った。


「ちなみにわいの愛する奥さん

 ハニーやから、

 そこんとこ心に刻みまくっといてくれ」


 そう言う彼を無視して嵐は彼の手からお盆を取ると、お茶を配ってくれた。


「つーわけで、ハニーに手ぇ出したら

 ぶっ殺すでっ♥」


 と、くるりと向きを変え、黒鋼に言う空汰。黒鋼は、「なんで俺だけにいうんだよ!!」と怒鳴ると、空汰は「ノリやノリ」と、くるりと向きを変えて、あはははと笑いながら言った。

 モコナも一緒にくるくる回っている。

 そして再度、くるりと向きを変えて黒鋼の方を向いた空汰は、「でも本気やぞ!」と、いい笑顔で言った。「出さねぇっつの!!」と、青筋を立てて黒鋼は返していた。

 空汰は「さて」と言って、モコナをひょいと持ち上げ、モコナを指差した。


「とりあえずあの魔女の姉ちゃんに

 “これ”あずかって来たんやな」


 モコナはしゅた、と手を挙げ、「モコナ=モドキ!」と名乗った。


「長いな、モコナでええか」

「おう!ええ!」

「事情はそこの兄ちゃんらに聞いた。

 主に金髪のほうと、

 そっちの姉ちゃんにやけどな」


 「黒いほうは愛想ないな、ほんま」と付け加えると、「うっせー」と黒鋼は言った。『一々返して血管が切れたりしないのか』と、水月は思った。


「とりあえず兄ちゃんら

 プチラッキーやったな」


 へにゃっと笑っていたファイは、「えーっと」と言うと、「どのへんが──?」と聞いた。


「モコナは次に行く世界を

 選ばれへんねやろ?

 それが、一番最初の世界がココやなんて

 幸せ以外の何もんでもないで──」


 空汰は、「ここは」と言って窓に手をかけると、「阪神共和国やからな」と言って、ガラリと窓を開けた。


◇◇◇


 この“阪神共和国”と言う国は、海に囲まれた島国で、粉物が主食らしい。

 島の形は虎のような形で〔虎の国〕とも呼ばれるそうだ。通貨や国旗も虎にちなんだものだそう。

 ここまでを、空汰と嵐が人形を使って説明してくれた。嵐は一言もしゃべっていないが。

 野球についても空汰は説明したが、水月と黒鋼は、「?」という状態だった。


「はーい、質問いいですかー?」


 と、手を挙げて聞いたのはファイ。


「はい、ファイ君」

「この国の人たちはみんな空汰さん

 みたいなしゃべり方なんですかー?」


 「んな水くさい、空ちゃんでええで」と、空汰が言うと、彼は自分のしゃべり方は古語だと言った。もうほとんど使われていない言葉らしく、彼は歴史の教師で、古いものがなくなるのがいやで使っているらしい。

 小狼は、「歴史」という言葉に反応していた。


「なんや小狼は歴史興味あるんか」

「はい、前にいた国で発掘作業に

 携わっていたんで」

「そりゃ話があうかもしれんな──」

「もうひとつ質問でーす」


 ファイとモコナは仲良く手を挙げると、「ここはどこですかー?誰かの部屋ですかー?」と、聞いた。

 空汰は、「ええ質問や!」と言うと、嵐を引き寄せて「ここはわいとハニーがやってる下宿屋の空き部屋や」と答えた。

 うっとりしながら空汰が嫁自慢をしていると、寝かけていた黒鋼に対して、「そこ寝るなー!」と言い、同時に黒鋼の頭を思い切り叩く音がした。


「なにぃ!?」


 小狼はさくらをかばい、ファイと水月は黒鋼の方を向く。黒鋼も自分の後ろを見るが、そこには壁があるだけだった。


「なんの気配もしなかったぞ!

