人魚の唄

アメツキ
@black_a_dream

日本

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 雨の降る東京。

 空は曇ってはおらず、陽が照っている。所謂、狐の嫁入りだ。

 そんな日に“彼女”の“ミセ”に現れたのは、気を失った砂漠の姫を抱えた砂漠の少年。


「...__この子は、

 大切なものをなくしたのね」

「......はい」

「そして...それは

 色んな世界に飛び散ってしまった。

 このままではこの子は死ぬわ。

 ...四月一日」

「は はいっ!」

「宝物庫に行って来て。

 取って来て欲しいものがあるの。

 その子を助けたい?」

「はい!」

「対価がいるわ。それでも?」

「おれにできることなら!」


 その時、空間を裂くような、「キィィイイ」という音がした。


「...来たわね」


 その言葉と共に砂漠の少年の前に現れたのは、白い男と黒い男。それから、海の国の娘。ちなみに、三人の位置は次元の魔女から見て左から、白い男、黒い男、海の国の娘だ。


「『貴方が次元の魔女ですか?』」

「てめぇ誰だ?」


 笑みを浮かべる白い男と無表情な海の国の娘は同じ言葉を言い、黒い男は白い男をムッとした表情で睨み付ける。

 魔女は、黒い男の方に手を向け、「先に名乗りなさいな」と言った。


「俺ぁ 黒鋼くろがね

 つかここどこだよ」


 黒い男__黒鋼は、「なんだ?まわりの妙な建物は」と、辺りを見渡していた。


「日本よ」

「ああ?俺がいた国も日本だぜ」

「それとは違う日本」

「わけわかんねぇぞ」


 黒鋼は「さっぱりだ!」といった表情だ。

 魔女は白い男の方を向く。


「あなたは...」

「セレス国の魔術師ウィザード

 ファイ・D・フローライトです」


 白い男__ファイは、名を名乗ると魔女に対し会釈をした。

 最後に、魔女は海の国の娘の方を向いた。


「あなたは?」

『私は、海の国の第二皇女、

 水月と申します。

 我が祖母より貴女様に、

 預かり物がございます』


 水月はそう言って、懐から上質な布に包まれたかんざしを取り出し、魔女に渡した。


『“長々渡せず申し訳ありません。

 約束の品です”、と

 祖母より言伝ことづかっております』

「...あなたのおばあ様は...」

『亡くなりました』

「...そう。確かに、受け取ったわ」


 魔女は簪を受け取ると、視線を移し、「ここがどこだか知ってる?」、と、話を戻した。その魔女の問いにに答えたのは、ファイだった。


「え__

 相応の対価を払えば

 願いを叶えてくれる所だと」

「その通りよ。さて、

 貴女たちがここに来たということは

 何か願いがあるということ」


「「元いた所」」

「へ今すぐ帰せ」

「にだけは帰りたくありません」


 正反対の二人の望み。

 黒鋼はファイをギロ、と睨み付けた。


「...あなたは?」


 魔女は水月に願いを問う。


『探し人がいます。

 ...“半身”を見つけ出すまでは、

 帰ることはできません』


「それはまた難題ね。三人とも。

 ...いいえ。四人とも、かしら。

 その願い、あなたたちが持つ

 もっとも価値のあるものでも

 払いきれるものではないわ

 ...けれど、四人一緒に払うなら

 ぎりぎりって所かしら」


「なにいってんだてめー?」

「ちょい静かに頼むよぉ

 そこの黒いの」

「黒いのじゃねぇー!黒鋼だっつの!!」


「あなた達四人の願いは同じなのよ」


 と、魔女は静かに告げる。


「その子の飛び散った記憶を集めるために

 色んな世界に行きたい。


 この世界から元の世界に行きたい。


 元の世界へ戻りたくないから

 他の世界に行きたい。


 人を探すために他の世界に行きたい。


 目的は違うけど手段は一緒。

 ようは違う次元、異世界に行きたいの。

 ひとりずつではその願い

 かなえることはできないけれど

 四人一緒に行くのなら

 ひとつの願いに四人分の対価ってことで

 OKしてもいいわ」


 願いを叶える為の対価。


「俺の対価ってなんだよ」


 それは、その人にとって大切なもの。


「あなたたちの対価は、その刀」


 魔女は黒鋼と水月の刀を指差す。


『ッ!』

「なっ!

 銀竜はぜってー渡さねぇぞっ!!」

「いいわよ。

 そのかわりそのコスプレな格好で

 この世界を歩き回って

 銃刀法違反で警察に捕まったり

 テレビに取材されたりするがいいわ」


 魔女はずいっと黒鋼に近づき、そう言った。黒鋼は「あ?けいさ?てれ?」と、何を言っているのかわからない様子だった。


「今、あなたたちがいるこの世界には

 あたし以外に異世界へ人を

 渡せるものはいないから」

「んなデタラメっ!」

「本当だぞー」『本当ですよ』


 黒鋼は「マジかよ!?」と、魔女を指差し、ファイはへにゃっと笑い、水月は無言で頷いた。

 魔女は、「どうするの?」と、手を差し出して言う。


「くっそー!

