飾られたガラクタ箱

卯月姫@花雪
@hanahanasikihim

想像空白論

他愛もない話をしていた。


確かローレライの名前についての話だった。


私の友達は〝胡蝶の夢〟と同じ胡蝶を見ていることを知った(同じ胡蝶、とは言い得て妙な表現であるような気はする)。

幸いにも彼女はまだこちら側に居るけれども。

彼女はきっと考えることが好きなのだと思う。彼女は、よく自分の持っている価値観を私に提示してくれる。


日が完全に落ちる前、ほの暗い帰り道を白い自転車を押す彼女と並んで、意味も内容も無いような話をしながら歩く、その時間が私は結構好きだ。

今日だって(きっかけなんてどちらも覚えていないが)〝卵が先か鶏が先か〟や、人類五分前仮説の話が突然始まり、お互いの考えを音にして、たまに同調して笑って……


そんな時だった。

〝胡蝶の夢〟の話になったのは。


「もしかしたら、今この瞬間は、覚めれば薄れてしまう夢なのかもしれない。」

彼女は言った。


「もしかしたら、本当はこの世界の全てが皆、私の想像なのかもしれない。」

彼女は言った。


「だって不思議じゃない?私は毎日こんなにたくさんのことを目まぐるしく考えてしまうけど、他の人も同じように、こんな風に何かをたくさん考えているなんて信じられない。」

また彼女は言った。


「私以外の誰の頭の中も私にはわからない。『性格』って言葉だって、いちばん不確定なものでしょう?道行く人それぞれが、私と同じように何かを考えて、でもそれは誰とも混じり合わないなんて、そんな不思議なことある?

だから、私以外の全員は、私の想像なのかもしれないって考えも、あながち間違いではないと思うんだよ。」


「たまに思うんだけど、人だけじゃなくて周りの建物も何もかも、本当は空白なんじゃないかなって。私は本当は空白の中を歩いているから想像で補っているんじゃないかって。」

そう告げた彼女に私は思ったことをそのまま口にした。

「そう思うと、ちょっとこわいね。」

「うん。そうかも。」

「想像空白論って名付けようか。」

「あぁ、いいね。それ。」


こうやって名前をつけてしまえば、私たちは創造主にだってなれるんだよ。

彼女の想像空白論を聞きながら、私は目の前に建っている建物をぼーっと見つめていた。

もしも彼女の言う通りなら、いつも別れる十字路も、最近美しく咲いた庭の蝋梅も全部空白なのだ。

それはおそろしいことだ。だがしかし美しい。


人類が五分前に誕生したことを誰も否定できないように、彼女の想像空白論だって不可思議に守られるべきなのだ。



著作者の他の作品

永い時を生き、それでも夢見たのは、誰かのそばにいること。

黒を纏った、雪のように美しい〝悪魔〟に、恋をしたのだと思っていた。