【CG腐向け】No title .

東 ((語彙力が来い)) 辻
@tkkz_50

Ⅲ ジノ・ヴァインベルグ ③

皇歴2015年夏。学園が夏休みに入った。

そして今日は、ロイドやジェレミア、紅月親子など、ルルーシュの真実を知り、その上で味方をしてくれる人間全員で海水浴に来ていた。始めは、ナナリーに夏の思い出をと思ったルルーシュがジェレミアに相談し、その後、珍しく、というよりも奇跡的にロイドとジェレミア、ラクシャータの休日が被った、とのことでこの集まりが成立した。

ちなみに海は貸し切りだ。始めはプールを予定しており、ジェレミアは貸切ろうとしたらしいが、ルルーシュがそれをしたらいかないと言ったのだという。それにより、ロイドがKMFの実験場としてもらったのだという島に遊びに来ていた。実験施設には宿泊スペースもあり、それを利用してバカンスを楽しもうというわけである。職権乱用ではあるが、一応、ルルーシュとナナリー以外のメンバーは全員、直接的・間接的のどちらかでこの島の使用を許可したシュナイゼルの部下だから、問題はない。


「ジノさんは、どうしてお姉さまなんですか?」

「どうして、っていわれてもね。」


そんなルルーシュはどうやら暑さにやられたらしく、浜辺に立てたビーチパラソルの下、サマーベッドでへばっていて、隣には、どうやら同じような理由らしいロイドと特に疲れたとか言うわけでもなさそうなラクシャータが寝ころんでいた。ベッドは4つ準備してあるが、1つは空いており、ラクシャータの寝ころぶベッドにはカレンが寄り添うように腰を下ろしていた。

カレンの兄と母は、自由にしていいと言われて戸惑っていたが、少し遊んできますね、とその一団から離れた。現在紅月さんは呼ばれればすぐにもどれる程度の距離にある岩場で足だけ海水につけており、長男ナオトの方は浮で区切られた領域内で泳いでいた。カレンの兄というから人間離れしているのかと思ったが、そういうことは無いらしい。ちなみに、ジェレミアは【用事】を片付けに行っている。


「気になるのか?」

「はい。とっても!」

「・・・そんなにか?」

「お兄様がお姉さまを本気で愛していらっしゃるのは分かりますが、理由は聞いていませんでした。」


ひらひらふわふわとした可愛らしいフレア系の水着をお召しでいらっしゃるナナリー皇女殿下は、その水着以上に眩しい笑顔でそんなことを言った。何というか、照れていればいいのか、ツッコミを入れればいいのか分からないでいると、「言いたくはありませんか?」と首を傾げられる。


「そう言うわけじゃないんだけどね。」

「じゃあ、何時から?もしや、ロイド伯爵と一緒にお会いになった日に、一目ぼれ、とかですか?」

「一目ぼれ、というか、なんというか、」


ちなみに、ルルーシュはその白い肌によく映える、何とも大胆な黒のビキニを、彼女が身に着けるにはあまりにもぶかぶか過ぎた【ジノ】のパーカーの下にすっぽりと隠している。そして、カレンは割とシンプルなオフショルダーにパレオだ。曰く、ルルーシュが女性であるし、来る男は全員ルルーシュが目当てだから本気出しても仕方がない、とのことだった。まぁ、十分似合っているとは思うけど。ルルーシュが居なければ間違えなくタイプだし。

普段のカレンは人前であるとある程度はその凶暴性を抑え、シュタットフェルト家のご令嬢としての表情で無茶をやらかすが、今は完全に身内しかいない為気が抜けきっている。というか、普段制限される分開放感が凄まじいのか、無茶苦茶だった。というのは、ナナリーを海の中まで運んだのはカレンなのである。なんというか、いかにもか弱そうなお嬢様が、同じ年頃の少女を軽々とお姫様抱っこで歩いている姿は何とも言えない。見慣れた人間では無ければ、夢を打ち砕かれたと両手をついているところだろう。なんというか、カレンがはっきりとした筋肉の付きやすいタイプじゃなくて良かったと思う。紅月さん、ありがとう。閑話休題。


