【CG腐向け】No title .

東辻 香
@tkkz_50

Ⅱ ジノ・ヴァインベルグ ②

皇歴2016年春。

ナナリー皇女殿下のための歩行補助具は、その第一サンプルが完成した。

この開発のためにラクシャータは何度かナナリーと顔合わせをし、気が付いたら仲良くなっていたどころか、主治医まで彼女に変わっていた。今彼女はアッシュフォードに雇われ、学園女子寮に住んでいる。住み込みの専属医だ。ナナリーとラクシャータは意外と馬が合ったのか、たまに渋っていた検診を嫌がることが無くなったという。検診場所が学園内でいいというのも大きいのだろう。しかもラクシャータは相当優秀らしく、彼女が主治医になってからナナリーは肌艶まで完璧だと、ルルーシュは絶賛していた。ロイドもまた、予定通りエリア11で自身の自由が利く施設を手に入れた。彼らが言うには、前回は向かいの大学の施設を間借り利していたそうだが、今回は新しい施設を新設している。しかも、そこの人事権はロイドに一任されており、軍人ではないがテストパイロットはしているカレンや今後本格的に行う予定のジノもその職員名簿に名を連ねている。

施設の正式名称は【特別派遣嚮導技術部】というらしいが、その中にロイドの個人的なチームである【キャメロット】を内包しており、(本人は不本意そうであるが書類上ロイドの部下ということになっている)ラクシャータや、彼女の機体のパイロットであるカレンと、ロイドとラクシャータが共同開発する機体に乗ることになるジノも、正確はそこのメンバーという扱いになっていた。ちなみに、余談ではあるがロイドはその施設を手に入れ、腰を据えて以来、定期的に夕飯を強請りにクラブハウスを来訪するという。曰く、住み込みの専属医として合法的にクラブハウスに入り浸るラクシャータはズルい、とのことだった。

そして、


「ジノ、よく来たな?」

「はいっ、ルルーシュ殿下!」


ゴッドバルト辺境伯家とアスプルンド伯爵家の両家からの圧力があったこともあり、ジノ・ヴァインベルグは比較的あっさりとエリア11への留学が許された。ヴァインベルグがいくら名門と言ったところで、皇族の覚えめでたい伯爵家、しかも二家からの圧力には抗えなかったようである。期間は、一応、高等部を卒業するまで。元々ジノには兄がおり、彼に家督が回る可能性はかなり低かったというのも多少はあるだろうが、将来的に士官学校に入学させ、自分の腹心として育て上げると言ってのけたゴッドバルト辺境伯家当主ジェレミアに、ジノの父が言葉を噤んだことがなによりも大きいだろう。いっそ、いつの間に辺境伯と縁故を築いたのかと手放しで褒められ、送り出されたほどだ。


「・・・殿下は辞めろ、様もナシだ。一応お前は幼馴染という事になっている。私に対して敬語は禁止だ。そして、そうだな、呼び捨てで呼んでくれて構わない。」


ジノに他人のフリをしろ、というのもうまくいかないことは目に見えていた。ジノ自身、そんな事を言われても全うしきる自身はなかった。だからいっそのこと、皇女相手の行動とは真逆に振り切れば幾分かマシなのではないかと呼び捨てを提案すれば、「よびすっ、」と一瞬フリーズしてしまう。流石に、ジノには無理だったと悟る。

ルルーシュは考えた。

もしやそもそも、この少年は詳しい設定を聞いてさえいないのではないか、と。その推察は当たった。ジノは、何も聞いてはいなかった。話を聞いていなかったのではなく、誰も教えてくれていなかったのだ。ルルーシュは一つ溜息を零す。それはジノに対してではないが、ジノは焦りだした。より一層混乱させることになるだろうことには申し訳なさを覚えつつ、詳細を説明することにする。


「学園では私はごく普通の庶民だ。貴族のジノと幼馴染、というのは本来ならば無理がある。だから、ランペルージ家はヴァインベルグ家の傘下であり、その都合で幼いうちから顔合わせをしてきた、という事にしよう。」

「・・・え、待ってください。それって、ルルーシュ様の方が俺、じゃない、私より身分が下になって、」

「だから、そうだと言っている。当然、人前で敬語は当然禁止だ。可能ならば、いや、不可能でも呼び捨てにしろ。」

「えっ!?」


ジノは春の学級編成に間に合った形で、中等部三年に転入してきた。丁度、ナナリーが中等部に進級する年だった。

比較的庶民の多いアッシュフォード学園内にあって、生粋の貴族である、という事も理由の一端かもしれないが、彼の住居は男子寮ではなく、ルルーシュたちと同じくクラブハウスだった。一応男子寮にも一室、一人部屋を抑えてあるのだが、実質的に生活するのはクラブハウスで間違えない。これは、アッシュフォード家が気を利かせた結果というより、ゴッドバルト家とヴァインベルグ家からの圧力があってのことだろう。


「そうだな、アーニャ、だったか?本当なら行儀見習いとしてアリエス宮に来ていたはずの少女の名は。」

「その通りです。」

「おまえの幼馴染だと聞いた。」

「彼女の生家とは古い付き合いですので。」

「なら、彼女にするのと同じように私に接してみろ。」

「アーニャと!?」

「安心しろ、私はスザクのおかげで生意気な口をきかれることにはとっくに慣れているし、そもそも今まで庶民として暮らしてきている。だからそのくらい何とも思わない。私の騎士になりたいのなら、これくらい朝飯前だろ?」


