君の気持を教えて

かいわれ
@tatannotatann

 大広間の出口のすぐ近く、そこで寄り添うように集会の道行きを見ていた伊達の三振り。

 誰よりも早く大広間に集まり、偽のこんのすけが部屋に”何か”をしているのを目撃していた三振りは、担当の言葉で正確に事態を把握し動いていた。

 燭台切と大倶利伽羅は弾かれたように襖に手を伸ばし、太鼓鐘はバネのように立ち上がる。

 速さを優先し、立ち上がらずに上半身を伸ばした燭台切と大倶利伽羅の選択は功をそうし、二人は術式の完成前に襖を開け放つ。その二人が作った道に、太鼓鐘は突進する勢いで突っ込みにかかる。

「間に合えーーー!」

 小柄な体が出口に飛び込む。無理な姿勢で襖を開けた燭台切と大倶利伽羅は畳に倒れ伏した。

 直後、術式は完成する。太鼓鐘の体は廊下に衝突していた。

「みっちゃん!伽羅!」

 慌てて振り向いた太鼓鐘の目の前。結界のようなもので囲まれた大広間。

「貞!鶴丸と山姥切を……!」

「貞ちゃん!お願い!」

 結界の中に残った大倶利伽羅と燭台切は、その言葉を最後に幻のように掻き消える。直後、刀が床にあたる嫌な金属音が響いた。二振りの分だけではなく、幾つも。

 大広間に残った刀剣男士が刀に戻された音だ。

「くそっ……!」

 部屋の外、友が、仲間が姿を解かれた悔しさに太鼓鐘は悪態をつく。

 しかし、今はやるべき事が、託されたことがある。太鼓鐘は冷たい空気を切り裂きながら全速力で廊下を走り出した。


 部屋の中、術式を完了させた偽のこんのすけは担当に声をかける。

「太鼓鐘が逃げたようです。追いましょうか?」

「必要ない。術式の発動時点で部屋に居たのだ。術式の効果は受けている。そのこらへんで刀に戻るだろう」

 タイムリミット付きの体で出来ることは限られている。鶴丸と山姥切を助けにいったようだが、拘束部屋の術式は一振りでどうにかなるものではない。担当はそう判断した。

「待機させていた奴らを呼ぶ。審神者を捕らえに行くぞ」

「了解しました」

 担当は偽のこんのすけを連れ外に出る。

 ――俺の勝ちだ。

 まるで本丸の主のように、担当は悠々と歩いて転移門へと赴いた。



 各々が最速で迷いなく動いたと言うのに、後手に回った影響は深い。体から力が抜けていく感覚に太鼓鐘はすぐ気がついた。

 鶴丸と山姥切がいる場所は本丸の隅。太鼓鐘は己が短刀で良かったと痛感していた。

 全ての力が抜き取られる前に、刀種最速の速さは二振りが拘束されている部屋に辿り着くことを可能にする。

「いくぜ……!」

 辿り着いた部屋に、駆ける勢いをそのまま衝撃に変えるように太鼓鐘は突っ込んだ。

 ガキンッとまるで石に刃を立てた時のような鈍い音があたりに響く。一撃でどうにかなると思っていなかった太鼓鐘は、気にせずさらに連続で切り付けた。

 時間がなかった。

 本丸の刀剣男士が全て動けなくなってしまっては、審神者を守る者がいなくなる。神気浸食を行った鶴丸国永の所在すら掴めていない現状で、それは何としても避けなければいけない。


「何の音だ!?」

「戦闘かっ!?」

 中から鶴丸と山姥切の声が聞こえる。全く状況の分かっていない二振りに、説明している時間さえも惜しい太鼓鐘は斬撃の合間に簡潔に叫んだ。

「主が危ないんだ!」

「その声は貞坊か!」

 鶴丸の声に返事を返す時間さえ惜しみ太鼓鐘は刀を振るう。しかし、二振りを拘束する術式は、手ごたえはあるもののその刃をはじき続ける。時間が足りないだけでなく、一振りではこの術式は解けない。

 太鼓鐘はもう背景が透けて見えるほど顕現が解けかかっていた。

「くそ……!顕現が……!」

 それでも諦めず刀を振るい続ける太鼓鐘。


 そんな仲間に黙っていられるほど、部屋の中にいる二振りは腑抜けではない。


 キンッキンッという太鼓鐘より軽い音が二つ、部屋の中から響いた。

「鶴丸、やはり中からだと固いなんてものじゃないぞ!」

「だが、全く意味がない事はないだろう!」

 太鼓鐘の斬撃の合間を縫うように、部屋の中からも絶えず刀の音が響く。

 一振り破れないと言うならば三振りで。

「貞坊!同時に攻撃を!」

「ああ!」

「いくぞ……!」

 太鼓鐘は最後の力を振り絞り、その刃で術式を貫いた。



 斬ったという感触を山姥切と鶴丸国永が確かに感じた直後、部屋の外でガシャン、と響く金属が床とぶつかる音。

 それが刀の落ちる音であることを直観的に分かった二振りは、嫌な予感に弾かれるように襖に手をかけた。

 さきほどの一撃で術式は確かに破れたようで、スパンと勢いよく開かれた襖の向こう。視線を下に向けた二振りは、ぽつんと太鼓鐘貞宗が刀と鞘だけで廊下に落ちていることに驚く。