「・・・実は、私は昔、アリエス宮にお邪魔していたことがあるんだ。ルルーシュの学友候補として。」

「アリエス宮に?」

「覚えてないでしょ?でも、その時からだね。【ルルーシュ様の専任騎士になりたい】って俺が思ったのは。」


ジノはルルーシュに命令された通り、ちょっとずつではあるが着実に口調を変えてきた。勿論一般生徒に対してはここまで敬った話し方などしない。しかし、敬愛するルルーシュをその他と同じように扱うことにはどうしても抵抗を感じてしまっていた。拭いきれなかったのだ。しかし、ルルーシュは、ジノなら必ずできると思って指示を出している。その機体を裏切るわけにはいかなった。始めの頃はクラブハウスに帰ると途端に脱力してソファーに沈んだ。ルルーシュが戻ってきたら無理して起き上がったが、いつも、「今日もよく頑張った。昨日より良かったぞ。」と頭を投げてくれたおかげで大分進歩したのだ。

努力を人に見せるのは好きではないが、本当によく頑張ったと自分でも思う。それこそ、いつの間にか取り巻きの女の子とたちがジノに「今日はもうルルーシュ先輩への告白ノルマは達成したの?」だとか「今日は気づいてもらえた?」だとか言う残酷なセリフを聞き慣れてしまう程度に。彼女たちは、いや、ナナリーとルルーシュ本人以外のすべての教師・生徒は、ジノがルルーシュに対してどこか【ぎこちない】のは、恋心ゆえだと誤認してくれていたのだ。

まぁ、百パーセント間違いだというわけでもないのだが。

まだまだぎこちないところもある。それでもルルーシュのために出来ることは何でもしたいというのが行動からにじみ出ていた。ルルーシュの前で上がってしまうのも、どうにか克服した。ように感じる。いや、そう見せるだけの演技力があがった。多少は。まだまだ、殿下には合格点は貰えない。


「最も、ルルーシュ様も、私のことは覚えていらっしゃいませんでしたが。」

「・・・まぁ、私は兎も角、お姉さまは、一度お会いした方は忘れないのに。」

「私がいると構ってもらえないと、シュナイゼル殿下に文句を言われたこともあるんですよ。」

「まぁ、シュナイゼルお兄様に?・・・ごめんなさい、思い出せません。」

「・・・構わないけどね。仕方がないことだし、無理に思いだそうとすると倒れてしまうかもしれない。」

「倒れて?」

「そう。でもきっといつか、その目を開く日を楽しみにしてるぞ。」


【他人の意思】なんてねじ伏せて。ジノはボンヤリと考えた。

この世界ではきっとギアスキャンセラーとよばれる力は生まれない。それがどんな力か、どのようにして生まれたのかは知らないが、それがないと楽にギアスを解除することは出来ないと教えてもらっている。だから、殿下たちに本当の記憶を望んではいけないと。下手を打って、シャルル陛下にヴィ家の両皇女殿下の存命が、所在が伝わってしまえば、また新たな記憶改鋳を施される可能性もある。だから、彼女たちの意思に任せなければいけない。そう言われていて、ジノは納得していた。だから、詳しいことは何も言わない。言えない。


「じゃあ、ナナリー、そろそろ一度上がろうか。体が冷えてしまう。」

「はい。ジノさん。介助してくださいますか?」

「勿論、じゃあ、浮き輪引っ張るよ、力抜いて。手はこっち。」

「はい!」


入る時は岩場から直接海水に入ったが、帰りは浜辺へ誘導する。それに気づいたカレンはすぐにラクシャータとの談笑を辞めて腰を上げた。俺はそろそろナナリーの足が浜に着くだろうあたりで立ち止まる。カレンはそれを確認して、真っ直ぐとこちらにやってくる。一切の躊躇いなく海水を押しのけて。


「ナナリー。」

「はい、カレンさん、お願いします。」


そしてそのまま、すぐ目の前まで来て、声をかけてからナナリーの体をすくい上げた。そして来た時と同じように浜辺まで戻っていく。その背を見守り、残された浮き輪をもってジノもついて進む。「そう言えば、ルルーシュがジノに焼きもち焼いているわ。」という声がして、「そこは是非、ジノさんを独占していた私に焼いて欲しいところなのに。」という返事を聞いた。聞こえないように会話して欲しい所だが、ナナリーは兎も角言い出しっぺはカレンである。完全に、ジノに対する攻撃だった。クリティカルだ。思わず気分が落ち込む。タイミングよく振り返ったらしいカレンに「だらしないわね。」と言い捨てられた。悔しいからいつか絶対ぎゃふんと言わせてやると心に誓う。