ジェレミアは、ジノを、護衛としてもルーシュの傍に置きたがっていたから、本当は学年さえ同じにしたかったのかもしれない。しかし、一応一般的な価値観も持っているジェレミアは、飛び級まではさせず、とりあえず居住を一緒にさせたのだろう。まぁ、おかげで授業以外ずっと一緒だということになるわけだが、それならば一々畏まられても困るというものだ。ルルーシュは別に、従者が欲しいわけではない。自分のことは自分で、人並み以上に出来る。咲世子だっている。だから、ジノには悪いがそんなに畏まられていては居心地が悪いだけだ。


「ああでも、ジノは顔がいいからな。余り仲が良さそうに見えると、女子生徒の恨みを買うかもしれない。」

「・・・殿下を恨むなんて、そんな娘がいるとは、」

「そうだな、・・・例えば、私とお前は婚約者である、とでも設定を追加しておけば自然だが、」

「婚約者っ!?」

「そんなに嫌がらなくてもいいだろ?」

「い、いえ、嫌がったわけじゃっ、むしろそれは光栄っていうか、って、そうじゃなくてっ、」

「ジノ、落ち着け。」


一度混乱してしまったジノを和ませるつもりで吐いた冗談であったが、ジノはより一層混乱してしまっていた。だから、とりあえず、「コレを飲め。ゆっくりだぞ?」と、ペットボトルの水を勧める。ジノはペットボトルを初めて手に取るらしく、一瞬それまでとは違う方向に戸惑っていたが、先ほどのルルーシュの行動を想い返したのか、数秒後には飲み口に口をつけていた。まぁ、付けた直後に、何故か噎せだしたのだが。だからゆっくり飲めと言ったのに。

噎せるジノを抱き寄せる形で背中を叩いてやれば、その振動に合わせるようにちょっとずつ呼吸が穏やかになる。呼吸の乱れた完全に消えたと思った数秒後には、体が強張ったことに驚いたが、体を離してその顔を覗き込めば風邪でも引いたのかといいたくなるくらいに真っ赤に染め上げていたことから、人前での立て続けの失態に羞恥心が凄まじいのだろうなと解釈した。貴族というものは大変だ。


「そ、その、婚約者というのは、嘘でも嬉しいのですが、その、」

「なんだ?」

「・・・敬語、様付けじゃ、どうしてもだめですか?」

「ああ。どうせ、お前との人間関係の設定上、そうするのが一番自然なんだ。」


ジノは安心したような、何処か残念そうな表情でこちらを見ていた。婚約者、というのは家も関わることだし、こんなに慌てさせるのなら今後冗談でもいうべきではないな、と、いささか見当違いの結論に落ち着いたルルーシュは、ようやく落ち着いて複雑な心境の真っただ中にいる少年に対し、早速の実践を強要する。


「じゃあ、ジノ、試しに呼んでみろ。」

「えっ、あ、ルルー、シュ、」

「なんだ?ジノ。」

「そ、その、今日から俺もココに住む、から、世話になるよ。よろしくな。」

「ああ、いらっしゃい。そして、おかえり。ジノ。今日から私たちは家族だ。」


困ったように微笑みながら、これでいいの?と言いたげに首を傾げたジノを、可愛いと思ってしまったのは仕方がないことだと思う。後で彼が好きなものを聞いて、今晩の夕食は、可能な限り豪勢にしようと決めて、ジノを彼の部屋へと案内する。場所は、ルルーシュの自室の隣の部屋だ。


「ああ、そうだ、ジノ、何かあったときのために、私の部屋の合鍵を渡しておく。悪用するなよ?」

「あ、くよう?しませんよっ!!」


クスクスと笑うルルーシュはどこまでも意地悪で、それでいて優しい。綺麗な手が、あまりにも優しく頭を撫でていくのだ。「荷物は後で届くのだろ?とりあえず、今足りないものを確認しておけ。」と背中を押されては、素直に中に入るしかない。ジノは咲世子が届いた荷物を運んでくるまで、部屋の中を確認していた。殿下から渡された鍵を保管する場所を決めるために。鍵は二つ付いていた。片方は正面から入るための鍵。そして、もう片方はきっと、そこの壁に着いたドアを開けるための鍵だ。殿下は、完全にジノに自身のプライベートを預けてくれたのだと分かった。まだ、正式な騎士ではないジノに。はやく士官学校に入りたい。心の何処かで何かがそう囁く。


「ジノ、少しいいか?」


ジェレミアたちから教えられた世界では、ジノは皇歴2018年、ルルーシュ殿下が帝位を簒奪するまでナイトオブラウンズであったという。緑の正装を与えられた陛下の騎士、ナイトオブスリーであったのだと。だから、俺はそれを追い抜くくらいに成長しなければならない。そう言われている。それだけの素質があるのだからと。

でも、まだ俺は軍人じゃないから何もできない。ジェレミアは本格的な軍事訓練はさせてくれない。毎日何らかの対人戦闘訓練や、アナログの狙撃練習なんかはさせられているが、それだけだった。

俺も、はやく、殿下のための剣になりたい。少なくとも、殿下の唯一の騎士であったという、ナイトオブゼロにだけは負けたくないのだ。


「はい、どうぞ、殿下。鍵はかかっていません。」

「失礼する。」


正面の入り口からルルーシュが顔をのぞかせた。丁度、荷解きの真っ最中であった。「手伝おうか?」と首を傾げるルルーシュに、「そんなことさせられません。」とキッパリと拒否する。少しばかり表情が曇ったのは気になったが、無理なものは無理だった。だって、イレブンの使用人である咲世子の申し出さえ断ったのだ。


