君の気持を教えて

かいわれ
@tatannotatann

 さて。

 今度こそ襖を閉めようとして山姥切は気づく。

「鶴丸!」

「ああ、よかった。部屋に居てくれたか」

 鶴丸はその手にお盆を持っていた。お盆の上には艶やかな黒い皿に、爽やかな緑色のずんだ餅と梅の花が添えられている。

「入ってもいいかい?一緒にお茶をしたいと思ってな」

「ああ、大丈夫だ」

 山姥切は鶴丸を部屋に招き入れると、自分の分の座布団と持っていた上品な薄い黄色の座布団を敷く。

「君の部屋には座布団が二枚あったんだな」

「さっき、兄弟から貰ったんだ。あんたの分にいるだろうと」

 微笑んでそう言う山姥切に鶴丸も笑う。

「そうか。それは後で俺もお礼を言わないとな。このずんだ餅もな、光坊と貞坊と伽羅坊が俺たちのために作ってくれたものなんだ」

「これを?すごいな。すごくおいしそうだ。俺も後でお礼を言う」

 お店で出てきてもおかしくない綺麗なずんだ餅に、山姥切は驚きの声を上げる。

「ずんだは伊達の郷土菓子だからな。俺も作れるぜ。横に添えてある梅は源氏兄弟がくれたんだ。転移門の近くのものが咲き始めたらしい」

「梅か。……そうか、春になるのか」

 窓から差し込む日差しは温かだ。まだ風を冷たいと感じる事もあるけれど、気温は確かに上がり始めている。手を繋がなくてももう寒くない。

「ああ。君と春を迎えるのは初めてだ。いっぱい花見をしよう」

「そうだな。……でも、その。俺は、その前に……」


 山姥切は唐突に顔を真っ赤にさせ口をまごつかせる。その手には先ほど三日月から貰った小さな丸い容器。

 中身が何か知らない鶴丸はそれが何かを聞こうとしたが、その前に山姥切は言葉を絞り出した。

「み、三日月から軟膏を貰ったんだ。……と、と床で必要だろうと」

「や、山姥切、それは……」

 まさか山姥切の方から言いだすとは思わず、鶴丸もつられてどもる。

「明日は朝から出陣があるからダメだが……明後日の午前中は、その。お互い何もないだろう……?

 だから、……明日の夜、へ、部屋に行っても、い、いいだろうか?」


 山姥切は顔から湯気が出ていた。顔だけでなく全身が熱く、心の臓は全力疾走した時よりも暴れていた。しかし、それでも言い切ることができたと少し顔を綻ばせたその時、その体は抱きしめられる。


「!!??」

「明日の夜だな。……明日の夜、だな」

 山姥切を抱きしめた鶴丸は、その耳元で二回確認する。二回目の声音が若干、有無を言わせない響きがあった。

 突然の接触でもはやキャパオーバー寸前ながらに、山姥切は辛うじて頷く。温かいを通り越して相手の体温は熱かった。

「……勇気を出して言ってくれてありがとう」

 嬉しそうにそう言った鶴丸に、恥ずかしい思いはしたものの、自分で言えてよかったと山姥切は思った。思ったが。

 ――こ、れは。

「楽しみだなあ……」

 そう言った鶴丸の声は妙に低く熱っぽく、目の前に来た蜂蜜色の瞳には欲が渦巻いている。春雲のような気配は温かいを通り越して熱く湯気のように揺らめき始めていた。こくりとさり気なく鶴丸が動かした喉が、食事を前にお腹をすかせた動物を彷彿とさせて……。

 山姥切は温かく優しい恋人が、床でもそうであるとは限らない気配を察知する。

 ――こ、心の準備が、間に合わないかもしれない……!

 


 それでも最後はきっと、二振りは共になる。

 山姥切と鶴丸は傍に居る事を誓い、そしてそのために動ける刀だから。


Fin



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