カレンはまっすぐと、開いているサマーベッドを目指していた。浜辺にはいつの間にか咲世子が控えていて、カレンの腕の中に抱かれているナナリーに、慣れた手つきでタオルをかけてやっていた。「ありがとう、咲世子さん。」と声をかけたナナリーに、「お飲み物を準備しますが、何かご希望はございますか?」と咲世子が声をかける。海水に長く浸かると脱水症状になりやすいための処置である。ナナリーは少し悩んだように「ん~。」と可愛らしい唸り声をあげていた。


「スポーツドリンクが無難ではあるけど、まぁ、飲みたいものでいいと思うわよ?」

「今飲みたいもの、何でしょう。ジノさんは何かご希望がありますか?」

「私?あ、いや、俺は、そうだな、麦茶が飲みたいかもしれない。」

「麦茶!いいですね!麦茶はありますか?咲世子さん。」

「ええ、すぐにご準備させていただきますね。」

「あ、俺も手伝いますよ。」

「ありがとうございます。それではお茶、いえ、お昼にいたしましょうか。」


急いで海から上がり、咲世子を追いかける。

カレンはナナリーと話ながら、やはりまっすぐとルルーシュの方へと進んでいった。気が付けば先ほどまで殿下の周りに侍っていた者たちは、ナナリーと入れ替わりに海の中だった。ルルーシュとナナリーの二人だけが、サマーベッドに残っているのだ。きっと周りは気を利かせてその場を離れたのだろうと察した。しおれていたロイドさえ、いつの間にか戻ってきていたらしいジェレミアに引きずられて海の中だった。あれは、遠目にも分かる。ロイドは溺れ死にそうだ。先ほどまでルルーシュの隣にいたラクシャータは、カレンについて紅月親子に声をかけに言ったらしい。4人で何やら歓談しているのが確認できた。


「ではジノさん。こちらをお願いします。私は施設にルルーシュ様のお弁当を取りに行ってまいります。」

「そっちの手伝いは大丈夫か?」

「はい。それをはやく届けて差し上げてください。」


丁度いい色味の麦茶が3つ並んだトレーを受け取る。外の暑さも相まって、中の氷が温度差と戦う音が微かに聞こえる。振り返れば麗しき我らが主とその妹君は仲睦まじく同じベッドに腰を掛けて、ご歓談中であった。2人きりの時間を取って差し上げたいが、ナナリーへの給仕は優先事項だ。そして何より、俺だってルルーシュ様とお話したいのだ。そろそろ、ほんの少しくらい、いや、割とたくさん。みんな、ナナリーにかける優しさの少しは回してくれてもイイのではないかと思う。いや、同じ扱いに何て死んでもならないとは分かっているのだが、そんなことは自惚れて楽観的に世界を見たところで分かり切っているのだが、それでも、と思う。

その時思ったのだ。誰も、ジノには優しくない、と。


「・・・あれ?今日俺、一度たりともルルーシュと2人きりになれてないな?」


まだエリア11に来て数か月だが、あからさまに周りはジノに厳しかった。その事実に思わず眉間に力を込めて歯を食いしばる。泣くものか。キンキンに冷えた麦茶の入ったグラスが3つ並ぶトレーを持ち、ランペルージ姉妹の元へと足を勧めた。カラン、と氷が涼し気な音を立てる。