「何か御用でしたか?」

「いや。ジノが今日、何を食べたいか聞こうと思ってな。」

「え?私がですか?」

「ああ。この家には専属のシェフはいないから、それ程凝ったものは準備できないかもしれないが、可能な限り聞いてやる。」


ですが、その、と口籠れば、ルルーシュははっきり言えと命令を下す。殿下がお好きなもので結構です。と答えれば、それはいつでも作れると言われる。今知りたいのは、お前の好きなものだと真っ直ぐに言われた。ジノの頬は何故か熱る。では、と、思いつくままに言葉を綴る。殿下は少し考えた後、わかった。と朗らかにほほ笑んだ。



・・・・・



こうして、この日からジノはランペルージ姉妹と一緒に住むようになった。

今日、ナナリー殿下はラクシャータのところであったらしい。出発前には「ジノさんにお会いしてから。」と駄々をこねたという。


「ナナリー、彼がジノ・ヴァインベルグだ。そして、ジノ、この子がナナリー。私の最愛の妹だ。」


ナナリーは、「ルルーシュとジノはロイドの紹介でルルーシュと知り合った」と説明されていた。

まずナナリーの主治医候補のラクシャータと知り合ったルルーシュに、ラクシャータがロイドを紹介。その後、ロイドがエリア11への留学を希望していたジノを紹介した、と。ルルーシュにラクシャータを紹介したのはジェレミアであるという。ちなみに、ジェレミアとルルーシュの出会いは、「普通に見つけられてしまった」とだけ説明されていた。町中で偶然、ばったりと。それから、何度かルルーシュとジェレミアは顔を合わせ、警戒する必要はないとルルーシュが判断したことにより、ナナリーは初めてジェレミアと顔を合わせた。ジノはそう聞いていた。

ちなみに、ロイドは赴任以来クラブハウスに度々遊びに来るが、ジェレミアはルルーシュが呼びださない限り現れないため、ナナリーには滅多に会わない。

そう言った説明の過程でルルーシュは、「ジノはヴァインベルグ家の人間であるが味方だ。私の騎士になりたいそうだ。」と説明していたらしい。どういった言い方をしたのかは知らないが、それを受けて、だろうか。色々と彼女なりの解釈があったのだろうが、ナナリーは可愛らしい声で「お姉さまの恋人ですか?」と聞いてきた。

続いた言葉には、「お姉様の恋人はスザクさんだけだと思っていたのですが。」と。ルルーシュは、なんでそこでスザクが出てくるんだと思いつつ、「婚約者のフリは断られたんだ。」と返した。それを聞いていたジノは今にも泣き出しそうな顔して言葉にならない音を繰り返して小さく横に首を振った。


「ナナリーです。私は見ての通りですので、ジノさんのお手も煩わせることがこれからあるかもしれません。その時は、宜しくお願いしますね。」


三人で囲むテーブルに並ぶのは、ジノが食べてみたいと言っていた家庭料理と呼ばれるものたち。当然、ルルーシュの手料理だった。比較的、ブリタニア的な料理が多いのは、こちらの食事にまだ慣れないだろうと考えてのことだ。

ナナリーをジノに任せる形で、二人で会話する時間を作ってやり、ルルーシュはキッチンに向かったのだが、ジノはルルーシュが自分で料理をするという事実に凄まじい戸惑った。庶民の感覚、というものには興味がるが、ジノにとってルルーシュは皇女殿下でしかなかった。その上、誰か友人から手料理をふるまわれる、というような経験もない。単純に慣れないのだ。

ジノがあまりにもそわそわと落ち着かないものだから、ナナリーは「キッチンを覗いてみてはいかがです?」との提案をした。それを聞いて素直に調理中のルルーシュの後姿をみつめていた。手伝いを申し出たかったが、ジノに料理経験はない。足を引っ張る未来視か見えず、情けない姿を晒す現状にどうしていいかもわからなかった。

そんな暇人の口に、ルルーシュはおかずを一品ねじ込めむ。与えられたおかずの名前を地のは知らなかったが、普段食事会のフルコースに出ていないというのはおかしいのではないかと感じるほどに美味しい。それを咀嚼しながら、「ナナリーの相手をしてくれ。」という願いに頷く。心配する必要はないし、するだけ失礼だと悟ったのだ。

後から聞いたことだが、おかずの名前はからあげ、というらしい。火傷はしない程度に冷めた、大きめのから揚げ。お行儀悪いことは自覚していたが、もぐもぐと口を動かしながらリビングに戻れば、ナナリーに「ジノさんばかりつまみ食いですか!?」と怒られてしまい、慌ててしまったのはいい思い出だ。たぶん。


「今日から一緒に生活させていただくことになりました、ジノ・ヴァインベルグです。ナナリーさまに不都合がない限り、誠心誠意お手伝いさせていただきます。何でもおっしゃってくださいね。」

「はい。ジノお兄様。」

「えっ!?えーっと、」


これまでの会話では、ごく普通にジノさんと呼んでいたナナリーが、唐突にジノお兄様と呼んだ。

それに何を思ったのか、ジノは一瞬で首まで真っ赤にして、声にならない声をあげ、コップを倒しかける。まぁ、倒さなかったのだが。しかし、コップを倒しかけた、という事実にそれまでと若干違う力がかかったのか、一瞬で顔の色味が消えた。しかし、そこにさらにナナリーが、「落ち着いてくださいまし、お兄様。」と言葉を重ねたせいで、コップがピシリと不吉な音を立てた。それを見ていたルルーシュが、冷静な声で「ジノ。」と呼ぶ。呼ばれたジノは、「ふぁあい!!」となんとも言えない声を上げていた。


