世の中甘いだけではないらしい☆

そーじゃの
@souzyano_note

「あーさっむ寒っ」

ふるさとさむくころもうつなり、みたいな和歌あったよね。確か百人一首。いやほんとにそのままの意味なのかは知らないんだけど。

「真守ゼッタイ寒いでしょせめて手袋でも付けたらいいのに」

「おいおい、俺を舐めるなよ?こちとら今朝自転車ですっ転んで手袋はズタボロになってんだぞ?」

「最悪のタイミングじゃん……。今日この冬最低気温更新しそうだって言われてんのに……」

隣の真守は防寒着ゼロ。いつも「俺の防寒着はこの手袋とブレザーだけだ!」って言ってたんだけどブレザーしかなくなってんじゃん。しかもブレザー別に防寒着じゃないし。穴あき手袋はとてもじゃないが防寒機能が無いんだろうな……。――ん?あれ、真守の手の辺りにある黒いのってもしかして手袋?あまりにも無残すぎてゴミが飛んでるのかと思っちゃったよ……。いやいや実際もうほぼゴミだけど。

どうやらさっきのセリフは「俺(の運の悪さ)を舐めんなよ?」と解釈すべきなんだろーな。

「凍死するよほんとに。私こんなにもっこもこでも寒いんだから!」

「じゃあそのマフラー入れてよ」

「それは冗談で言ってるんだよね?本気なら110番通報だけど、どっち?」

「まあ待て落ち着けその携帯をしまえ。別にお前にときめいてドキドキするほどの余裕は今の俺にない。寒さで」

「女子口説くなら「冗談を言ってる余裕はない」っていえばいいんやで?」

「さっき通報するって言ってただろ……」

こいつの「……」は嘆息じゃなくて震えなんだよねえ。しかしまあ女心を理解させるのは難しいと。なるほど。

「てか梓李はいっつもこの時間に帰ってるのか?あれだろ防犯面でも防寒面でも問題が発生しそうなんだが」

「んー、ちょっと塾がこの時間しか空いてなくてねー。寒いは寒いけどちょこっとだけだし。真守みたいに極薄な訳じゃないから別に凍死する心配はないと思う」

「いや、防犯防犯。この時間だしここだと街灯がほとんど仕事してないぞ。お化け屋敷の提灯のほうが明るいまである」

「あっれれー?おっかしいぞー?真守が私のこと心配してくれるなんてー。ま、大丈夫だよ。ここほっとんど人通らないからさ」

「お前ってさ……。頭悪いのかよ……」

どうやらこの「……」は呆れのため息らしい。おいおい私を馬鹿にしたな?はい処刑執行確定―。

「だーれが馬鹿よ誰が。この寒さの中制服だけでうろついてるあんたにゃ言われたくないわ」

「おっまえなあ……。いいか?犯罪者ってのはさ暗くて人気のないところに出没するんだぞ?誰が好き好んで大通りで猥褻行為するんだよ。それ社会的自殺志願者じゃねーか」

うっ!そういわれるとそうに思えてきた……。てゆうかその通りじゃん。私結構危ない橋わたってたのかな?

「なんか対策考えとけよ?あと梓李俺よりだいぶ成績低いだろ文句言うn」

「ようし分かった前半私のこと心配してくれてるのにちょっと感動したけど後半で台無しだし!武力執行確定」

「ぐほっ」

よし。私の肘打ちが真守の脇腹に突き刺さってうずくまってる。

「おま……事実じゃんか……。あと……もうちょい……手加減……しろよ……」

「やかましいわ。言葉を口にするならリスクと責任くらい背負いなさい」

「っていう茶番は置いといて」

「あんた復活はっや。割と本気でやったんだけど」

「まだ響いてるわボケ……。時間のことは家の人と相談しろよ」

「ハイハイわかったわかった」

まったく。……でも確かにこの夜道は暗くて寒いそういうことの危惧はしてなかったけどそうじゃなくても心細さを感じることはしょっちゅうだった。

「でもなんか久しぶりじゃね?小学校以来だろ一緒に帰るの。たまたま梓李見つけたけど割とレアだったな」

「はいはい、そーね。急に背後から声かけられたときは思わず防犯ブザーならしそうになったわ」

「どんだけ人間不信なんだよ……。それに防犯ブザーて、三年ぶりくらいに聞いたわ」

「鳴らすぞ」

「やめろお」

なんて、しょうもないやりとりがしばらく続く。暗い暗い夜道の中で一か所煌々と電灯をともす店があった。

「ねえ真守、私あそこのコンビニよるけど、ついてくる?」

「そーだな。暖を取らせてもらおうかな」

深夜に響く音は私たちの喋り声だけだったのだが、コンビニに入るとその静寂もいくらかなくなってしまった。

セブンマートの自動ドアと明かりが私たちを凍える世界から連れ出した。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「ありがとうございましたー」