「ルルーシュ、ナナリー、水分補給は大事だぞ。」

「ジノさん、ありがとうございます!」

「ジノ、私の分まで、というか全員分買ってきたのか?アイツらのことは無視してよかったのに。」

「お心遣いありがとうございます。でも、俺は大丈夫だよ。」


ルルーシュがナナリーと座っているのは右から2番目のベッドであり、1番目のサマーベッドとの距離感は割と近い。2番目のサマーベッドのために設置されたサイドテーブルが3番目側であり、3番目のサマーベッドのために置かれたサイドテーブルが2番目側であるため、2番目のベッドと3番目のベッドは若干離れている。それを確認した上で、ジノは1番目のベッドのサイドテーブルに自分の分の麦茶だけが乗ったトレーを乗せ、序でとばかりに1番目のベッドにうつぶせに寝ころんだ。固い。仰向けに寝なおそうと思った時だった。「お疲れ様、ジノ。」という言葉と共に、なんとも優しい手が後頭部に降ってきたのは。「ジノ、ナナリーと遊んでくれてありがとう。」と続いたから、これはどうやらご褒美であるらしかった。一気にテンションが上がる。先ほど若干落ち込んだことなんて、既に忘れた。

丁度、ジノと一緒にいた時の話をナナリーがし終わったところであったらしい。今日は水に浸かるのだからと、普段の三つ編みはしていない。代わりにルルーシュが、髪を器用にまとめてくれていた。暫く撫でられるというイベントを堪能し、それでもやっぱりおでこが痛いと思いなおす。殿下の手は嬉しいのだが態勢を今すぐ変えたかった。

殿下の手が少し浮いたタイミングで体を浮かし起き上がる。殿下たちと向かい合うように。


「ジノ、お前の襟足にどんな意味があるのかは知らないが、短いのもカッコいいと思うぞ?」


殿下がそう言ってニッコリ笑う。そして今度は、まだ濡れたままのジノの前髪を梳くように、指を遊ばせていた。息が詰まる。色々な感情が溢れて止まらない。ルルーシュが褒めてくれた。自分自身でさえ一度は忘れていたが、この髪は願掛けの意味はあるにはある。だが、その願掛けもルルーシュのためのものだ。だから、今のルルーシュが短い方を望むというのなら、それでも構わない。躊躇いはない。


「もし、短くするといったら、切ってくださいますか?」

「私がか?・・・私は、構わないが。・・・というよりジノ、口調。」

「じゃあ、ルルーシュに髪切ってほしい。」

「まぁ、ジノさん、襟足無くなっちゃうんですか?皆さんから犬のしっぽのようだと聞いていて、いつかこの目で見える日を楽しみにしていたのですが。」

「ナナリー、髪はまた伸びる。でも俺も、ルルーシュに髪を切ってもらうっていう希少な体験をしてみたい。」

「お姉さまの手はきもちがいいでしょ?ジノさんばかりずるいなぁって、丁度思っていたんです。」


ルルーシュの隣で麦茶を飲んでいたナナリーがそう言った。

ナナリーは周りの気配に本当に敏感だと思う。本当は、その目は見えているんじゃないかってちょっとばかり疑ってしまう程だった。ルルーシュはナナリーの発言にクスクスと笑い声をたてる。そして、ナナリーから飲みかけの麦茶を受け取ったルルーシュは、一番近いサイドテーブルにそれを置くと、ナナリーと共に急に倒れ込んだ。瞬時に聞こえた「お姉さま!?」という驚いたような、それでいて楽し気な声と、サマーベッドがきしむ音。ルルーシュがナナリーを抱き抱えるようにして、倒れ込んだことによる結果だった。


「もう、ビックリするじゃありませんか。」

「ふふふ。ナナリーが拗ねているのが嬉しくてね。」

「おねえさま!」

「流石に今のは驚きます。ナナリーは怒ってます。」

「それはすまない、お姫様はどうすれば機嫌をなおしてくれるだろうか?」


隣のベッドは何というか、御花畑だった。

ナナリーはルルーシュに緩く抱きしめられる形で、彼女の上に乗っていた。それを、もそもぞと居心地のいい場所を探して体の位置をかえていく。ルルーシュはそんな彼女を好きにさせ、最終的にナナリーがルルーシュの肩に懐いたのを嬉しそうに支えていた。極至近距離で愛する妹の髪を撫でられることに、何ともご満悦なご様子だ。