「落ち着け。」


ルルーシュは、キッチンでしたのと同じように、ジノの口へと残っていたおかず、今度はエビフライを突っ込む。ジェレミアからの報告を聞く限り、ジノ・ヴァインベルグは動体視力、運動神経、反射神経共に非常に優れているそうであるから、あえてよけなかったのだろう。と、ルルーシュは思ったのだが、当のジノは目をまんまると見開いていた。ルルーシュは内心、本当に優秀なのだろうか?と首をひねる。そんなルルーシュの心情など知らないジノは、大人しくそのエビフライを食べるために口を動かし始めていた。綺麗に揚がりきったしっぽまで完全に口の中に納まったのをみとどけ、「うまいか?」と問えば、「はい。」とお世辞ではないと分かり過ぎるほどに気の抜けた返事が返ってくる。それを聞いて、ナナリーはクスクスと笑っている。


「ナナリー、あまりジノをからかってやるな。可哀想だろう。」

「だって、ジノさん、お姉さまがいないと普通に紳士で面白くないんです。」

「ジノが紳士?」

「お姉さまの前か、お姉さまの話題の時だけなんですよ?これ程取り乱してくださるのは。」

「な、ナナリーさま、」

「私の前では【完璧】すぎて面白くありません。」

「・・・私は完璧なジノ何て見た覚えがないんだが。」


といっても、ジノと会ったのも前回と今回の二回だけなんだが。

小さく続けた言葉に、やはりナナリーはクスクスと可愛らしい笑い声をあげる。何とも楽しそうで「ですって、ジノさん。」と話を振ったナナリーに、ジノは頼りなさげな声で「ななりーさま、」と名前を呼ぶにとどめた。ジノは兎も角、ナナリーはジノに会うのは始めてだ。それなのに既に、分かり合っているようで納得いかない。ナナリーに友だちが増えることは、いいことなのではあるのだが。


「ジノ、今はいいが、学校では、ナナリーのことも呼び捨てだからな?」

「分かっているつもりだよ、ルルーシュ、」

「あら?お姉さまのことは普段から呼び捨てなんですか?」

「ああ。トレーニングだよ。会長のことだ、顔を合わせる機会が増えるだろうしな。」


ルルーシュは溜息と共に語る。

高等部生徒会会長、ミレイ・アッシュフォードはあらゆる意味で最強なのだと。相手が中等部の人間だろうが、知り合いなら構わず仲間にカウントしてこき使うし、ジノは色々とアッシュフォードと交渉したうえでここにきているから、会長から間違えなく目をつけられているだろう、と。


「トレーニング、ですか。てっきり、スザクさんの真似でもさせていらっしゃるのかと。」

「・・・なんでそうなるんだ。」


ルルーシュは呆れ気味にそう言った。それに対しナナリーは、花のような笑顔を添えて「なんとなく、です!」と返答する。それを受け止め「まったく。」とナナリーの頭を撫でたルルーシュは、ちらりとナナリーのティーカップを見てから、何か温かいものを淹れてくると言って立ち上がる。ナナリーはそんな姉に「紅茶がいいです。」とリクエストを投げかけ、それを受けたルルーシュは心底幸福そうな声で「美味しいのを淹れてやる。」と言い残し、キッチンの方へと去っていった。ついでに、開いた皿を幾つか持っていくのも忘れずに。

ルルーシュが動くと、一緒に咲世子も動いた。一気に大量の皿を下げる咲世子に感心しながらその背を見送り、彼女たちの足音が完全に部屋の外へと出た時だった。ナナリーが「それで。」と声を発したのは。見えていない筈の目をジノに合わせるように顔を向け、「何か気になる事でも?」と問うてきた。ジノは思う。ルルーシュ殿下も非常に聡明な方だが、この姫君も中々に強かだと。もしその両目が光を捉え、その両足が彼女自身の望むままに動いたのなら、閃光のマリアンヌとたたえられた彼女たちの母親同様に、麗しき形をした女傑となっていただろう。ジノは何故か、そう確信する。


「その、スザクっていうのは、どなたなんですか?ナナリーさま。」

「スザクさんですか?スザクさんは、このエリア11平定前までの、お姉さまの婚約者ですわ。」

「・・・婚約者。」


ジノは、ナナリーが語ったことを精査する。

スザクとは、枢木ゲンブ氏の子息のことである。始め、ルルーシュ殿下とナナリー殿下を土蔵で生活させようとしていたらしいゲンブに、スザクが進言し、母屋に部屋を準備させたのだという。今はアッシュフォード家に雇われる形でルルーシュたちの世話をしている篠崎咲世子は本来枢木家の使用人であり、その時からナナリー殿下の世話役であるらしい。まぁ、なんとなく事情を知っている身から考えれば、彼女は望んでその位地に潜り込んだのだろうと踏んだ。篠崎咲世子は記憶を持っているらしいのだから。

そして、枢木スザクは、おそらくジノ・ヴァインベルグの敵である。

枢木スザクとルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとの政略結婚が持ち上がり、日本はそれを迅速に達成するために法の改正に着手していたらしい。そして、ようやく改正にこぎつけた矢先にあの開戦を迎えたのだという。ナナリーの話では、ルルーシュはナナリーが政略結婚の道具でなければそれでいいと、あっさりとした態度であったのに対し、スザクはだいぶ乗り気であったらしい。「ずっと一緒にいれば、絶対いつか、本物の夫婦になれるから。」というのが、政略結婚そのものには諦めた態度であったルルーシュに対して、スザク少年の言葉であるそうだ。