「どういうことだ!顕現が解けたのか!?」

「鶴丸、主じゃない術式の気配だ!」

「無理矢理解かれたのか……!」

 山姥切は数時間、鶴丸は二日ぶりに部屋の外に出たのだが、それに感慨を抱く余裕はない。二振りからしたら、突然太鼓鐘がやってきて術式に切りかかり出した、というよく分からない状況だ。しかし、よく分からないと言うのに良くない事が起こっていることだけは、やはり如実に分かった。冷たく強い風が二振りに吹き付ける。

「主が危ないと言っていた!」

「ああ、主の部屋に急ごう!」

 抜き身だった太鼓鐘を鞘の中に戻し、念のため近くの部屋の中に隠した二振りは、主が籠城しているはずの部屋に向けて走り出した。


 空気は酷く冷たく、本丸には疾走する鶴丸と山姥切の足音ばかりが響き、二振りは表情を強張らせる。

「……山姥切、静かすぎやしないか?」

「気配がしない。……俺たち以外の顕現は解かれていると見た方が良い」

 あれほどいた刀剣男士たちの音も、気配もない不気味な静寂に支配された本丸は、まるで知らない場所のような錯覚を二振りにもたらす。しかし、地の利さえも奪われたような心細さを感じながらも、足を止める愚行など山姥切も鶴丸も侵さない。

 仲間がいないと分かれば分かるほど、託された使命の重さは増しているのだ。


「――待て、鶴丸!」

 あと少し、曲がり角の先にある渡り廊下の向こうが審神者の部屋、という場所まで来たところで、先行していた山姥切は唐突に足を止めた。

「……鶴丸国永か?」

 山姥切の手が刀に添えられていることに気がついた鶴丸は、現在判明している敵の中で一番厄介な名前をあげる。しかし、山姥切は首を横に振った。

「……そうだったらまだ良かった」

 その声音には隠し切れない苦戦の色が滲んでいる。

 鶴丸は自らが偽のこんのすけから辿り着いた結論を思い出した。審神者と刀剣男士を陥れたい<組織>の存在。


「歴史修正主義者だ。一部隊が揃っている」

「どうして本丸の中に!?」

「担当の気配がある。あいつが入れたんだ」

「裏切者が……!」

 鶴丸は忌々しげに言い捨てた。山姥切は布の下から廊下の先を怒りの眼差しで睨みつける。

 しかし、怒り敵をなじったところで現状が変わる訳ではない。二振りで一部隊を殲滅しなければこの本丸に未来はないのだ。


「……山姥切、君の練度はいくつだ?」

「69だ」

「俺は47。……敵の構成は?」

「大太刀が三、太刀が二、打刀が一」

 先に山姥切の方が気づけたのは、敵の編成が偏っていたおかげのようだ。しかし、それを素直に喜ぶことはできそうにない。

「……本丸への襲撃というのに、室内戦を捨てた編成とは余裕じゃないか」

 想像以上に高火力な編成に、鶴丸は苦し紛れに悪態をついた。しかし、敵は刀剣男士を封じ込めた上で襲撃しに来ている。実際に室内戦など想定する必要などないだろう。

 ならば何故、火力重視の一部隊を寄越しているのかという疑問はあるが。

「主を守る結界はかなり強固だ。壊すために火力を取ったのだろう」

 こんのすけが緊急時にのみ作る絶対防御の砦。精密に気配を感じ取れる山姥切は、結界の高度さを敏感に察知していた。

 そして。

 術式の持つある程度の性格も、気配から感じ取る。


「――鶴丸」

 その声は、この絶望的な状況においてよく通った。

 鶴丸はその一言だけで、状況打破の希望があることを知る。しかし、説明してもらわなければなるまい。

「……山姥切、君が今何を考えているか、俺に教えてくれないかい?」

 いつもの台詞でもって聞かれた山姥切は、しかしいつもより布をあげ好戦的な笑みを浮かべながら答えた。

「結界から攻撃的な気配がするな、と」

「流石、俺たちのこんのすけは違うな」

 結界は審神者を守る最後の砦。ただの結界をこんのすけが張る訳がない。



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