「本当はお姉さまからジノさんの香りがしてそれも不満です。」

「そうなのか?」

「はい。それを脱いでもらうわけにはいかないので、お昼の後、いっぱい遊んでください。」

「自分の上着を忘れてしまったからな、まぁ、私は、脱いでしまってもいいのだが。濡らすわけにもいかないし。」

「だめ、絶対ダメ、それだけはダメ!好きなだけ濡らしていいから脱いじゃダメだぞルルーシュっ!」

「そうです、絶対にきていてください。でもジノさんは暫く黙っていてください。」


怒られた。

大人しく口をつぐみ、手持ち無沙汰に自分の分のドリンクを口へと運ぶ。

俺も殿下とイチャイチャしたい。ナナリー殿下が羨ましい。とはいっても兄弟にはなりたくない。ナナリーは同腹の妹であるからこそここまで溺愛されている訳であるが、殿下たちは覚えるだけでも億劫な人数の兄弟を他にもお持ちだ。最悪認識さえしてもらえない兄弟になるなんて嫌である。でも、可愛がっていただけるならもう何でも良いのではないだろうか。いやいやいやそんなわけないだろう。自分は何になりたいんだ。目先の欲望に大義を見失うのは愚かなことだろう。ガキのような可哀想な自身の思考回路を他人事のように貶す。


「お姉さま、お昼を食べたら、足だけでもつけられるところに参りましょ?ジノさんも一緒に。」

「分かった。じゃあ、とりあえず食事、だな。咲世子に預けてあるんだ。皆を呼び戻さないとな。」

「お昼は先ほど咲世子が既にとりに向かったから大丈夫だ。・・・その次は、俺の仕事か?」

「いや、呼べば戻ってくる。というより、そろそろ戻りたくてうずうずしてる奴が一人いる。」


そう言ってルルーシュは、少しだけ体を起こした。そして、キョロキョロと、誰かを探し手をひらひらと動かしながら、口は音を出さずに何かを呼んでいた。ルルーシュの視線の先を見れば、そこにはジェレミアから解放され、無視の域で浜辺に打ち捨てられたロイドがいた。彼はルルーシュの行動に気づいたらしい。今にも死にそうであったのが嘘のようにぱっと顔を輝かせ、起き上がった。


「でぇーんかぁ!」


ロイドの声はとてもよく響き、岩場の紅月親子とラクシャータにも聞こえたらしい。こちらを振り返っていた。そしてそれは、ジェレミアも。へばっていたのが嘘のようにあっという間に戻ってきたロイドに、ルルーシュは「お昼にしよう。」と声をかける。するとロイドは、「まぁってましたぁ!」とないているのかと疑いそうになるような類の笑顔を浮かべて心の底からの喜びを見せつけていた。


「私のオレンジ。」

「はい。ルルーシュ様。」

「ナナリーを運んでやってくれ。・・・ナナリー。」

「よろしくお願いします。ジェレミアさん。」

「御意。それでは、失礼いたします。」

「ジノ、ロイド、行くぞ。カレンたちは勝手にくる。」

「了解だ、ルルーシュ。」

「殿下のてりょーりぃー。」


ルルーシュとナナリーの麦茶を受け取り、自分の分と一緒にトレーに乗せ、ルルーシュと共にジェレミアに続く。食事は浜辺ではなく、施設と浜辺の間の林の中に設置されたテーブルで行うのだ。目的地では既に咲世子が粗方の縦鼻を終えており、テーブルの上には埃避けが外されていない料理が、食べてくれる者たちを待ち構えていた。


「ナナリーさま、つきました。おろしますね。」

「はい。ありがとうございます、ジェレミアさん。」


備え付けのものではなく、ナナリーの為に準備した椅子にナナリーを座らせる。生徒会室と同じように、その位地は短辺だった。ルルーシュもまた、ナナリーの右手側になる、長辺の端に腰を下ろした。そこが定位置である。ジノはそんなルルーシュの前に、ルルーシュの分の飲みかけの麦茶を置く。