「なるほど。じゃあ、そのスザクというやつは、殿下を好いていた、そういうことか。」

「はい。ジノさん。ライバルですね!」

「・・・ナナリーさま、そういうのはその、心の中だけで思っておいてくださるとありがたいです。」

「ふふ。ごめんなさいっ!でも、応援していますよ。ジノさんのこと。」

「ありがとう、ございます。」


ジノは考える。ジェレミアから、枢木家に気を付けろと言われていた。

彼らのもつ記憶では、(そもそもルルーシュ殿下は皇女ではなく皇子らしいのだが、それを脇に置けば、)枢木ゲンブはルルーシュ殿下とナナリー皇女殿下に土蔵での生活を強い、枢木ゲンブとナナリー皇女殿下の婚姻を破棄するためにルルーシュ殿下は皇位継承権を開戦前に返還、開戦後枢木ゲンブは自決したのだという。しかし、今回の歴史では枢木ゲンブは自決していない。その上、今まで知らされていなかったことであるが、ルルーシュ皇女殿下と枢木スザクの婚姻であると言われた。明らかにジェレミアたちの持つ記憶と食い違いが生じている。


「ジノさんはお姉さまが絡むと余裕がなくなられるようですが、スザクさんは怖くなります。」

「怖く?」

「ええ。何というか、年不相応、というか、」

「・・・年不相応、」

「はい。何とも不思議な方でしたよ。お顔が見られなくて残念なくらい。」


そもそも、枢木スザクには気を付けろと何度も言われていた。ジェレミアにしろ、ロイドにしろ、ラクシャータにしろ、事前に引き合わされたカレンにしろ、枢木スザクを疎ましく思っているようではなく、むしろ好意的であり、彼の話を自分自身の自慢話のように語る節がある。しかし、彼らが言うには枢木スザクには、どうにも前科が多少多すぎるらしい。「何考えてるか分からないところがあるからねぇ。」とはロイドの談であり、カレンに至ってはもっと直接的に「アイツはクズよ。」と切り捨てた。

しかし、枢木スザクが当時殿下を好きで、今でも好きなら、警戒しておいて損はない。もしかしたら、枢木スザクも記憶を持っている可能性がある。ジェレミアたちの記憶と、枢木家での実際に一致しない点が存在している以上、疑わないわけにはいかない。後で咲世子にも話を聞こう。

そう思った時だった。


「あ、ジノさん、お顔を触らせていただいてもいいですか?」


ナナリーが、初めて見る生き物に触れる子どものように、とても明るい声で、そう言い放ったのは。


「顔?構いませんよ?でもどうして?」

「ジノさんの顔を想像するんです。」


ナナリーは語った。直接触れることで、ジノの顔を思い浮かべたいのだと。

ルルーシュから綺麗なスカイブルーの瞳と、長めの襟足が特徴的な金髪であると聞いていると彼女は言った。しかし、それだけでは個人の像をイメージしきるのには情報が足りないのだと。綺麗なスカイブルーは兎も角、長めの襟足が特徴的な金髪、という部分には苦笑せずにはいられない。なぜこんな髪型にしているのかは忘れてしまったが、これには意味があるんですけど。とジノは内心口籠る。


「触って分かるモノなんですか?」

「はい!ですから、ご迷惑でなければ。もしかしたら、未来のお兄様かもしれない方ですから。」

「・・・ナナリーさま、その揶揄い方は、もうやめてくださいませんか?代わりにいくらでも触っていいので。」

「ふふふ、残念です。でも仕方ありませんね。では、失礼しますね。」


ナナリーの指が、ジノの頬を滑った。瞼を滑った。鼻筋を滑った。耳を、首を、額を。

それぞれのパーツを何度も何度も行ったり来たりしている。それをジノは黙って受け止めていた。


「ジノさんの髪は、スザクさんよりサラサラしています。スザクさんはふわふわですから。」


ナナリーは言った。ナナリーの髪がふわふわのくせっけだから、ルルーシュはふわふわした髪が好きなのだと。ジノの髪がふわふわではなく残念だと。

ナナリーは言った。ジノの顔は整っているようだ、と。ルルーシュは、顔立ちが整っている人間からの好意に無情な程鈍いのだと。

ナナリーは言った。確かに、特徴的な襟足だと。

そして、大体わかったと言って、手は離れていった。「ありがとうございます。」と、花が綻ぶように柔らかく微笑んだ少女を見て、ルルーシュはこういう柔らかい雰囲気の子が好き、ということだろうかと考えた。しかし、それよりも気になる所がある。


「その、ルルーシュは顔がいいと靡かないっていうのは、どういうことです?」

「ふふふ、面白いまとめ方ですね。まぁ、間違えていませんが。」


ナナリーは教えてくれた。

モテる方なら選び放題であるはずだとルルーシュは認識している。その上で、わざわざルルーシュを選ぶようなもの好きは、そうそう居ないだろうと思い込んでいる。だから、ルルーシュには遠回しのアプローチでは好意に気付いてさえもらえないし、直接的な表現をとっても、【冗談】や【友愛】であると勝手に解釈されてしまう。と。

ナナリーは教えてくれた。

その原因は異母兄、シュナイゼルとクロヴィスにあるのだと。刷り込み教育、というやつだ。「君を好きだなんていう変わり者は、私たちくらいだよ。」と、人並み外れた美形に言われ続けて、感覚が狂っていったのだという。ごく普通に、兄たちの冗談のせいで本気の口説き文句を社交辞令と解釈する聊か残念な思考回路が、僅か9歳までに構築されきってしまったのだ。三つ子の魂百までという諺がエリア11にはあるが、まさにそれであり、ナナリーが何度言ってもルルーシュは首を傾げるばかりなのだという。そして、そんなシュナイゼルとクロヴィスの行動に、丁度間に挟まる異母姉コーネリアは便乗し、ルルーシュから恋愛を遠ざける根回しに加担していたことが分かっているのだとか。異母兄たちと違い、異母姉は単純に過保護が過ぎた上での結果だが、はた迷惑なことをしてくれたと思わずにはいられない。


