茨の命はその色を

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@solabell9601

3章 紅色の騎士

—————あれから10日。

他の仕事もしながら地道に削って磨いて、やっと『心』になれるだけの輝きを放つまでになった。


「あんまり反抗もしなくていい子だったね、お前は」


ただ、少しだけさみしい気もした。

ただの宝石といえども、それぞれ削るときには個性をみせてくれるものなのだけど。

この子はその個性を見せまいとする傾向にあるな、なんて思えた。


「お前みたいな子には元気なマスターを探してあげないとね」


微笑ましくなって、少しだけくすんだ紅色のロードナイトに話しかける。

反射すると、少しだけ周りの色を取り込み反射する。


「綺麗だね…お前」


恋でもしてしまうんじゃないかって思った。


「きっと、ドールになったらさぞ美しいんだろう」


…興味が湧いてしまったのがいけなかった。

作業部屋の端に放置されていた素体が目に入る。


「…きっと僕は適正もないし、失敗するに決まってるから…ちょっとだけ」


素体を持ち出して、いつも仮眠に使っているモミの木で造られたベッドに寝かせる。

子供の頃以来の、なんだか悪いことをしているような(実際褒められた行為ではないのだけど)好奇心と罪悪感が入り混じった変な感情が僕の中に渦巻いていた。

ロードナイトを握りしめて、あの言葉を口にする。


「 ロードナイトを心にし、

私の命を分け与え

命を聞く我が鏡の存在となれ

私の名はニコラハルト=アイゼンシュタイン

【Master】の名のもとに

【Doll】よ、目覚めろ 」


素体の上に置かれたロードナイトは輝くことはなく、ただ無音のいつもの作業部屋の景色がその光を浴びることはなく。


「…な〜んてね!いや〜、ドキドキしたぁ…僕が適性がなくてよかったよぉ」


素体とロードナイトから背を向けたその刹那。

背後のロードナイトが紅色の光を放ち、部屋がその色に染まる。


「えっ!?」


まさか、とは思った。いいや、僕に適性がないのは昔診断されている。

適性のない人間が儀式を行ったことがあるというのも聞いたことはないけど、成功した事例も聞いたことはもちろんない。


「も、もしかして僕って思った以上にとんでもないことやらかしてしまったんじゃ…!」


一人で焦ってしまう、がしかし今更本当にどうしようもないわけで。

その紅い光をどうすればいいのかもわからずに見つめていると、右目に鈍痛が走る。


「うぁっ…!いた、痛い…!!…まって、これって…!」


僕の内側からなにかが這い出てくる感触、痛みを伴うのはマスターの契約を何人も見てきた僕は知っているけど、僕にとっては痛みよりこの感触の方がよっぽど寒気がする。


「あっ…ぐ…っ!!」


他人の契約の儀式はあんなに数秒間に感じるのに、まだ終わらない、まだ、喰われる感覚が来ない。


「…っ!!来る…!」


これが最後に両目で見る景色かもしれないと思うと、思い切り瞳をあけておいても損はないんじゃないかなんて馬鹿なことを考える。

人間、こんな時でも冷静に脳は考えるんだな。

そんなくだらない思考回路すら、あの薔薇悪魔の華が喰らい尽くす感覚。

自らに望まないものを受け入れる悍ましさで痛みは忘れていた。


「…っは、…え、…え…。あっ…」


終わった…んだと思う。正直動転して頭も回らなければ口も回らない。

ただ、片目の視界が奪われていることだけは解るし、まぎれもない事実として自らの目の前を暗くさせた。


「……嘘でしょぉ〜……」


宝石たちが入っている大きなガラス棚に映った自分の右目には、紅い薔薇が咲き誇っていた。

信じたくないが、どう考えても自業自得だった。


「あ…っていうか契約が成功してるってことは…!?」


素体とロードナイトの方へ思い切り振り返る。


「…そうだよね…いるよね…」


亜麻色の髪、陶器のような白い肌の青年型のドールだった。

その瞳が、ゆっくりと開く。

開いた瞳の色は少しだけ燻んだ紅色で、感情を全く帯びていない。

上半身を起こし、少しだけ動きを止めた後こちらを見る。


「…貴方が俺のご主人様マスターか」

「…そ、そう…です…」


つい敬語になってしまった。

すると、ドールは何かを考え込むようにして首をかしげる。


「…でも…貴方は俺の『お父様』でもあるようだ」

「…あ、そうだね」


そうだった。ドールたちに心になる前のしっかりとした記憶が残ることはないが、自分の造り手たる、ドールに言わせるところの『お父様』は刷り込みのように理解できるらしい。


「…俺は、どちらで呼んだらいい」

「え…あ〜…そうだね…」


さっきからもう同じような返答しかしていない気がする。

僕だって自業自得とはいえ目の前で起こった現象にまた頭がついていっていないのだ。

とはいえ、そのままにしておくこともできなければ契約破棄なんてことはそもそも死ぬ以外に方法はない。

考えてみるけど、目の前のドールはこちらを無感情の瞳で見つめたまま黙り込んでいる。

…正直、『お父様』と呼ばれるのと『マスター』と呼ばれるのどちらがいいかと言われたら後者の方がいい。

…だってかっこいいじゃないか。


「…マスターでいいよ」

「了解した」


こくりとうなづくと、ベッドから降り、僕のそばに来る。


「マスター。…俺に名を」

「あ、あぁ」


自分がマスターになるなんて今日…いや数分前まで思ってなかったわけだから、名前なんて考えているわけがない。

考えすぎてもきっと思い悩むだけなので、ふと、思いついた名を口にする。


「…ルオ。…君の名前はルオだよ」

「………ルオ」

「うん。よろしくね、ルオくん」


僕は彼に手を差し出す。

彼はその美しい指を僕の手に重ねて、瞳の表情は読めないのだが、少しだけ揺れた声で言う。


「よろしく、マスター」



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