私らを送り出す店員の声も眠そうだ。再び宵闇の中へ私たちは踏み出す。

電子音とともに自動ドアを抜けたとき、思わず「寒っ」とつぶやいてた。私が寒いなら真守はもっと寒いだろう。と、思って隣をちらっと見ると。

「」

返事がない。ただの氷像のようだ。

「大丈夫―?おーい?」

ツンツンと二回くらいすると動き出した。

「おおっと。あったかいとこに一回入っちゃうとダメだな。外気温が余計寒く感じてしまう」

「そんなことより何買ったん」

「んーいろいろ」

「仕方ないなあ……。ほれ、ココア買ったから湯たんぽ代わりに持っとき」

「おお……ありがたい」

「もうちょっと言ったら公園あるからその辺で休憩しない?」

「え、なんで。別にいいけど」


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


夜の公園はそれこそ静かで木々の囁きと周囲の家鳴りだけが聞こえる。おもむろに二人腰を下ろしたベンチはひんやりとしていて特別感がある。ガサゴソと各自のコンビニ袋を漁り、買った商品を取り出す。

「おま梓李、ほんとあっまいの好きだな。ほれ返すよ」

ココアを受け取るとじんわりと温かさが染みてきた。その時触れた真守の手もほんのりと赤みが戻っていた。

「超甘党なんですよーだ。それより真守こそ、チキン買ってるじゃん。チキンの真守にぴったりじゃん」

「ほっとけ、好きなんだよこれ。食ったら感動すんぞ」

「ヤだよ無理だよ。私辛いのあんま食べれないし」

「うっわ人生の半分以上損してるんじゃねーの?」

「うっるさいな。甘いの苦手なほうが損してると思うよ」

「まあそういうなよ」

真守が「ほれ」とチキンを差し出してきた。

「なに」

「いいから一口食ってみろって」

こいつ……。間接キスという言葉をご存知でない!?うんご存じでないようだ。下手に動揺するな私。間接キスとかいう概念にとらわれている私のほうが恥ずかしいやつみたいになってしまっているぞ!

「……ありがと」

下手なことは考えないように、受け取る。香辛料のピリリとした香りを乗せてパクっと口に含んだ。

ゑ、ゑゑ!?

ヤダナニコレおいしい!?口の中にじわじわと味が広がっていく。あ、やばい涙出てきた。まさかコンビニのチキン食べただけで涙が出てくるとは……。

「え、ちょ、ごめん、大丈夫か?そんなに口に合わなかったか?」

どうやら私が泣いているので真守に勘違いさせてしまったみたいだ。黙って首を横に振る。そしておいしかったことを伝える。

「そ、そうか。そんなに良かったのか。普段食べてなかったせいでおいしさが倍増してるとか……?はっ!俺はしょっちゅう食ってるせいで舌がマヒして逆にその感動を味わえてないとかか」

なんかどうでもいい考察が始まってしまった。

「まさかこんなにあっさり梓李に布教できるとは思わなかったけどな。物は試しってやつだな」

「……悔しいけどおいしかった」

「だろ。まあ残りは俺が食うけどな」

そうして私の手に持ってるやつにパクっと真守がかじりついてくる。

「うわあ!」

びっくりして手を離すとチキンだけさらわれてしまっていた。鷹かあんたは。それより人が持ってるのにかじりついてこられると距離がほぼゼロなんでやめてくださいあと無意識に間接キ(ry