 絶対「シュ」を解かせたら

 また戻ってきてとりかえすからな!」


 黒鋼は、一時的に、といった感じで、その刀を魔女に差し出した。


『(...「シュ」?)』

「あなたはどうする?」


 対価を差し出すか、差し出さないか。

 魔女は水月に、どうするのかと視線を向ける。


『...仕方、ありませんね』


 水月は腰にある蒼い玉のついた刀を魔女の目の前に差し出す。


『お受け取りください』

「もう一つもよ」

『!』

「あなたの刀は二つで一つ。

 片方だけじゃ意味をなさないわ」

『…わかり、ました』


 水月はもう一つの、赤い玉のついた刀を魔女の前に差し出した。

 水月の対価は水月から離れると、魔女の横に独りでに動いた。


「あなたの対価はそのイレズミ」

「...この杖じゃダメですかねぇ」

「だめよ。言ったでしょ。

 対価はもっとも価値のあるものをって」


 ファイは諦めたように苦笑した。

 ファイが「仕方ないですねぇ」と言うと、彼の背からそのイレズミが浮かび上がる。


「あなたはどう?

 自分の一番大切なものを

 あたしに差し出して

 異世界に行く方法を手に入れる?」

「はい」

「あなたの対価が何か

 まだいってないのに?」

「はい」

「あたしができるのは

 異世界へ行く手助けだけ

 その子の記憶のカケラを探すのは

 あなたが自分の力で

 やらなきゃならないのよ」

「......はい」

「...いい覚悟だわ」


 バタバタと走りながら「ってふえてるしー!」と叫ぶ眼鏡をかけた少年。その腕には白と黒の生き物?が抱えられていた。

 その内の白い方が魔女に渡される。


「この子の名前はモコナ=モドキ。

 モコナがあなた達を

 異世界へ連れて行くわ」

「おい、もう一匹いるじゃねぇか。

 そっち寄越せよ。俺ぁそっちで行く」


 ほら寄越せ、と言わんばかりの態度で眼鏡の少年に手を向ける黒鋼。


「そっちは通信専用。

 できることはこっちのモコナと

 通信できるだけ」


 その言葉に黒鋼は舌打ちをした。


「モコナはあなた達を

 異世界に連れて行くけれど、

 そこがどんな世界かまでは

 コントロールできないわ。

 だから、いつ、あなた達の願いが

 叶うのかは運次第。


 けれど、世の中に偶然はない。

 あるのは必然だけ。


 あなた達が出会ったのもまた、必然。

 小狼シャオラン、あなたの対価は....関係性

 あなたにとって一番大切なものは

 その子との関係。

 だからそれをもらうわ」

「それってどういう....?」

「もし、その子の記憶がすべて戻っても

 あなたとその子はもう同じ関係には

 戻れない。

 その子はあなたにとって なに?」


「幼馴染みで...

 今、いる国のお姫様で....

 俺の...

 俺の大切な人です」


「...そう。

 けれど、モコナを受け取るなら

 その関係はなくなるわ。

 その子の記憶を

 すべて取り戻せたとしても

 その子の中にあなたに関する

 過去の記憶だけは決して戻らない。

 それがあなたの対価。

 それでも?」


「...行きます。

 さくらは絶対死なせない!」


 少年の瞳に浮かぶ、覚悟の色。

 強い子だな、と、水月は思った。


「...異界を旅するということは

 想像以上に辛いことよ。

 様々な世界があるわ。

 例えば、そこの三人がいた世界。

 服装を見ただけでも分かるでしょう。

 三人とも、あなたがいた世界とは違う。

 知っている人、前の世界で会った人が

 別の世界では全く違った

 人生を送っている。

 同じ姿をした人に色んな世界で

 何度も会う場合もあるわ。

 前に優しくしてくれたからといって

 今度も味方とは限らない。

 言葉や常識が全く通じない世界もある。

 科学力や生活水準、

 法律も世界ごとに違う。

 中には犯罪者だらけの世界や

 嘘ばかりの世界や

 戦の真っ最中という世界もある。

 その中で生きて旅を続けるのよ。

 どこにあるのか、何時いつ

 すべて集まるのかわからない

 記憶のカケラを探す旅を。

 ....でも、決心は揺るがない......のね」

「...はい」

「覚悟と誠意。

 何かをやり遂げるために必要なものが

 あなたにはちゃんと

 備わっているようね」


 魔女が「では」と言うと、彼女の手の上のモコナが浮き、モコナの背に翼が現れる。


「行きなさい」


 水月たちはモコナに吸い込まれた。


「....どうか、

 彼らの旅路に幸多からんことを」



 雨が、止んだ。