「殿下の料理、ほぉーんとに楽しみだよぉ。ボクはこのために生きてる。」

「あら、そんなこと言って、セシルの料理に殺されても知らないわよ。」

「やぁめぇてよ、彼女の料理は本物の兵器だよぉ。」


そんな事を言いながらすかさずルルーシュの隣に座ったロイドに聊か殺意を覚えつつ、その隣に腰を下ろした。反対側にはジェレミアである。そのタイミングで紅月親子とラクシャータがやってきて、ナナリーの近くから順に、カレン、ラクシャータ、紅月さん、ナオトと並んだ。最後に、全員が着席したことを見守った咲世子はそれぞれに飲み物を配り、ルルーシュとナナリーのコップには冷えた麦茶を継ぎ足した。彼女たちがそれでいいと言ったからの処置である。そして、一番施設に近い短辺、ナナリーの対岸に咲世子が着席する。それを見届けたルルーシュが日本式の食事の挨拶、「いただきます。」を口にし、それをみんなで復唱。ランチタイムが始まった。


「セシル、というのは、ロイドたちの仲間だったな。その人も、記憶があるのか?」

「セシルくんにはないよ。しかも、彼女はジノくんと違って、誰にも何にも教えてもらってもいないよ。」

「だから彼女は、施設全体を休日にしてまで休みをもぎ取った理由を知らないのよ。」

「ラクシャータっ!別に、ズルしたわけでもないんだし、いいじゃない。」


話に割って入ったのは慌てた声で呼ばれたラクシャータ。

誤解を与える言い方をするなとラクシャータに噛みついたロイドは、慌てた様子でルルーシュに言い訳をしようとして言葉を噛み殺した。ここには軍事機密を話せない相手が数人いるのだ。


「ジノ?」

「特派に清掃業者をいれただよ。その関係で、一部の監督者を除き施設全体で休業。」


ジノは事の次第を思い出す。

たしか、元々施設の徹底清掃の話があり、業者を入れてはどうかという案があがっていたのだが、それまで業者が入ることを嫌がっていた筈のロイドが急に受理し、日付までさっさと決めてしまった、ということだったはずだ。

元々あった計画を実行しただけ。だから「今日は無理やり休みにしたわけではない。」というのはロイドの主張。

しかし、今まで機密保持の観点から、部外者がセンターに入ることを嫌っていたのはロイド自身である。と。ロイドがこれ程大きな【移動しない研究施設】を手にしたのは初めてのことらしい。しかも彼らの研究は現代より約3年後の技術に関するものだった。まだまだ世間では思い陸上走行のKMFが主流であるのに対し、彼らが作り上げたそれらは空も飛べる。最初に出来上がった【ランスロット・アルビオン】という機体は第9世代型だと、自慢げだった。まぁ、動かせる人間がいない為、唯の鉄の塊なのだが。しかし、「ジノくんのだよ。」とテストパイロットとして乗せられた、【トリスタン・ディバイダー】という機体は、あっけないほど気軽に空を飛んだ。しかも、何故か変形する。ラクシャータは変形する意味が分からないとぼやいていたが、ロイド的には変形しないトリスタンはトリスタンじゃないらしく、意地でこの仕組みを採用したのだという。よく分からないが。まだまだ改良を続ける気らしいが、それでも第8世代型である。曰く、「僕のランスロット・アビリオンとか、ラクシャータの機体にボクが手を加えた紅蓮聖天八極式には勝てないけど、他の敵はめじゃないよぉ~。」とのことだった。第六世代型を漸く見慣れ始めたというくらいなのに、この人たちの技術力は常軌を逸しているとしか思えない。話がそれた。


「流石に、キャメロットには入れてない筈だから大丈夫だぞ。」

「・・・詳しくは後で聞くが、ロイド?」


つまり、ロイドはこのエリア11に【自分たち専用の研究施設】を手に入れてから今日まで、頑なに外部の人間が足を踏み入れることを許さなかったのにも関わらず、今日は外部委託の清掃業者が施設内の清掃に入っている。(まぁ外部と言ったところで、名目上ロイドの上司であるシュナイゼル殿下の息のかかった者たちなのであるが。)そうまでして休みをもぎ取り、ここに参加しているのだということだ。


