からくり世界と銀鼠

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@AraPerfu_pink

#5 - 械姫編 -






私は困惑している。




相手も困惑している。






会話において、互いに困惑し合う。



それほど無意味で愚かなことはない。







…ってどっかの誰かが言っていた気がする。









まあとりあえずこの状況は良くないし、



こういう状況に陥る時は大抵、認識の違いか共有の欠落が発生してる。


それを解決しないことには何もならない。








私は質問した。








「…私は何者なんでしょうか」








男は答えない。








「あの〜〜〜、すいません。私は何者で、ここはどこなんでしょうか?」







…まだ答えない。









っていうか、さっきより不可解そうな顔をする。










…あれ??


なんかまずいこと聞いたかな。






そう思った時だった。











「あっ、やっべ。知識プログラム一個入れ忘れてたわ」








彼の特徴とも言えるくっきりとした眉が、元の位置に戻る。



私に、彼の言葉を咀嚼する余裕はなかった。


彼は、私の横にある機械をまたいじる。


その手つきは、少し慌てている。








すると、唐突にものすごい眠気が私を襲った。



そいつに強制的に瞼を閉じさせられる。



思考が停止した。



私は眠らされたのだ。











===











少しして。



…どれくらいなのかはよく分からないけど。







目覚めた。



ぼんやりと起きる感じじゃない。





眠った時と同じように、強制的に目をこじ開けられた。



不思議なことに眠気もない。









「どう?わかる?」









先ほどと同じ男性が、不安そうな目をしてそうたずねる。















不思議だ。










「わかります」








なんて不思議なんだろう。









わかる。


わかるんだ。






さっきまでわからなかったことが。



そのさっきは、何もかもわからなかったというのに。




今は手に取るようにわかる。











「私はヒューマノイド。

通称『ボーグ』。サイボーグのボーグから命名。

世界一の国である此処『械姫(かいき)』を、発展させることと守ることがヒューマノイド生産の目的である。

あなたはそんな私の最終的なプログラミングをし、そして今後私を管理する『管理者』。

不備をチェックする役割もある。それから___」




「もういいよ。異常はなさそうだな」








私の流れるようなセリフを、彼が止める。


心なしか嬉しそう。



そりゃそうか。自分が作ったも同然だもんね。







人間は話すときにあれこれ思考をして文章を組み立てなきゃいけないけど、


私はヒューマノイド。__まああれよね、アンドロイドみたいなものよね___だからなのか、

今喋ったとき、頭のどこも使わなかった。



自分でも制御が効かないくらい、本当に流れるように、

知識が文章になって口から出てた。なんだこれ。



でもあれだなあ、会話をしようっていう意思を持つことはできたし、

眠らされる前は紡ぐ言葉を自分で考えてた。



ううん?どういうことなんだろう。







でもとりあえずありとあらゆることはわかるようになった。

…のだと思う。



それでもただ一つわからないのは、結局ここは夢なのか異世界なのかってことだ。


まあ、今はどっちでもいいか。


どちらにしろ「日本」ではないし、私がいた世界ではない。











私はまだ少し混乱している中。



彼は「心なしか」どころかもう、めっちゃくちゃ嬉しそうになってた。






なんていうか、もう、にやけ止まんぞって感じ。



ウキウキしてるのが丸わかりだ。





…それが全然不快じゃないのは、その笑顔がやたらとキュートだからでしょうか。


思わずお姉さんね、キュンときちゃったわよ。











「さっきも言った通り、僕はボーグを人間だと思って接しています。

ボーグの名前は基本、管理者とボーグの話し合いで決めるんだけど、

僕はどうせなら君の好きな名前にしたい」





…ん〜〜と。


人間は自分の名前、自分で決められないと思うのですが。





でも「どんな名前がいい?」なんて聞いてくる彼の顔は、

さっきよりは落ち着いたけど、依然笑顔隠しきれずって感じだし。

このツッコミはやめとこう。







「その前に、あなたの名前はなんなんですか?」



「僕?潤」



「ジュン?」



「潤うって書いて潤。」







漢字か。


このお国は漢字文化なのね。


そりゃそうか。国名漢字なんだし。


それにしても、械姫って変な国名だよなあ。







「名字は?」



「…ミョウ、ジ?」






彼が困惑する。



あれ。名字って言わないのかな。




そう考えてると、急に知識が降ってきた。










この世界は、世界共通で1言語しかない。

械姫が世界を治めた際に、械姫語以外の言語の使用を禁止したからである。

械姫語以外を扱える人間はもちろんいるが、使用も教育も禁止されているため、多くはない。

その械姫語とは、漢字・カタカナ・ひらがなと呼ばれる文字を組み合わせた言語であり、

特に漢字が高尚な文字とされる。

画数が多くバランスのとれた漢字はより縁起が良くなるとされ、好まれる。

そのため、人名・地名などありとあらゆる名前は漢字で表記される。

また、文字数を少なくすることでその漢字の持つ美しさを強調すべしという古来の考え方から、

各地名・人名は、三文字以内で表記するという暗黙のルールがある。







___要はまあ、械姫語≒日本語、ってことですよね。多分。






どうやらこの国には、というかこの世界には名字はないよう。

そして三文字以内の漢字の名前が一般的ということだ。


それにしても世界のどこ行っても同じ言語で喋れるって、めちゃ便利だなあ。










「じゃあ、彩乃にします。彩りに乃で、彩乃。」






そう思いながら、私は迷わずそう言った。


ここにくる前と同じ名前を。