ったく、ここがかなり暗めでよかったよ。うっかり明るいと謎に赤くなった顔を見られるところだった。

「ううやっぱ寒……」

「ったく」

さすがにここまで辱めを受けるとやってられないよほんと。

「えっ!ちょっとおい!?」

動揺しろ動揺しろ。私の白いマフラーは真守と私を同時に温める。

「……梓李。あったかいけど近いぞ」

「近いほうがあったかいでしょ何言ってんの」

「あそ」

「……」

「……」

ザ・無言っターイム☆

え、どうしよ、ノリでダブルマフラーやっちゃったけどどうしようもなく気まずいぞ!?なんか喋ってごまかそう、よし。

「ね、ねえ真守。今日何の日かわかるよね」

「あー。一応バレンタインデーだろ」

「チョコ、もらえた?」

「妹と塾の先生とクラスメートからもらったよ。計四つ」

「なるほど。本命はなし……っと」

「おい待て待て。今の流れじゃ断定できないだろ。確かにないけどさ」

「いーや、本命もらったら真っ先にそのこと言いたくなるのが男子の性ってもんでしょ」

「そんなもんか。ところで梓李」

「ん?」

「トリックオアトリート」

「……つまりチョコをよこせと」

あんたさ、それ時期が違う上に意訳すると「チョコをくれないとイタズラしちゃうぞ☆」っていう捉えようによってはかなりヤバい意味をもつんだけど、分かってる?分かってないよね、うん知ってた。

「……あーチョコね、うん」

「冗談だよ。今日会ったの偶然なのに俺の分用意してあったら怖いわ」

「それ」

「……」

「……」

「あ、星。めっちゃ綺麗じゃね。北斗七星とか久しぶりに見たわ」

見上げると確かに燦燦とオリオン座や北斗七星、冬の大三角も見える。……あんまり星座に詳しくないから他のはわからないけど無数の星と月が闇夜空にあった。

「ほんとだ。それにほら、月めっちゃ綺麗じゃない?」

「それな。……え、今月が綺麗って」

ああそういえばそんな意味を持つこともあったっけ。ちょっとおかしくてクスッと笑う。

「残念!そのまんまの意味でーす。深読みしたがるのは自称文学少年の悪い癖だぞー?」

「うわ、うっざ」

そのあともなんだかんだと他愛もない話を続けているうちに飲んでいたミルクココアはあと少し。ほとんど冷めてしまっていた。二人とも完全に夜のテンションになってる。ああ、楽しい。でも時計を見ると夜九時半。どうやらそろそろ帰路に就いたほうがよさそうだ。足元の荷物をごそごそといじくって鞄にビニール袋をしまう。それに真守も気づいたようだ。

「そろそろ帰るか、ていうかそれ俺のバッグじゃね」

「うん。あ、ほんとだ」

そういってシュルシュルとマフラーを巻く。どこか名残惜しい。……いや名残惜しくないから全然!ったく。

改めて巻きなおすとほんのりさっきまで一緒にいた真守の分まで熱が伝わってきてる気がした。

「じゃ、行くか。寒くならないうちに」

どうやら真守にもまださっきまでのあったかさは残ってるみたいだった。

ようやく今日という一日が終わろうとしている。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


あの後二人でなんやかんやしゃべりながら結局あいつの家まで送って行って帰った。

はあ、なんか疲れた。ま、梓李の奴と学校以外で話すのひっさびさだったし楽しかったからいいけど。もうすぐ十二時来るんだけど明日の予習終わってないってマジ?

鞄をごそごそあさってると見覚えのないビニール袋が現れた。中身は有名なミルクチョコレート。

「……あ」

思い当たる節が一つ。あいつ、間違えて自分の荷物を俺の鞄の中にしまったな?

「ったく」

明日学校で返そうと思って再び仕舞おうとしたとき、おかしなものが目に入る。赤い包み紙の上に黒マジックで文字が書かれている。

『宿木真守君へ』

心臓がドクっとと跳ねる。俺宛かよ。じゃああれはわざとか……。

『今日はありがとう 餅菓梓李より☆』

「あいつ……」

ひきつった笑いがこぼれる。メッセージはたった二行の短い文章。だけど十分伝わった。

「まあそういうことならありがたく頂戴しますか」

誰ともなくつぶやいて包み紙を外し茶色の光沢を見せるプレートを折る。ぺきっと小気味良い音がした。

それじゃあ、聖バレンチヌスの冥福を祈りつつ。

……甘っ。まあたまには悪くない。バレンタインデーとしちゃ最高だな。

夜空は、今日も今日とて快晴で甘い味が星々に染みわたっていくようだった。



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