君の気持を教えて

かいわれ
@tatannotatann

「な…!?」

 真っ先に驚きの声を上げたのは担当の男だった。刀剣男士たちもまさかの指摘にざわめきを取り戻す。

「た、確かにその可能性はあるな……!」

「そうだねえ盲点だった。でも、えーと、布くんはどうして違うって分かったんだい?」

 ざわめきの中から源氏の声を拾い、山姥切は答える。

「気配が違う。うちの鶴丸の気配は柔らかで温かいが、その神気はひんやりとしてさっぱりしている」

 白く力強く、でも春雲のように柔らかで温かい。それが山姥切がいつも感じている鶴丸の神気だ。しかし、瓶の中の神気は白く力強いところはそっくりでも、冬雲のような爽やかさがある。


「同位体の神気を見分けられるのかい?僕には無理なんだけど」

 通常他の刀剣男士の同位体を気配で見分ける事はできない。見分けられるのは自分の同位体だけだ。

 山姥切も自身の特技を不思議に思い調べてみたことがある。一応、気配を精密に見分けられる特技持ちの前例は幾つかあるようだった。しかし、数は少なく、広く知られている訳ではない。髭切の質問は最もなものだ。

「通常できないことは知っている。だが俺は見分けられるんだ。偶発的に俺のような個体が生まれる事があるらしい」

「……そんなことあるんだ?」

「……ああ」

 現状に都合のいい特技の突然の暴露、に見えなくもない状況。

 ――疑われて、いるのだろうか。

 気のせいか、それとも元々の口調のせいか。髭切の言葉に疑いの含みがある気がした山姥切は、不安になって周囲を見渡す。

 別に公にする必要はないと思い、秘密にしていた事が悪かったのだろう。大広間の雰囲気は信じたいけれど本当に出来ることなのか…といった疑念があった。

 ひやりと山姥切の背筋に冷たい汗が流れる。


「山姥切国広、それを証明できるものは?」

 追い打ちをかけるような担当の質問に、嫌な音を立てる山姥切の心の臓。

 間違いなく見分けることはできる。しかし、それを今この場で証明する手段が思い当たらない。一神一刀を採用しているこの本丸には同位体がいなかった。

「それは……」

 思わずいい澱んだ山姥切に、担当は驚かすなとでもいうように息をついた。

「証明できないのであれば、残念ながらその主張は……」

「ああ、だからあの時、僕らの事が分かったのかな?」


 担当の言葉を遮ってくれた予想外の声。山姥切は源氏の重宝の一振りを見る。途中で遮られた男も、邪魔をするなというような視線で髭切を見た。

「兄者、何か思い当たることがあるのか?」

「あの時は、ピザ丸「俺は膝丸だ兄者」も一緒にいたじゃないか。初めての演練の時だよ」

「初めての演練……ああ!あの時か!」

 兄弟間でのみ意志疎通する二振りに、加州が思わず声をかける。

「ちょっと!兄弟でだけで完結しないで、皆にも説明してくれない?」


「ああ、すまない!

 初めて演練に行った時、俺と兄者は皆とはぐれただろう?その時他の本丸の俺達に保護されていたのだが、そこに迎えに来てくれたのが山姥切だったんだ」

「僕は他の本丸の弟と、弟は他の本丸の僕と話していたんだけどね。布くんは確認もせずに確かに正しい僕らに声をかけてきたんだよ。普通同じ本丸同士で話してると思うものだろうに。……これって、見分けがついてなきゃ出来ないことだよね?」

 そこまで言われて山姥切もようやく思い出す。それは何か月も前の事だった。よく覚えていたものだと思うと同時に、鶴丸の口から聞く名前はこの二振りが多かったことも思い出す。鶴丸のために朧げな記憶を辿ってくれたのだろう。


「膝丸と髭切が、山姥切の能力を証明できるってことは……!」

「この神気は鶴さんのじゃないってことだよね!」

 山姥切の能力が証明されたことで太鼓鐘と燭台切が嬉しそうに頷き合う。その横では、大倶利伽羅もホッと表情を緩めていた。

 神気の存在でしぶしぶ納得しかけていただけで、神気さえなければ誰も鶴丸を疑うつもりは皆無なのだ。


 ――良かった。これできっと刀解は……

 山姥切はそう肩の力を抜く。しかし、何気なく伺った担当の気配でその体はビクリと強張った。

 最初よりもずっと危険な、身を切るような冷たい気配。

「残念ですが」

 気配と同じ冷たい嫌な声色に、大広間は冷や水をかけられたように沈黙する。

「膝丸と髭切の証言だけでは証明になりませんよ?」

「はあ!?なんでだよ!」

「神隠しは複数の刀剣男士が結託して行うこともあるからです。よって刀剣男士の証言では証明になりません。そもそも“この神気が別の鶴丸国永のものである”と主張しているのも山姥切国広なので、考慮にも値しませんね」


 お前たちの意見など聞く気はないのだ。

 つまりはそう言った担当に刀剣男士たちは一瞬の絶句後、怒りを抱いた。

 状況が状況だけに担当の言葉には一理あるだろう。しかし、せっかく見つかった無罪の可能性さえも取り合わないのは明らかに非道だ。

「そいつは聞き捨てならねえぞおい!」

「冤罪でもいいって抜かす気か手前ぇ……!」

 数十人分の怒気に男の顔は流石に少し青ざめた。しかし、刀剣男士は人間に危害を加えたら重罰に問われる。ならば怖くはないと、男は冷汗を垂らしながらも続ける。

「勘違いされているようなので申し上げますが、そもそもこの場は会議の場ではありません。あなた方には選択権はないんですよ」


 ――ふざけるな……!