「・・・正直、ジノさんはスザクさんより、かなり不利です。」

「真っ直ぐな現実がとても痛いです。」

「でも、応援しております。スザクさんは、お姉さまと結婚したらきっと、囲い込んでしまわれますから。」

「囲い込む、」

「幼いながらに、お姉さまと引き離される未来を感じてしまうくらいに、スザクさんは怖かったんです。」


ナナリーの言葉からしかこの世界の枢木スザクは想像できない。でも、彼が記憶を持っているというのではないかという疑問は、現実味を増すばかりだ。だってそれは、たった10歳の子どもが持つには不相応すぎる、どろどろとした重たい感情だ。

ジノは、ナナリーにありがとうございます。とほほ笑んだ。ナナリーは見えてはいないだろうに、それを感じ取ったらしい。春の陽だまりのようにあたたかい笑みをうかべ、「協力は惜しみませんので、何でも聞いてくださいね。」と、姉を狙う男に対して、力強い声援を送るのだった。



・・・・・



ジノ・ヴァインベルグが転校してきてから、あっという間にジノのファンクラブが出来上がった。

ジノは生粋の貴族であり、ルルーシュが絡まないところでは、という条件が付くが、幼いころからよく教育された紳士であるから、ある程度の【ファンサービス】はこなれたもので、その上その整った容姿だ。

転校してきてわずか数日でその噂はあっという間に高等部にも出回った。


「ジノさん?また告白ですか?」

「そうなのかな?」


しかし、それではルルーシュはジノを恋愛対象であるとは認識しない。

困ったような口調でそういうジノに、ナナリーも困ってしまう。おかげで「ジノさん?」と呼ぶ声はいささか硬かった。まぁ当社比であり、ジノには若干の恐怖を与えた程度の誤差ではあるが。


「ジノさんはお姉さまだけ、ですよね?」

「それは勿論だ。」


ナナリーは考えた。ジノを恋愛対象として本気になる女子生徒が量産されてしまうと、ジノの恋が成就する未来は遠のく、と。ナナリーとしては、たとえ結婚してもナナリーを遠ざけないと確信できる男性ではないと、ルルーシュの相手として認められなかった。

今のところ、身近にいる男性の中で、ジノが一番の適任だった。

ジノはよくナナリーの教室を訪れ、世話を焼いてくれる。予想していたが、ジノとナナリーの関係が噂されるのにも時間がかからなかった。正直なところ、余計なことを、と思った。しかし、それならばその状況までも利用しようと思った。ルルーシュさえ誤解しなければいいのだ。


「良かった。それでこそお兄様です。」

「・・・ななりー。」


ナナリーは噂を流した。

ジノはルルーシュに片思いしている。でも、ルルーシュは鈍感だから、気付いてくれなくてナナリーにいつも愚痴をこぼしているのだ。と。真実だった。

噂が広がると、ジノのファンを自称する女子たちはジノを応援し始めた。健気な姿がウケたらしい。しかもその相手がルルーシュであることが大きかったようだ。男女問わずに大人気の高等部生徒会副会長とジノが幼馴染であることは最初に自己紹介でジノ自身が言っていた。しかもその場でジノは、初恋の人がこの学園にいるから、気付いたら協力してね?と潔く宣言していたらしい。その甲斐あってか、学園のものはルルーシュ本人を除き、ルルーシュこそがジノの言う初恋の人であると認識した。おかげで凄まじい応援ムードだ。

ルルーシュと出かけたい、そう言いさえすれば、皆絶対に邪魔しないどころかプランを一緒に練ってくれる。その時、ジノは必ず、「ナナリーも一緒に行けるところがいいな。」というので、周りは「そんなんじゃいつまでも気づいてもらえないぞ。」というのだが、ジノはそれに対して困った顔をするだけだった。しかし、そんなところも含めて周りはジノに対しておおむね好意的だ。ルルーシュのファンたちからは反感が寄せられていたが、それもまぁ、何とかなりそうな雰囲気ではあった。偶に勘違いしている人間もいるが、その他大勢はこっそりと見守る程度にしてくれる。なんというか、世界は優しさに満ちていた。これから先、本当にゼロが必要となるのか、疑ってしまう程に。

おかげで、ジノが高等部近くを歩いていても何の不信感も寄せられない為いいのだが。


「ナナリー。俺は負けないぞ。」

「はい。ジノお兄様は、お姉さまを裏切らないって、信じています。」


ジノはナナリーの車椅子を押して進む。

今日は高等部の生徒会役員たちと彼らの執務室が存在するクラブハウス内で昼食をとる約束になっている。役員のメンバーには、少なくとも3人の知り合いがいる。生徒会長のミレイ・アッシュフォード、副会長のルルーシュ・ランペルジー、そして、役員の1人であるカレン・シュタットフェルトだ。ミレイとは事前の話し合いで何度も顔を合わし、カレンとは、ほぼ事故のような出会いをした。女性に、出会い頭で殴り掛かられたのは、後にも先にも彼女との出会いだけであろう。女子寮に住み込んでいる上、いつの間にか、高等部の臨時の保険医となっていたラクシャータも、生徒会室には度々顔を出すという。


