君の気持を教えて

かいわれ
@tatannotatann

「こんのすけが戻るまで出陣だけじゃなくて鍛刀も中断ね。内番は手合わせ以外はやらないと生活できなくなるからシフト通りで」

 担当が消えてすぐ、初期刀の加州が今後の話を始めた。

「鶴丸は……違うって俺はもう確信してるんだけど、拘束は政府の命令だから自由にする訳にもいかないんだよね。命令違反で主が捕まりかねない。みんな嫌だと思うけど、こんのすけが帰ってくるまでの間は拘束続けるから。それと伊達組に三条、源氏…あと山姥切も」

 名前を呼ばれ、山姥切は加州に視線を合わせる。


「あの担当、さっき目立って擁護したあんたらが鶴丸に近づいたら難癖つけそうな雰囲気あったから、鶴丸には近づかない方が良いと思う」

 接触禁止に狼狽える山姥切。

 加州の言い分は分かる。あの担当ならそれくらいしそうだ。しかし、山姥切はずっと、それこそ大広間に足を踏み入れた時から鶴丸に会いたいと思っていた。あの春雲のような温かい気配を感じたい。今だって大丈夫だと、みんなあんたを信じていると教えに走りたくて、足がうずうずしているのに。


「下手したら鶴さんの立場がもっと危なくなっちゃうかもしれないよね…うん、我慢するよ」

「こんのすけが帰ってくる間に、事態をややこしくする訳にはいかないね」

「仕方ない事だな」

 付き合いの長い伊達も刀派が近い三条も、友人関係なのだろう源氏も鶴丸のためにと我慢しているなか、否と言えるわけがなかった。身勝手な己の感情を抑え込もうと布を引っ張りながら、山姥切も頷く。


「うむ。俺も気を付けよう。……して、加州よ。“敵”への対処はどうするつもりだ?」

 敵。

 鶴丸の擁護ばかりに気を取られていた山姥切は、三日月のその言葉で気がつく。

 この事件は、鶴丸が神気浸食の犯人でないと証明するだけで終わるものではない。主が神気浸食にあったことは事実。“神気浸食を行った鶴丸国永”を見つけ出さなければ、主に危険が及ぶ。


「本丸中の点検と主の部屋の見張り、それから昼夜問わずに巡回警備しよう。どこの鶴丸国永かは知んないけど、主には指一本触れさせない」

「ならば、まず全員で本丸の点検だな。その間に俺と加州で警備のシフトを組もう。それから、念のため鶴丸に護衛を付けた方がいいのではないか?成り代わられては、山姥切以外気づかんぞ」

 加州の提案にすかさず長谷部が案を付け足した。山姥切以外は同位体の区別がつかない以上、それを狙って鶴丸国永が成り代わられる恐れがある、と。

 しかし、それならば今この時にもその危険はあるはず。

 山姥切の顔に焦りが走る。緊急招集の鐘が鳴ってもう一時間以上。その間、術式拘束で身動きの取れない鶴丸一人では襲われたらひとたまりもない。


「共犯者がいた場合も考えて、外からも簡単には壊せない術式が使われているみたい。だから成り代わりの心配はそうないと思うけど……念のため鶴丸にも護衛つけよう。それと、どうせなら護衛時以外みんな鶴丸には接触禁止ね。難癖付けられる可能性は低くしといて損はないでしょ」

 鶴丸にかけられている術式は拘束用でこそあるが、同時にある程度鶴丸を守ってもくれるものでもあるようだ。山姥切はひとまずホッと安堵の息を吐く。


「これで粗方決まったかな。じゃあみんな、解散後は即本丸の総点検ね。鼠一匹見逃さないように。何かあったらすぐ連絡ちょうだい。――絶対守るよ」

「「「「「応!!」」」」」

 

 ――主も鶴丸もどちらも守る。

 山姥切はそう強く心に誓った。



 ――山姥切、君は今何を思っているのだろうか。

 本丸の隅の部屋だった。部屋の中こそ自由に動けるが、中から外には一切接触できない拘束術式がかけられた窓のない部屋。時の流れが分かる物は何一つなく、ここに放り込まれてどれほど経つのか鶴丸には分からない。

 冷たい空気ばかりが入り込むこの部屋に呆然と座り込んで何度、山姥切に心の中で問いかけただろうか。それすらももう分からなかった。


 そもそもこの現状で、鶴丸に分かっていることなどほとんどない。

 執務室に着いてすぐ、鶴丸は数度しか見たことがないこの本丸の担当に逮捕状を突きつけられた。並べ立てられたのは全く身に覚えのない神隠しの罪。混乱しながらも必死に反論したが、神気の証拠を前にしては言い訳としてしか聞きとっては貰えなかった。

 今鶴丸に分かっているのは、自分ではない鶴丸国永が主に神気浸食を行った事、自分はもうすぐ刀解される事の二つだけだ。


 ――山姥切に、山姥切に会いたい……。山姥切にだけでも、俺自身の言葉で無実を訴えたい……!

 鶴丸が主の神隠しを企てた事は刀剣男士としての裏切りの意味以外に、恋仲である山姥切に捨てられたのだと見なされかねない。

 ――俺はそんなことやっていない。やっていないんだ。主を裏切り、君を捨てるだなんてこと考えた事すらない……!


 何度も何度も心の中でそう訴えるも、実際に伝えることができない現状がひどく悔しくて悲しくて。鶴丸は喘ぐように胸を押さえた。

 手足の先が寒さで震える。

 刀解されるまでこの苦しみが続くと言うのならば、もういっそ早く刀解を。そんなことすら願い始めていたその時、部屋の外から声がかけられた。


「鶴丸の旦那、生きてるか?」

 どう聞いても成人男性としか思えないが、鶴丸の脳裏に浮かぶのは子どもの姿。そのちぐはぐな刀の名を呼ぶことで、鶴丸は呼びかけに答えた。

「薬研……」

「おいおい、死にそうな声じゃねえか。大丈夫か?」

「ちょっと鶴丸さん!もしかして勝手に一人で諦めてるんじゃないよね?いい知らせを持ってきたんだよ!」

「いい知らせ?」

 予想外の言葉をオウム返しした鶴丸に、乱は明るい口調で告げた。


「あの神気は鶴丸さんのじゃないって証明するために、主さんが調査に出してくれたんだ!その結果が来るまで、当然鶴丸さんの刀解は保留だよ!」

「そいつは本当か!?」

 願ってもみなかった驚きの展開に、鶴丸はじんわりと手先に温かさが戻って来たのを感じる。

 神気の調査については何度も頼み込んでいた。しかし、この本丸にいる鶴丸国永が一振りしかいない以上必要などない、と担当は取り合ってくれなかったのだ。加州に頼みごとをしたせいで、鶴丸は執務室で担当とほぼ一対一だった。


「あの神気は別の鶴丸国永の物だって、山姥切の旦那が証言したんだ。俺っちは知らなかったんだが、山姥切の旦那は同位体の気配が分かるらしくてな」

「山姥切が……」

 出てきた名前を鶴丸は思わず繰り返した。ただ一人に釈明できるならば間違いなく選んでいた相手。しかし、その必要はなかったのだ。


「あんなに一杯喋って大声出してる山姥切さん、僕初めて見たよ」

 自分の気持ちを出すことを躊躇って隠して。そのせいか戦場でさえも山姥切は大声をなかなか出さない。鶴丸でさえも大声なんて聞いたことがなかった。

 そんな山姥切が大声で鶴丸の無実を訴えた。

「~~~~」

 頬が温かいを通り越して熱くなる。鶴丸にとってその情報は、ある意味一番のいい知らせだった。


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