君の気持を教えて

かいわれ
@tatannotatann

 緊急招集から一日目、山姥切は一人で本丸を見てまわっていた。他者より精密な気配感知で、警備ではなく点検として本丸を巡回する。それがこの緊急時に山姥切に与えられた指令だからだ。

 自分にしか分からないヒントがあるかもしれない。ならば、そのヒントは絶対に見落としてしまう訳にはいかない、と山姥切の歩みはひどく遅い。緊急収集後から始めているというのに、未だに本丸全てを見終わっていない程だった。


 ――ここにも、おかしなところはなかった……。

 もう何度目か分からない落胆を抱きながら、山姥切は重たくなった気がする手で刀装部屋の襖を開ける。

 ――こんのすけが帰ってくる前に、蹴りを付けられる物を見つけたい。

 こんのすけが帰ってくれば鶴丸の容疑は晴れるとはいえ、それまでの間ずっと鶴丸は拘束される。無実だと分かっているのに解放することができない事が、山姥切には歯がゆくて仕方がなかった。


 こんのすけを待たずに鶴丸の容疑を晴らす方法は一つ。犯人を捕まえることだ。だから、なんでもいいからヒントが欲しいというのに、まだ一つも見つかってはいない。

 全神経を使って部屋を点検し、けれども分かることは何もないということだけ。それをすでに数十回以上繰り返し、山姥切の心身には疲れが見え始めていた。

 ――次は確か鍛刀部屋で……

 刀装部屋から一歩、踏み出した体は突如バランスを崩す。


「おっと、大丈夫か?」

 間一髪、山姥切が倒れる前に、近くにいた三日月の手がバランスを崩した体を支えた。何が起こったのかと視線を下にした山姥切は、襖の段差に引っかかったことを悟る。

「す、すまない……」

「なに、怪我がなくてよかった」

 三日月は気にした風もなくそう笑ったが、山姥切は不甲斐ないところを見せた気恥ずかしさと、今まで碌に会話したことのない相手と至近距離でいる緊張で、思わず布を引っ張った。

「……」

 そんな山姥切を三日月はじっと見つめる。


 ――な、なんだ、なぜ見つめてくる?やはり、写しの俺が天下五剣にぶつかった事を怒っているのか。どうしよう、どうしたらいい?

 オロオロしながらも口を開かない山姥切。先に沈黙を破ったのは三日月だった。

「やはりお主は無口だな」

「すまない……」

 無口な自覚がある山姥切は、目に見えて縮こまった。

「ああこれ、勘違いをするな。別に責めておる訳ではない。むしろ、俺は嬉しいのだ」

「?」

 意味が分からず山姥切は首をかしげる。


「普段無口なお主が、鶴のためにあの時ああも話してくれた事が嬉しくてな。お礼を言わねばと思っていた」

「……必要ない」

 たまたま証拠を持っていたから口を開いただけの事、お礼などいらないと山姥切は首を横に振る。


「……否定するだけならば声を張る必要も、あれだけ喋る必要もなかっただろう。あの時の言葉の数と声音の強さは、鶴丸への想いだった」

 予想外の指摘に、山姥切は思わず三日月をみた。瞳の中の月は優しい色合いをしていて、纏う気配は春の夜のように穏やかだ。

「みなが鶴を信じられなくなりそうだったあの時、あそこまで鶴を強く想ってくれてありがとう」

 思いが届いただと。確かに伝わったのだと三日月は微笑む。


「このような厄介ごとに巻き込まれる困った奴だが、ちゃっかり番を見つけていたようで爺は一安心だ。鶴が心配なのは分かるが、あまり根を詰めすぎてはいかんぞ?」

「!?」

 天下五剣の名は伊達ではない。のか。最後にとんでもない爆弾を落とした後、三日月は颯爽と去って行った。

 真っ赤になった頬を隠すことなく、オロオロと体を揺らす山姥切は二時間後、源氏兄弟により追撃されることを知らない。


~二時間後~


 鶴丸のいる部屋付近を除いて一回目の点検を終わらせ、けれども手がかりなしという結果に打ちひしがれていた山姥切に、声をかけてきたのが源氏兄弟だった。

「まさか鶴丸が惚気ていた人物が山姥切だったとは」

「!?」

「べた惚れだったから、内容に眼鏡がかかりすぎて意外と分からないものだよね」

「!!??」

 ――の、惚気てたなんて聞いていない!

 

 何のお導きだったのか、山姥切と鶴丸が仲を深める際隠れようとしていたわけではないのに、いつも周囲には人がいなかった。それならば公にする関係でもないから秘密裏にお付き合いしよう、という事になっていたのだが、どうやら鶴丸は山姥切の名前こそ言わなかったものの、惚気自体は盛大にぶちまけていたらしい。


「あ、でもすぐ真っ赤になる所は惚気どおりだね」

「すぐ俯いてしまうというのは、布を引っ張るからだったのか」

「~~~!」

 源氏兄弟の連携攻撃に、瀕死に追い込まれる山姥切。恥ずかしさで悲鳴を上げたいけれど、それさえも恥ずかしい気がして、もうどうしたらいいか分からなくなっていた。

 やがてあうあうと口を開いて閉じてを繰り返す山姥切が流石に可哀想になって来たのか、膝丸が話題を切り替える。


「何か関係のありそうなものは見つかったか?」

 しかし、その質問で不甲斐ない己の現状を思い出して、山姥切の気分はすっと冷えた。

「……すまない」

 明らかに落胆した声音で答えた山姥切に、膝丸は選択を謝ったことに気づき慌ててフォローに入る。

「な、何もないというのも立派な情報だ!気配に敏い短刀たちと気配を精査できる山姥切が見てまわったならば、備えるべきは強襲のみ。俺達も集中できる!」

「そうそう。第一、もとから本丸内に手がかりがある可能性は低かったしね」

「?」


 膝丸のフォローで少し持ち直した山姥切は、続けて口を開いた髭切の言葉に首をかしげる。審神者は本丸から出ていない。そんな審神者が実被害にあっている以上、手がかりはむしろ本丸になければおかしいはずだ。同じように思ったのだろう、膝丸が質問した。

「そうなのか兄者?俺は他所の鶴丸国永が潜んでいる可能性は、それなりだと思っていたのだが…」

「この事件は僕達に情報がなさすぎるんだよ。主の近くにはいつも誰かがいた。それなのにそれらしい出来事を知っている者が一人もいないなんて、流石におかしいからね」

 ――そうだ。疑われる程近くにいる俺たちが、完全に不意を突かれた後手の対応をしているのはおかしい。

 浮き彫りになった事のおかしさに、山姥切はどうしようもない不気味さを感じ始める。相手が本当に存在しているのかさえも分からなくなるような、そんな不気味さに背筋が冷たくなり始める。


「まるで、この本丸の外で起こってるみたいだね?」

 髭切のその言葉で、全員の視線が本丸と外を繋ぐ転移門へと向けられた。

 ――そう言えば、転移門付近はまだ見ていない。

 

 源氏兄弟と別れた山姥切は寒さを感じながらも転移門へと赴く。


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