「・・・伯爵がいつ、『ラクシャータばかりずるい』と言いだすか、」

「あら?もうとっくにおっしゃっていらっしゃいますよ?」

「そうか、一応我が上司ながら、情けない。セシルさんも大変だ。」


アッシュフォードの生徒として登校を始めて以来、正式にテストパイロットの仕事も始まっていた。おかげで、ロイドの組織する特別派遣嚮導技術部、ひいては、彼が直接運営しているキャメロットのメンバーとはすっかり顔なじみであった。といっても、そこは少数精鋭のチームであり、実質研究員はロイド、ラクシャータと、二人の後輩であったらしいセシルという女性の3人だけ。そして、このチームに名を連ねるのは、彼らと彼らの機体を操縦するための重要なパーツである、ジノ、カレンの5人だけであった。

数年先の未来を生きるキャメロットへの出入りは特別な許可証を必要とし、それを持っている職員はキャメロットの職員と、特例のジェレミア、ルルーシュ、情報伝達を受け持つ咲世子の8人だけだった。もっとも、ルルーシュは渡された許可証を、一度も使ったことなどないのだが。


「ナナリー。エレベーターに着いたから、ちょっと揺れるかもしれないよ。」

「はい、ジノさん宜しくお願いします。」


なれた道を進み、高等部の生徒会室を目指す。ジノたちの生活する区画とはほぼ真逆のエリアは、高等部生徒会役員の城だ。ナナリーのために取り付けられたエレベーターに乗り込み、二階を目指す。然程時間をかけず、しかし緩やかに目的に階へと運んでくれる鉄の箱からナナリーを連れだせば、目的地はすぐそこだった。進みだす左右さえ間違えなければ。数秒で生徒会室の看板は視界に映り込む。扉に近づきノックをすれば、中からルルーシュが顔を見せた。


「ルルーシュ、ナナリーを連れてきたよ。」

「ジノ、ご苦労様。さぁ、中へ入ってくれ。」


ルルーシュはいつもかなり立派なお弁当を準備して二人分預けてくれるのだが、それは、今朝は無かった。代わりに、今日の昼の予定を聞かれ、ジノにもナナリーにも特に用事がないと知ると、では一緒に食べようか。と誘ってくれた。2人の昼食はその時に渡す。と言ったルルーシュの意図は、どうやら執務用のテーブルいっぱいに並んだ料理に関係するらしい。


「さぁ、ナナちゃんいらっしゃい!そして、ジノくん、アナタもよ!」


手で扉を開けたままにしてくれているルルーシュに促されるままに扉を潜る。学園理事の孫娘であり、高等部生徒会長であるミレイ・アッシュフォードが「ここでは私がルール、今日は、フライングだけどジノくんの生徒会就任祝いをするわ!」と、高らかに宣言した。呆然としている間に横から現れたカレンがジノからナナリーの車椅子を奪っていく。どうやらすでに定位置があるらしい。慣れた手つきでカレンはテーブルの短辺にナナリーを誘導する。そして、彼女はそのすぐ近くに座り、その対面席はルルーシュの席だった。ルルーシュが、ここに座れ。とその隣を示したから、大人しくそこへと着席する。神に感謝だ。


「はい?私、・・・俺は中等部で、生徒会役員でもないぞ?」

「ジノくんは3年生からだからそこまで無理強いしていないけど、本来生徒は全て、生徒会か部活動参加必須なのよ。多めに見てあげる代わりに、今日からあなたは高等部生徒会役員。いいわね?」

「高等部じゃないのに?」

「細かいことはいいのよ!ルールは私なの。」

「そうか、それなら仕方ないな。」


ジノが入室するまで、この部屋唯一の少年であった男子生徒それを聞き、「いいのかぁ?」と苦笑を浮かべる。その横で、明るい長髪の女子生徒が「まぁ、会長の決定だしね。」と、同じく苦笑していた。


「ジノ、いいのか?」

「俺はまったく構わないし、断れないんだろ?」

「・・・私は、お前は部活に入った方がいいと思うんだ。」

「それは嫌だ。ただでさせ【手伝い】の時間があるんだ。合宿だってあるらしい部活には参加しない。それに、役員になれば、ルルーシュと一緒にいられるということだろ?時間が増えることは嬉しいが、減ることは望ましくない。」


そこまで行ったところで、少年の口から「ひゅぅ~。」と景気のいい口笛が漏れた。その音を聞きつつ、ちらりとミレイに視線を向けて「それにどうせ、」と言葉を続ける。


「中等部を卒業するまでは、大した仕事はさせる気はないでしょ?」


ミレイはパチンとウィンクを決め込んだ。「もちろんよ!」とのことだった。重要書類の管理は、当然ジノにはさせないという意味らしい。それを聞いてルルーシュは「当然です。」と溜息を吐いていた。


「じゃあ、本人の了承もとったところで、ジノくんの歓迎会を始めましょうか!一応、中等部の生徒会にも参加してね。ナナちゃんその辺は宜しく~。」

「はい!会長に言っておきますね!」


この生徒会役員は、ミレイが独断と偏見で適当に決めた、と新学期最初に宣言されたものだった。ミレイ以外すべてが1年生。3年生は1人もいない。メンバーは、事前に知っていた3人と、ニーナ、シャーリー、リヴァルの3人。咲世子の話で聞いていた通りの名前だった。


