君の気持を教えて

かいわれ
@tatannotatann

 転移門は各本丸によって形が違い、この本丸のものは鳥居の形を模している。本丸から少し離れた木々の開けた場所にひっそりと佇むそれは、装置を稼働させていない現在はただの鳥居にしか見えない。しかし、その前には岩融と今剣が狛犬のように微動だにせず立っていた。ここの警備を担当しているようだ。

「やまんばぎりくにひろ、ここもみにきてくれたんですね!」

「おお、よく来てくれたな!」

「あ、ああ」

 声をかけられ、また何か言われるのではないかと身構えた山姥切だったが、警備中だからだろう、二人はそれ以上声をかけては来なかった。……今剣は瞳をランランと輝かせ、岩融はニヤニヤと妙な笑みを浮かべていたが。

 ――お、俺はそんなに分かりやすいことを言ったのだろうか……?

 たまたま証言できたから鶴丸を庇った場合と、何か違うことでも言っただろうかと山姥切は考える。しかし、別段おかしなことは言っていない。現に三条と源氏以外には特に気づいている者もいないようだった。

 源氏は惚気というヒントを持っていたが、三条はノーヒント。それなのにどうして気づくのか。げに恐ろしかな三条派。


 あからさまな二人の視線に山姥切は段々と恥ずかしくなってきた。しかし、逃げる訳にはいかない。髭切の言う通りこの事件が本丸の外に関係があると言うならば、唯一外との繋がりがあるこの場所は一番手掛かりがある可能性が高い。

 ――手がかりを見つけて、早く鶴丸に会うんだ。

 草木をかき分け、目を皿にして。山姥切は一か所一か所に全神経を集中させながら探索した。

 

 それが、いけなかったとでもいうのだろうか。


「ッ!?」

 背後で転移装置が起動していたと気づいた時、立ち上がろうとした山姥切は地面に引き倒されていた。地面とぶつかる衝撃と共に、体に何かが巻き付き締め付けてくる痛みが走る。

「やまんばぎり!」

 今剣はその速さで駆けつけ、山姥切の体に巻き付く紙のようなものを切り裂く。転移門の前では、飛び出してくる無数の人型の紙を岩融が切り落としていた。しかし、その数を大柄の岩融一人で相手取るのは難しい。

 今剣が山姥切の拘束を解いた安堵の一瞬、岩融と今剣を超えた紙の一枚が山姥切の口をふさいだ。


「っ!?」

 得体の知れないものに貼りつかれた嫌悪感で、山姥切はすぐさま紙を剥がしにかかる。しかし、確かに紙があるはずなのに、まるで皮膚と同化しているかのように境目が分からない。

 ――口が開けない!


「てをどけてなさい!」

 顔もろとも切れても手入れで治る。今は得体の知れない紙を剥がすのが先決、と今剣が刀を構え、異存のない山姥切はすぐさま手を離す。しかし、こういう時に限って動きよりも言葉の方が早いのだ。


「なりません!」

 聞いたことのある声だった。

 必ず最速で結果を持ち帰ってくると、そう言ってくれたものと同じ声。仲間の声に今剣の切っ先は止まった。

 転移門が揺らめき、向こう側から影が二つ現れる。一つは先ほどの声の主であるこんのすけ、もう一つは勝ち誇った笑みを浮かべた担当の男。

 ――こいつ……!

 反射的に山姥切は口を開こうとしたが、このための物なのだろう。口が開かない。さらには全身に力が入らなくなり始め、ひどい眩暈で景色が歪みだした。


「今剣様、山姥切様の拘束を解いてはなりません!……貴方様も罪に問われてしまいます!」

「どういういみですか、こんのすけ!」

「何故山姥切を拘束する必要がある!」

 今剣と岩融の言葉に、こんのすけはひどく辛そうな声色で答えた。

「……神気の調査の結果、微量ながら山姥切国広様の神気も検出されたのです」

 ――違う!違う……!

 布が落ちることも、眩暈が酷くなることも構わず、山姥切は首を振った。定まらない視界では、今剣と岩融がどんな表情をしているか分からない。


「私めも信じたくはありません!……ですが、鶴丸国永の神気もこの本丸の個体と一致する結果となったのです……。もう、鶴丸国永様と山姥切国広様の共犯としか……」

 ――嘘をつくな!

 山姥切は酷い視界の中でも気配で位置を読み取り、こんのすけを射殺さんばかりに睨みつけた。

 そんな山姥切の様子に担当は愉快気に目を細め、今剣と岩融に声をかける。

「山姥切国広を鶴丸国永のいる部屋まで連行します。逮捕状が政府から出ていますので。こんのすけは審神者様にご報告を」

 ――こんのすけを主に会わせては駄目だ!そいつは、そいつはうちのこんのすけじゃない!

