好きな人の好きな奴

おもち(元あずき)
@azuki_3298

さよなら初恋

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。



バレー部がいつも練習している第三体育館へと続く渡り廊下を歩く。


日が長くなった空にはまだ眩しいくらいの太陽が輝いている。



「あれ?音がしない……?」



野球部がランニングに勤しむ声がグランドから聞こえてくるけれど、目の前の体育館からは全くと言っていいほど物音がしない。


私は思わず足を止め、頭を抱える。


いつもは朝、放課後、土日も休みなく練習に励むバレー部も今日は休みなのかと踵を返したその時、見慣れた銀髪と目があった。



「あれ、優やん。なにしとん」



正しくは銀髪と目があったのではなく、銀色の髪をした幼馴染と目があった。



「侑にプリント渡しに来たんやけど、今日部活休み?」

「ああ、点検や。体育館点検」



なるほど、と納得して侑の双子の片割れである治にプリントを渡してもらおうと思った時、派手な金髪が目に入った。



「あ!あつ、む……」



"侑"と発せられるはずだった私の言葉は弱々しいほどに萎んでいく。


私の声につられて同じほうを向いた治が「あー新しい彼女か」と呟く声がやけに遠くに聞こえた気がした。



恋い焦がれるほどに見つめ続けた金髪の男の隣には、腰まで伸びた髪を綺麗にカールさせている女の子が並んでいた。


たしかあれは先輩だな。大人っぽくて美人だと女子の間でも話題になる女の人。


短いスカートから覗く白い足がなんだか色っぽいなと、見当外れなことを頭の片隅で考えた自分がいる。



昔『ショートヘアとロングヘア、どっちが好き?』という質問を幼馴染2人にしたことがある。


そのとき侑は間を空けずにショートヘアと即答した。

治はしばらく考えた後、ロングヘアって言ってたっけ。

それを聞いた幼い私は、当時肩より数センチ下まで伸びていた長い髪をバッサリと切った。

侑にかわいいと言って欲しくて、馬鹿みたいに大事に伸ばしていた自身の髪を。



髪を切ったからって好きになってもらえると思っていたわけではない。


ただ少しだけでも好きな人の好きなタイプに近づきたかった。

少しだけでも好きな人の目に女の子として映っていたかった。

少しだけ、少しだけ……。



どれだけ外見だけをタイプに近づけたって、中身が伴ってなければ意味をなさないのに。



私は肩に少しつくくらいの自身の髪をそっと撫でる。

細くてすぐに絡まってしまう髪質は持って生まれたもの。


綺麗に巻かれた艶々な先輩の髪とはほど遠い。



私はクルリと毛先を指に巻いて、一つ息を吐き出した。




「俺にしとけよ」



いつのまにかすぐ近くまで来ていた治の影が私に覆いかぶさる。



「……え?」



間抜けな声とともに顔を上げればそこには形容し難い顔があった。


苦虫を噛み潰したように眉を寄せた治は苦しそうにも、悲しそうにも見えた。


薄く噛まれた唇からは血の気が引き、白くなっている。



「な、なに言って……」

「あんな奴やめて俺にしとけばいいやん」



治はもう一度口を開いた。


より一層眉は顰められ、眉間の皺は深くなる。



治の言葉が頭の中をぐるぐると回り、その意味を理解した瞬間、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。


全身の血が湧き上がったかのような熱さを感じたかと思えば、頭はびっくりするくらい冷えていくようだった。



「お前があいつを好きなんは知っとる。でも、」



そっと両肩を掴まれ、治の影が段々と近づいてくる。



いつもは頭一つ分以上も上にあるその顔がもう目前まで迫っている。



「でもそんな顔するんやったら、もうやめとき」



治の頭が私の右肩に乗せられた。


少しの重みを運んで来たそれは驚くくらい熱くて、私の肩から全身に伝わるようだった。


つむじの部分が少し黒くなった銀色の髪の毛は、私の髪の毛より太くてごわごわしていて、それが首筋に当たるたびくすぐったい。



「なん、で……」



なんで知ってるの


そんな言葉は衝撃のあまり声にならない。


それでも治はその意味を汲み取って、私の肩口で口を開く。



「気づかんわけないやろ。俺ら何年一緒におると思ってんねん」



当たり前やろとぼそりと呟かれた声はもう消え入りそうだった。



これは現実ではないと、悪い夢だと思いたいのに、私の肩に確かにのしかかるその重みがこれは現実だと告げている。


体中の熱がずっと右肩に集まっているようで、私はもう立った心地さえしなかった。



「その髪」

「……へ?」



のそりと顔を上げた治はゆっくりと私の髪へと手を伸ばす。


生暖かい夏の風が吹き抜けて右肩の熱が冷めていくというのに、今度は触れられた髪の毛に意識が集中していくようだった。



「俺は好きやで」



眉間の皺はすっかりなくなったけれど、寂しそうに下げられた眉に息を飲んだ。



「俺、昔ロングが好きや言ったけど、ほんとはなんでもええねん」



幼い頃の記憶が頭をよぎる。

まだ2人の頭が黒かったあの時。


ショートヘアと答えた侑と、ロングヘアと答えた治。



「あん時お前が髪長かったからロングって言っただけやねん」



ドクリと心臓が脈打って、顔に熱が集まる。


あの時私は侑のことばっかり見てて、治はそんな私をずっと見ていたのだろうか。



「もうずっと前から好きやねん」



治はまっすぐと私の目を見て言い切った。


あの頃とは違う、低く掠れた男の声で。



ゆっくりと引き寄せられた体はそのまま治の胸へと倒れこむ。

ひどいくらいに優しく抱きしめられて、私は声を出す術をすっかり忘れてしまったようだった。


治の匂いに包まれて、私は何故だか泣きたくなった。





胸の奥から込み上げてくるこれは嬉しさか、それとも悲しさか。





ああ、どうして。


どうして私は侑が好きなんだろう。


どうして治は私が好きなんだろう。



どうして、どうして私が好きなのは治じゃないんだろう。




煩いくらいに騒がしい心臓とは正反対に、こんな最低なことを考えられるくらいには頭は冷静だった。



頰に何か温かいものが流れたことには気づかないフリをして、私は自分の手を固く握り締めた。


4 / 4