「そして特別名誉役員のナナリー!」


紹介の後に他のメンバーからの拍手が上がる。ナナリーはそれ受けてぺこりとお辞儀をした。そんなナナリーにジノは、「改めて宜しく。」と声をかける。ナナリーはそれを拾って。「はい!」と笑顔を浮かべてくれた。隣のルルーシュもそれを見て、幸せそうな表情をしている。この美しい顔が曇る未来を、その目で見て知っているというカレンは、そんなルルーシュにまさに感無量といった表情だった。


「さて、一通り紹介したし、次はアナタの番よ?自己紹介をしていただけるかしら?」


ミレイがこちらに話を振る。それ受けて短く「了解。」と告げ、一度立ち上がる。皆がこちらを見ていた。


「俺はジノ・ヴァインベルグ。みんな色々と噂を聞いているだろうけど、今は見守っていてくれると嬉しい。」


ジノの言葉の意味をいち早く理解したらしいミレイは「えー、質問は受け付けてくれないのぉ~?」と、唇を尖らせる。それを見て「黙秘権を行使できるなら。」と返せば、暫く渋りはしていたが、最終的にミレイからのお許しが出る。「質問は、お昼を食べながらにしましょう?」と声をかけたルルーシュの言葉に、まず先んじて日本式の挨拶をしてから、一同は食事をとりつつジノへの質問を投げかけ始めた。

真っ先に質問してきたのはミレイで、ごく自然に、「じゃあ、質問。どうしてエリア11に?」と、まったく容赦のない質問を投げかけた。それに対してジノは「幼馴染に会いに。」と簡潔に応える。

最初にジノが言った、【噂】と【見守って欲しい】の言葉が、ジノの登場以来、【ジノの初恋の人】、【幼馴染】のキーワードで連想されるようになったルルーシュのことだと分かっているリヴァルは、慌てたように、「好きな食べ物は?」と、無難な質問を投げつけた。まぁ、ジノの返答は、「・・・ルルーシュの手料理、かな?」であり、リヴァルは頬を引きつらせる結果に終わるのだが。続いて口を開いたのは、シャーリーだった。


「得意な科目は?」

「しいて言うなら、体育かな。一応本国で家庭教師に一通りの教養は叩き込まれたから、苦手はないぞ。」


リヴァルはシャーリーに、「ナイス!!」と視線だけで感謝の念を送る。シャーリーはそれを正確に拾ったらしくウィンク付きで親指を立てていた。このまま、ルルーシュとは遠そうな質問を、と思ったリヴァルの気配を察したのか、ミレイがすかさず、「好みのタイプは?」と質問を投げかける。リヴァルは小さな声で、会長ォ!!と叫んでいた。


「・・・黙秘、と言いたい所だけど、ルルーシュかな?」

「わーお。じゃあ、初恋はルルーシュ?」

「・・・そうだね。」

「黙秘しないのねぇ。」

「ミレイ、ニヤニヤしすぎだ。・・・というより、ここで黙秘して、変な誤解を産んだらどうしてくれんだ。」

「あら、それは考えていなかったわ。ごめんなさい?」


ある意味潔い言葉の応酬であるが、当のルルーシュは聞いているのかいないのか。ナナリーに食べ物を勧めるのに夢中であるようだった。まぁ、それもそうだろうとリヴァルは考える。ジノがこのクラブハウスで、彼女たちと一緒に住んでいるというのは有名な話だ。それに、彼らは本国にいた頃幼馴染であったといっている。もうすでに、粗方聞きたいことは聞いてしまっていて、互いによく知っているなら、今更自己紹介に何て興味はないのかもしれない。なんというか、ジノが憐れになってくる。


「で、他の質問は?」

「それじゃあ、将来の夢は?」

「・・・・・・昔、お世話になった方の専任騎士になりたい。」

「あら。初恋の人の旦那様、とでもいうのかと思ったわ。」

「いくら貴女には世話になっているとはいえ、いい加減怒るぞ?」

「ごめんなさい?で、カレン?こんなこと言ってるわよ?」

「・・・いい度胸よね。その喧嘩、高く買うわ。」


何も知らないリヴァルが「え?え?何?何事?」と顔を青ざめさせる。それを傍目に、火付け役である筈のミレイは「カレンもジノも、同じ女性の騎士になりたいのよ。」となんとも気軽にネタ晴らしをしていた。リヴァルはミレイの言葉に、「騎士、ああ、ジノは上流貴族、同じ女性!?る、初恋の人がいるのに?!」と声に出して慌ててしまっている。そんなリヴァルをよそに、訳知り顔のミレイは「にしても、カレンも強くなったわね。」と笑っている。体が弱く、休みがちだった、だとか、そんな正気を疑う設定からくる言葉であろうと、ジノはあたりをつける。もっとも、ルルーシュと友人関係を結んでからは徐々に演技をやめる方向に流れていったらしいが。リヴァルは相変わらず険を飛ばすカレンに慌てていて何とも言い難い。しかし、かける言葉は特に見つからない。何か言ってばらしてしまっては、こんな時だけ聞いている殿下に嫌われてしまうかもしれない。だから代わりに、カレンに返事をするだけに留める。


「全部、私が貰うよ。負ける気なんてないからね。」


口には出さないが、カレンが男性じゃなくてよかったと心底思う。もし男なら、彼女の【専任騎士】の立場だけではなく、【彼女の唯一】という立場も競い合わって手に入れねばならなかったに違いない。今のところ、どちらもジノのものではない。しかし、前者は兎も角後者は、一緒に生活いしていて、ナナリーからのご指名もあるジノ以上に有利な男はいない。今のところは。


「負けられないよ。」


枢木スザクが現れたとしても、負けるわけにはいかないのだと、明日の訓練に思いを馳せた。