君の気持を教えて

かいわれ
@tatannotatann


 先に離座敷練の表に辿り着いた山姥切は、走ってきた勢いそのままに布を翻して躍り出ていた。手前に居た打刀にそくざに斬りかかれば、耐久値が低いせいでほぼ折れかかっていたその体は容易く切り伏せられる。

 しかし、直後に殺気を感じ、山姥切はその場から飛びのいた。はためく布の先端を大太刀の切っ先が凄まじい威力で切り裂く。

 山姥切は距離を取り、刀を構え直した。

「山姥切国広!?拘束していたはずなのにどうして!?」

 偽のこんのすけが驚きの声をあげる。担当は襲撃者が山姥切と分かるや否や、鬼の形相で叫んだ。


「また貴様かっ!俺の完璧な計画を何度も邪魔しやがって……!」

 気配の違いが分かるという、完璧な計画に存在していなかったイレギュラー。さらには監禁したはずなのにこうして再び己の前に現れ、最後の仕上げにさえも立ちふさがっている。担当にとって山姥切はまさに消すべき癌、害悪そのものだった。

 常人ながらに殺気まで送ってくる担当に、しかし山姥切も怒りを灯した瞳で睨み返す。

 ――こいつが鶴丸に罪を被せた首謀者か!

 鶴丸は無実の罪で拘束された。刀解される可能性もあった。それだけでも業腹だというのに、仲間たちは無理矢理顕現を解かれ、主である審神者は神気浸食で今なお苦しんでいる。

 山姥切は今まで我慢していた怒りを燃え上がらせた。


「何をしている!さっさとあの写しを折れ!殺せ!」

 頭に血が上った担当は、ボーっと突っ立っている様に見えた大太刀に怒鳴り散らす。大太刀は命令通り山姥切に肉薄し、その凶器を振り下ろした。

 しかし、そこに山姥切はいない。

 大太刀の背後、速さに付いて来れなかった布が落ち、煌めく金糸が現れる。


「俺を写しと侮った事を後悔させてやる。死をもってな……!」


 必殺の一撃は、巨体をもろともせず両断した。



「っ逃げましょう!」

 武力部隊が消えたことで偽のこんのすけは不利を悟り叫ぶ。しかし、どうやら今回は言葉より行動の方が早いようだ。

「させる訳ないだろう」

 突然背後から聞こえたゾッとするほど冷たい声音に、担当は一瞬刀で貫かれたかと錯覚した。しかし、目だけで振り向いた先、鶴丸は刀に手すら触れていない。

「お返しをしてやる」

 トンと背中を触られたと思った刹那、担当は体中を押し込められるような感覚に捕らえられた。あまりの窮屈さに受け身もとれず地面に激突するが、呻こうとしても口の端すら動かせない。

 それは、部屋ではなく個人にかけられた場合の拘束術式の効果。

「お前には山姥切の分だな」

 続けて逃げようとしていた偽のこんのすけに、鶴丸は術式が籠っている紙を投げつける。転移門越しに山姥切に投げつけられたあの紙だ。

 偽のこんのすけは慌てて口に貼りついた呪いを前足でひっかく。しかし、境目は分からず、やがて耐え切れなくなったその体はふらりと大きく傾いた。

 どさりと地面に倒れ伏す音が響く。


 直後シンとした静寂が舞い戻り、事件の幕が下り行く。


 残党がいない事を確認した山姥切は鶴丸に駆け寄った。

「鶴丸!」

「遅くなってすまない!練度差が厳しくてな」

「無事でよかった……!」

 体中が切られ血を流すその姿に折れていたかもしれないと知ってしまい、山姥切は今更ながらに恐怖に襲われる。しかし、そんな山姥切に鶴丸は大丈夫だと笑いかけた。

「君と離れている間に折れはしない。そう誓ったからな」

 地獄でも共に居ると山姥切に告げられた時。

 折れるなら共に。少なくともすぐ傍でと、鶴丸は決めていた。

「当たり前だっ!あんたが離れた所で折れるなんて絶対に許さない!俺はそう思ったから動いたんだ……!」


「ありがとう。……はは、これではまるでアレだな」

 用意周到な敵に幾度と絶望的な状況に追いつめられ、けれどもすべて打破してきた道のりを思い出して、鶴丸は少し照れたように続ける。

「愛は必ず勝つ……だったか?」

「!?あ、あああんた馬鹿じゃないのか……!」

 とんでもない事を言い出した鶴丸に、山姥切は顔を真っ赤に染め上げる。ちなみに、布は落ちたままだ。

「なんだ、君は俺のことを愛していないのかい?俺の自惚れだったのか、悲しいなあ」

「ち、違……!そんなことは……!」

 そういうものの、恥ずかしさから続きを紡げないでいる山姥切に鶴丸はいう。

「だったら……『君が今何を思っているのか、俺に教えてくれないかい?』」

「せ、せこいぞ鶴丸……!」

 その言葉で聞かれてしまったら答えない訳にはいかない。

 なにせそれは、素直な気持ちを言ってしまう魔法の言葉。山姥切は顔を真っ赤にしながらも口を開き。

「――」

 答えは言うまでもないので、ここではあえて記載しない事としよう。


 二振りはどちらともなく手を繋ぐ。やはり相手の体温は染み入るように温かかく、気づけばもう寒さはどこかに行っている。

 その手は、術式が解けた仲間たちが来るまでずっと、離れることはなかった。


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