 山姥切は最後の力を振り絞ってこんのすけに掴みかかろうとする。しかし、力の抜けた体で、下も分からぬほどひしゃげた視界で上手くいくはずもなく。

「「山姥切/やまんばぎり!!」」

 岩融と今剣の呼び声を最後に山姥切は地面に倒れ、その衝撃で意識を失った。



 本丸の隅の部屋だった。部屋の中こそ自由に動けるが、中から外には一切接触できない術式がかけられた窓のない部屋。その部屋の主となっていた鶴丸は、予想外に増えた新たな住人に、放り込まれてきた恋人に、何一つわけが分からなかった。

 それなのに、とてもまずい状況だという事だけは明確に分かってしまうのは、なんて残酷なことなのだろうか。


「山姥切、山姥切…!どうして、君までこんなところに……!」

 ぐったりと意識を手放している山姥切に、鶴丸は必死に呼びかける。

 山姥切の口を塞いでいた紙は、部屋に入った瞬間に力を無くしたように剥がれ落ちていた。鶴丸国永だけではないが、長く生きている刀剣男士はほとんど術の心得がある。その対策なのだろう、この部屋の中では術の類は全て無効化されるようだ。

 しかし、呪らしきものが解かれたとはいえ、どうして意識を失ったかさえも知らない鶴丸は、このまま折れてしまうのでないかという恐ろしい想像を振り払えない。全身から血の気が引き寒さで手足が震えだしていた。


 ――俺が巻き込んでしまった……!

 縋りつくようにして山姥切を呼んでいた鶴丸は、唇を噛む。

 恐らく敵にとって絶対の切り札だった神気。それに強烈な一太刀を浴びせたのは山姥切だ。山姥切のおかげで、あの神気は鶴丸に罪を擦り付ける物から、鶴丸の無実を証明する物に変わった。山姥切が敵の恨みを買った可能性は高い。

 ――俺のせいで……!

 守ろうとしてくれたのに同じところに追いやってしまった。その事実に、鶴丸は己の存在そのものを恨み始め。


「つるまる……?」

 ぎりっと血がにじむほど唇を噛んだその音が聞こえたのだろうか。山姥切がうっすらと目を開ける。

「山姥切!よかった……!」

「鶴丸……?」

「ああ、俺だ!君の鶴丸国永だ!」

 まだ頭が回っていないのか。山姥切はぼんやりとした表情のまま鶴丸の顔に手を伸ばした。鶴丸はその手を重ねるように握る。


「どうした?どこか痛むのか?」

「『……あんたが、今何を思っているのか、俺に教えてくれないか?』」

 一瞬、鶴丸は気づくのが遅れる。

 それはいつもは己の声で紡いでいた言葉だったから。

 鶴丸の血のにじむ唇をそっとなぞって、山姥切はもう一度繰り返した。


「『あんたが今何を思っているのか、俺に教えてくれないか?』」


 山姥切の素直な気持ちが知りたくて、鶴丸が何度も紡いできた言葉。

 無視することもできただろうに、山姥切はこの言葉でもって聞かれた質問には、言いたくないことも全て素直に答えた。それを知っている唯一人が、誤魔化しや無言でやり過ごす事などできる訳がない。

 鶴丸は寒さで震える唇をゆっくりと開く。

「……君を、巻き込んでしまった」

 その声は後悔に濡れていた。

「俺のせいだ!俺のせいで君までこんなところに来てしまった……せめて君だけでも助けたいが、俺にはどうすることもできない。何と詫びをすればいいかすら分からない……!」


 見たことのない暗い顔で瞳を激しく揺らしながらそう懺悔した鶴丸に、山姥切は心を痛めた。しかし同時に”そんなことか”とも思っていた。

「あんたは何も悪い事なんてしていないだろう。あんたが巻き込んだ訳じゃない」

 あっけからんと言いきった山姥切に、けれども鶴丸の表情は変わらない。

「だが、君は俺を庇ったせいで、今俺と同じ目にあっている」

 鶴丸の言葉に山姥切は思わず微笑む。

「“同じ”か。離れ離れは嫌だったから、一緒がいい」

「……君は馬鹿なんじゃないのか」

 そういうことじゃないだろうと、鶴丸は山姥切を軽く睨む。

「鶴丸は離れ離れで平気だったのか?……俺と一緒は嫌なのか?」

 しかし、愛しい恋人にそう首をかしげられてしまっては、鶴丸は話を戻すことなど出来なかった。

「そんなことはない!俺だってずっと君と会いたかった!」

「俺も会いたかった。……俺はあんたと離れるくらいなら、地獄でもいいから一緒に居たいんだ」

 もう離れるなとばかりに鶴丸の裾を握り、そう臆面もなく告白した山姥切。鶴丸は感極まって堪らずその体をかき抱いた。山姥切もそんな鶴丸を抱きしめかえす。互いの体温がどうしようもなく温かくて仕方がなかった。

「――もう一度会えて、本当によかった……!」

 二振りはしばらくの間、離れていた時間を取り戻すように、互いの体温を分け与えるように抱きしめ合った。術式で拘束された部屋の中はゆるりと温度を上げていく。



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