「だてぇ、オレンジくんが殿下と遊びに行くって言うし、その日ラクシャータもカレンくんやジノくんも休みだって知ったら、ボクだけ仲間外れにされたって思うじゃない。」

「あら、察しがいいわね。まぁ、おかげで私の有給申請は無意味になったから、有給が一枠増えたわ。」

「ボクだって、殿下と遊びたい!」

「その上司の我儘のためにセシルは一人業者の相手だなんて、可哀想よねぇ。」

「ジェレミア。私は、ロイドの研究の邪魔をしたんだろうか?」


ルルーシュが、不安げな表情で、オレンジ色のトップが下がるペンダントをいじった。そのペンダントはジノが贈ったものである。ルルーシュは基本暗い色ばかり身に着けているが、唯一持っている明るい色がオレンジであるから、それが好きなのかもしれないと勘違いして贈ったものだ。度々ジェレミアを「私のオレンジ。」と呼び、ロイドが「オレンジくん。」と呼ぶところから、なぜ不穏な空気を察せなかったのかと今になっては悔やまれる。喜んでいいのか悪いのか分からないが、現在それはジェレミアを呼びだすための道具として、有効活用されている。普段装飾品を身に着けない彼女に使ってもらっているだけマシではあるが、体の何処かが非常にいたい。


「いえ。決してそのようなことはありません。そこの男が聊かおかしいだけです。」

「そうか?」

「ええ。そもそも、これ以上彼らの研究を勧めさせたところで、今のところ何の利益もありません。」


言い切ったジェレミアに、ロイドは「そんなぁ、酷いこと言うねぇ。」と肩を竦める。自覚はあるから強く言い返せはしない、といった表情だった。彼らの研究施設は、新しい成果を一切上にあげていない。研究施設の外での彼らの評価は、【資金食いの穀潰し】だった。しかし、ジェレミアが言っているのはそう言う意味ではない。


「事実だろう。実践投入出来ないモノをゴロゴロと。」


彼はロイドの研究施設が、他のどのチームよりも優秀であることを知っている。しかし、優秀すぎるがゆえに、誰にも扱えないワンオフ機を量産していることに苦言を呈している。そのワンオフ機の内一機のパイロットであるカレンは、「私はいつでも動かせるわよ?」とどこ吹く貌でルルーシュお手製のサンドウィッチを頬張る。


「ええ、私の可愛いカレンは大変優秀だわ。」

「ジノくんだって優秀だ!」

「あら?アナタ、ランスロットは良かったの?アナタの可愛い可愛い愛息子は。」

「見つからないんじゃどうしようもないでしょ!」

「見つからないのに機体だけ育ててどうするの。そもそも、彼が味方とは限らないわ。」

「・・・それは、分かっているけど、」


ランスロットのパイロットは、枢木スザクであると聞いている。彼らの共通の記憶である、2017年にクロヴィス殿下の指揮下で起こったシンジュク事変で、そう運命づけられたのだと言っていた。彼はその機体でラウンズにまで上り詰める。しかし、今この世界は2015年であり、枢木スザクは現在、ブリタニア軍属ではない。名誉ブリタニア人でもない。その名前は沈黙を貫いている。


「前々から気になっていたが、ランスロットは誰を想定して作ってあるんだ。他の誰にも動かせない機体、なんて。」

「・・・それは、その内分かるよォ。たぶん。彼はもしかしたら、こちら側かもしれないからね。」

「・・・間違えなく、アイツはこちら側よ。なのに何の連絡も寄越さない。不気味ったらありゃしないわ。」


ルルーシュの質問をロイドが拾ってはぐらかす。そして、その後にカレンがいつも通り、心底嫌です、とでも言いたげなセリフを吐きだした。話に登るランスロットのデヴァイサー、枢木スザクと紅月カレンには何があったんだと思わずにいられない。


「私のも記憶があれば良かったんだが。」


思わず零れた言葉は、ロイドとジェレミアだけに拾われた。ロイドが小さな声で一言呟く。


「君はね、きっと後悔するよ。思い出してしまうと。」

「人から聞いただけの預かりものと、実際の感情を伴う記憶は別物だ。」


彼らの忠告に、不満が募る。そうは言ったって、二人とも記憶はあるのだ。あるうえで、彼らは今動いているのだ。何も知らないままに彼らの言葉を信じるしかない自分とは違う。羨ましく思って、何が悪いのだ。

今日のランチは昨日の夜から、ルルーシュ自ら仕込みをし、今朝早くから取り掛かって完成させた絶品だ。でも、美味しい筈のそれなのに、何の味も感じなった。