あしもと

村瀬ユウ
@mrs_mymt

自室で

「…どうしたんだ、一松…」

一瞬の出来事ではあった。しかし、俺を動揺させるには十分すぎた。

「こういうことがしたかったんじゃないの」

ぶっきらぼうに言う顔に、一切の照れも動揺も感じない。

「なんとも言えない。ただ、抱きついてみたくて」

言い繕っても無駄だ。こいつはわかってる。その冷たい目で、俺の嘘を刺して、刺して、ぐちゃぐちゃにして使いもんにならなくしてくる。そして、俺の本心を見抜いてるはずだ。

「へえ、そんだけ」

嘲笑気味で言う顔が、何故か怖かった。

「そうだ。気にしないでくれ。悪い」

くるっと背を向けて自室へ上がる一松。今日ほかの兄弟はどうするって言ったっけ。不安と動揺で心臓が暴れまわる。まともに考えられない。

あの一松の匂いを思い出してしまう。あんな匂いだったか、あいつ。

俺に女がいたのは誰にも言わなかった。だけど、こいつは気づいてると思った。だからさっきくだらない話をしたんだ。

バカはもうやめだ。数分前の行動をとった自分に怒りすら覚える。

「さて、枕、濡らさないとな」

二度も振られたような気分だ。不思議と気持ちは軽い。

だけど、俺は間違いを重ねるだけだった。



自室に上がって目に飛び込んできたのは、俺の服を着て、まるで俺を待っているかのような一松だった。

「何してるんだ。俺の服を着るなんて」

もうこうなったらダメだ。俺は本番と予想外に弱い。相手に飲まれてしまう。

「…近親相姦、しよう思って」

頭がくらくらする。貧血のように。いっそ気絶した方が良かったが、生憎体は丈夫なようで、くらくらしながらもまっすぐ立っている。

「そういうのは…よくないぞ。な、もう寝よう。今日ほかのブラザー達は居酒屋で飲み倒すと言ってたし」

ブカブカのパーカー。俺が着るとぴったりなのに。

薄い胸と鎖骨が目に入る。ダメだ、ダメだ。俺、しっかりしろよ。

「だから!…だから、誰もいねーから、するっつってんだよ」

イライラを抑えられないような言い方に、俺もムッとする。

何を言ってるのかわかってるのか?お前、俺とそんなことしたら、もう今までの関係には戻れないぞ?

「…早く脱げよ。クソ松が」

張り合ったって仕方ない。もっと前からずっとあいつのペースだってのに、俺はそれに乗った。

「どうなっても知らないからな。泣いても逃さないぜ?」

声がうわずる。興奮しているのも事実、後には引けなかった。

上を脱いで、ズボンも脱ぎ、パンツ一枚になる。一松はそれを刺すように見ていた。

「全部脱がなきゃ出来ねーだろうが」

そう言って腰を上げた一松は、下着に手を掛けてきた。

「いやっ、自分で脱げるから、ほら、お前も脱げって」

俺を無視し、布団に俺を倒す。されるがままに一松を見た。相変わらず刺すような目だが、耳が赤かった。