 あんまりな物言いに、鶴丸の冤罪を通す気の担当に山姥切は怒りで立ち上がりそうになる。しかし、その動きは凛とした声に止められた。

「ならば」

 その声は今まで沈黙を守っていた三条派から。

「刀剣男士全員が信用できぬと言うのであれば、どうしてこの場を設けたのだ?」

「こんなばなどもうけずに、ぼくたちのけんげんをとかなかったのはなぜですか?」

 三日月と今剣の言う通り、言われてみればそれは奇妙な点だ。信用できないならばわざわざ集めて現状の説明などせず、一方的に顕現を解いた方が安全だろう。

 担当はその指摘にピクリと眉を動かした。しかし、予想していたのか淀みなく返答する。


「神隠しに関与していない刀剣男士がいた場合、巻き込んでしまう事をご了承してもらうために」

 けれどもその返答には、石切丸と岩融、小狐丸が待ったをかけた。

「緊急時に了承を取っている暇なんてないだろうに」

「仕方なく省かれる手順があることぐらい承知している。神隠し発生時の本当の手順には緊急招集などないのではないか?」

「そもそも籠城と緊急招集という矛盾する命を政府が下すとも思えぬ。こんのすけ、緊急招集については確かお主に役割があったな。この緊急招集の真意はなんだ?誰が行ったものだ?」


 ずっと隅で黙っているこんのすけに小狐丸が話題を振る。緊急招集を行う際、審神者は必ずこんのすけに申告をしなければならない決まりだ。

「はい。まず政府の神隠し発生時のマニュアルに緊急招集はありません。この緊急招集を決めたのは審神者様です。緊急招集はいかなる場合でも可能なもののため私が許可いたしました」

 担当が進行を行っているため、政府が設けた場だとほとんどの者が勘違いしていた。しかし、この場を設けたのは神気に苦しんでいる審神者その人。

 籠城の命のため出席できない、そう分かっていてなお設けたその意味は。

「“皆の意見が聞きたい。まだ信じられないから”……以上が審神者様が私めに申されたこの緊急招集の理由です」

 審神者は鶴丸の事をまだ信じている。

 審神者の代わりに担当が出席したせいで、その真意が隠されそうになっただけで。

 担当の男は一刻も早く政府の命を遂行してもらうことが目的だった。だから、刀剣男士の言葉に耳を貸す気などなく、一方的な報告をして形だけは審神者の意向に沿ってこの緊急招集を終わらせようとしたのだ。この場に来れない審神者にそれを止める術も事実を知る術もないと踏んで。

 現在籠城している審神者と通信手段を持つのはこんのすけのみ。担当の男はすでに、審神者に報告する内容は自分がまとめるから口出しするなとこんのすけに命令している。


 こんのすけはそんな男に向き直ってこう言った。

「……担当様、確かにあなたのおっしゃる通り、現在刀剣男士の皆様には選択権はありません。命令にただ従っていただくだけです。ですが、その命令権はあなたにはありません。――長谷部様」

 唐突に呼ばれた長谷部の名前。それにほとんどの者は疑問符を頭に飛ばした。しかし、呼ばれた本刃は心得ているとばかりに頷く。

 審神者とて、己と担当の考えが異なる事には気づいていた。こんのすけが担当に逆らえない事も。


「この場で発言された主な言葉は、全て俺が端末で主に報告している」

 本丸に寄り付かない男は知らなかった。旧き良き日本家屋に住む、齢何百歳の刀剣男士も最近は端末を操ることを。 

「今しがた主から通達がきた。心して聞け、主命だ」

 長谷部は手の中に隠していた電子端末を持ち上げる。

「――全刀剣男士の顕現解除、及び鶴丸国永の刀解処分は、神気の調査を申請しその結果が来るまで先延ばしにする。それまでは全部隊待機だ」

「なっ!?顕現解除は政府の命令です!審神者様とて命令に逆らうことは!」

「主は顕現解除をしないと言っている訳ではない。先延ばしにされただけだ。命令違反ではない。そもそもどのタイミングで行うかは審神者の判断に委ねられているはずだが」

 長谷部のぐうの音も出ない正論に、担当は押し黙るしかなかった。悔しげに長谷部をそして電子端末を睨む。

 その視線から端末の向こうにいる主を守る様に長谷部は立ち上がった。そして加州の前に置いてあった小瓶を持って移動し、こんのすけの前にしゃがみこむ。


「こんのすけ、神気の調査はどれくらいかかる?」

 小瓶を受け取ったこんのすけは、尻尾に丁寧に瓶を収納しながら、大広間にいる全員に聞こえるように声を張った。

「同位体の個体別神気を判別するには本霊の協力が不可欠ですので、恐らく最低二日はかかります。ですがこのこんのすけ、必ず最速で調査結果を持って参りましょう!」

「頼んだ」

 その長谷部の一言は、本丸の全員の心を代弁していたに違いない。

 こんのすけは力強く頷くと、担当に余計な命令をされる前にその場で飛び上がって一回転をする。直後にどろんっと煙が生まれ、こんのすけは政府へと転移した。


「……この件は即急に上司に報告しなければなりませんので、私も失礼します」

「あ、おい!」

 こんのすけが消えてすぐ、苛立ちを伺わせる口調でそう述べた担当は立ち上がる。そして止めようとする加州を無視して大広間を出ようと振り向いたその一瞬、その目は山姥切とぶつかった。

 ――鶴丸は渡さない。

 反射的にそう睨み返した山姥切に、担当も苛立ちの籠った目を返す。

 しかし、すぐにそれは逸らされ、担当の男は廊下へと出て行った。



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