好きな人の好きな奴

あずき
@azuki_3298

ずっと初恋

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べっとりと張り付くほどの暑さが遠のき、日が短くなってきた頃。


中学一年、秋。



沈みかけた夕日が作り出す影が三つ。


俺たちは久しぶりに3人で帰路についていた。



「俺今日もサムに間違えられたわ!」



中学に入って半年ほどだったが、俺たちは未だによく間違えられる。

だからこんなことはよくあることだった。



「ほんで?」

「サムになりすまして答えたったでー」

「は!?なにをや!」



こいつはまた余計なことを。

返答によってはど突くぞほんまに。


俺は呆れ気味に片割れの返事を待った。



「好きな女の子のタイプや」



俺と優は同時に吹き出した。


こいつはほんまにどうしようもない奴やな。


俺は侑の学ランの襟を掴んだ。



「ちょお、まてまて!どうせ一緒やろ好みなんか!」



慌てて俺を制す侑に怒りがこみ上げてきたが、一応なんて答えたか聞いてみることにした。



「なんて答えたんや」

「おっぱいの大きいおねーさん」



侑はそう言って顎の下で両手をグーにする。

なにが「きゃは!」や。

しばく。ほんまにこいつしばき倒したる!


俺が利き手をグーにした時、優のいつもの数倍低い声が鼓膜に届いた。



「さいてー」



慌てて振り返れば優はすでに背中を向けていて、数メートル先を一人で歩いていた。



「おい、ちょおまて!」



侑を放り投げて、走って追いかける。



「優!誤解やって!」



ものの数秒で追いついたはいいものの、優は明らかに不機嫌になっていた。



「俺をあんな猿と一緒にすんな!俺はなあ…っ!」



……俺は、なんや。

今なんて言おうとした?


俺に好きなタイプとかあるんか。

そんなこと考えたことない。



優の不思議そうな目がこっちを見ている。



「や、だから、俺は……」

「おい!サム!聞こえたで!!誰が猿や!!」



俺が言葉に迷っていれば、喧しい奴が追いついてきた。



「大体なあ!俺とお前おんなじ顔しとるんやから俺が猿やったらサムも猿やで!」



怒った顔で侑が言い放ったそのセリフはなんともバカらしいものだった。



「ばかじゃないの」



俺の気持ちを見事に代弁したのは優で、止めていた足を再び動かした。



「大体好きなタイプってそういうことじゃないでしょ」

「どういうことや!」



侑の声が誰もいない通学路に響く。



「む、胸が大きい年上のお姉さんなんて侑のこと相手にするわけないでしょ!」



言いにくそうに"胸"と口にした優の頰は少し紅いように見える。それが羞恥からくるものか、はたまた夕日の光のせいか。



「なんやと!」



今度は俺ではなく優に飛びついた。


その距離の近さに思わず眉を顰める。



「だーかーらー!好きなタイプっていうのは例えば優しいとか、料理が得意な子とかそういうことなの!」



侑の声に負けないくらい大きな声で優は侑を押しのけた。



「はあ?そんなん考えたこともないわ!」



なあサム!と振り返った侑の頭をど突く。



「じゃ、じゃあ……」


痛い痛いと騒ぐ侑を無視していれば、優が控えめに口を開いた。



「ロングヘアとショートヘア、どっちが好き?」



振り返った優の髪は、先ほどの侑との抗争ですっかりボサボサになっていた。



「ショートヘア!」



間髪いれずに即答した侑の隣で、俺は優へと視線を向けた。



腰まで伸びた優の長い髪は夕日に照らされて、いつかのあの日と同じようにキラキラと輝いている。


優は出会った時からロングヘアだ。



「……ロングヘア」



俺は少しの間を空けてそう答えた。


なんだか気恥ずかしくて、俺は続けて口を開く。



「優は好きなタイプとかあんの?」

「はあ!?」



驚いたように目を丸くした優の顔はみるみるうちに紅く染まっていく。


今度はもう夕日のせいなんかじゃなかった。



「な、ないよ!」



怒るように言い放って優勢いよく振り返る。



「帰るよ!」



そんな声に俺らは慌ててその少女の後を追った。





そうか、優にも好きなタイプとかあるんやな。



熟した果実のように顔を染めた優の表情からすれば、もしかしたら好きな人だっているのかもしれない。



そんなふうに考えを巡らせれば、胸の奥がチクリと痛んだ。




その痛みの正体も、優の好きなタイプも、俺が知るのはこれからすぐのことだった。






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