 てめぇなんか投げやがったのか!?」

「投げたんならあの角度からは

 当たらないはずでしょ──」

『真上から衝撃があったようですしね...。

 (...となると...、“この子”のような...、

 アヤカシ、 でしょうか...?)』


 自分の影を見つめる水月。

 それに反応してか、水月の影がゆらりと揺れた。


「何って、“くだん”使つこたに

 決まってるやろ」


「「「『クダン?』」」」

『(妖じゃあ、ない...?)』


 「知らんのか!?」と驚く空汰。


「そっか──

 おまえさんら異世界から来たから

 分からんねんなー。

 この世界のもんにはな、

 必ずクダンが憑くんや」


 「漢字はこう書く」と、空汰はホワイトボードに〔巧断〕と書いた。


「あー、なるほど」

『ああ、わかりました』

「あはははは、全然わからない──」

「モコナ読める──!」


 「すごいねぇ、モコナは」とファイはモコナを撫で、モコナはえへへー、と笑っていた。


「小狼は?」

「うん。なんとか」


「黒鋼と小狼、水月の世界は

 漢字圏やったんかな。

 んで、ファイは違うと。

 けど聞いたりしゃべったり

 言葉は通じるから不思議やな」


 空汰は器用に人形を使ってペンのキャップをつけた。


「んで、巧断ってのは

 どういう代物なんだ?」

『先程は、憑く、と、仰いましたね』


 それに対し答えたのは、ずっと口を閉ざしていた嵐だった。


「例え異世界の者だとしても

 この世界に来たのならば

 必ず巧断は憑きます」


 嵐は、さくらの横に座ると「サクラさんとお呼びしてもよろしいですか?」と聞いた。それに「...はい」と答えたのは、小狼だった。


「サクラさんの記憶のカケラが

 何処にあるのかわかりませんが、

 もし、誰かの手に渡っているとしたら...

 争いになるかもしれません」


 嵐は一度、小狼たちの方を向くと、「今、貴方たちは戦う力を失っていますね」と言った。


「どうしてそうだと?」

「うちのハニーは元巫女さんやからな。

 霊力っつうんが備わってる。

 ま、今はわいと結婚したから

 引退したけどな」


 巫女の時の嵐を想像しているのか、空汰はでれっ、とした顔をしていた。嵐は無視していたが。


「実は──、次元の魔女さんに

 魔力の元を渡しちゃいまして──」


 てへ、と笑うファイ。


「俺の刀をあのアマ──」


 眉を寄せてイラつく黒鋼。


『私も刀を魔女に差し出しました』


 哀しげに笑う水月。


「おれがあの人に渡したものは

 力じゃありません。

 魔力や武器は、

 最初からおれにはないから」

「やっぱり貴方は

 幸運なのかもしれませんね」

「え?」

「この世界には巧断がいる。

 もし争いになっても

 巧断がその手立てになる」

「巧断って、戦うためのものなんですか」


 「何に使うか、どう使うかはそいつ次第や」と、空汰は笑って言った。


「百聞は一見にしかず。

 巧断がどんなもんなんかは、

 自分の目で、身で確かめたらええ。

 さて、この国のだいたいの説明は

 終わったな」


 「あれでかよ」と言う黒鋼に、また巧断が飛んで来ないかと水月は少し心配した。


「で、どうや。

 この世界にサクラちゃんの羽根は

 ありそうか?」

「...ある。

 まだずっと遠いけど、この国にある」

「探すか、羽根を」


 「はい!」と答える小狼からは、強い意志が感じられた。


「兄ちゃんらも同じ意見か?」

「とりあえず──」

『......私の探し人は、

 この世界にはいないようなので。

 手伝います』

「......。移動したいって言やするのかよ。

 その白いのは」


 羽根が見つかるまではしない、と、モコナは言った。黒鋼はムスッとしたが、反論はしなかった。


「ありがとう、モコナ」


「よっしゃ、んじゃこの世界におるうちは

 わいが面倒みたる!」


 「侑子さんには借りがあるさかいな」と空汰が言うと、嵐は照れたような表情になった。


「ここは下宿や。部屋はある。

 次の世界へ行くまで

 下宿屋ここに住んだらええ」


「『ありがとうございます』」


「もう夜の12時過ぎとる。

 そろそろ寝んとな。部屋案内するで。

 おっと、ファイと黒鋼は同室な。

 安心し、水月は一人部屋や」

「はーい」

「なんだとー!?」

『ありがとうございます』


 部屋を出るとき、「なんでこんな得体がしれねぇやつと」と黒鋼は言うが、ファイは「名乗ったから得体は知れてるよー」と返した。モコナの得体がしれない、というのには、少し同意する、と、水月は思った。

 小狼とさくらは、この部屋を使うようだった。


「水月、一緒に寝ていい?」


 と、モコナが肩に乗って聞いてきた。


『いいですよ』


 水月が了承すると、モコナは「やったぁ!」と喜んだ。


「水月の部屋はここや。

 ファイと黒鋼はそっちな。

 なんかあったら叫びや、水月。

 ここには狼が二人おるからな」


 「あははー」と笑うファイと「ああ?」と言う黒鋼。水月はモコナを見ると『あら、怖いですねぇ。モコナ?』と言った。「きゃー、食べられるー♪」と言うモコナ。

 水月は、黒鋼たちと別れ、モコナと部屋に入ると、モコナに『おやすみ』と言ってから、眠りについた。








寝る少し前の会話


『ねえ、モコナ?

 モコナの数え方は、1匹2匹、ですか?

 それとも1人2人?』

「1モコナ、2モコナ、だよ!」

『...そう、なんですか...』




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