少女Aの苦悩

竹原千晶
@OYAKATA83


「あ、雪」


カーテンが開けたままとなった窓に目を向ければ外は銀世界となっていた。もうそんな季節か、と雪が降っていることに気づかぬ程読み耽ってきた"ONE PIECE"を閉じる。


あぁ、春が来る。暖かい陽射し、新芽が顔覗かせて出来る新緑の風景。そして、大好きな桜。


「春なんか来なくていいのに・・・」


私は小さい頃から身体が弱く病気がちで、病院の入退院の繰り返しが当たり前だった。でもそれだけならまだ良かった。何だかんだ大好きな学校には行けていたし少ないながらも友達だっていた。


半年前ぐらいから私は学校に行く事すらもままならなくなった。


悪性の癌だった。


身体中に転移しており治療しても何もかも遅かった。"半年"、それが担当医から伝えられた私の心臓を動かすのことの出来る残された時間だった。もう、大好きな春を迎える事が出来ない。私は絶望に打ちひしがれ、毎晩泣き喚いた。


そんな時だ。私が"ONE PIECE"に出会ったのは。


昔から病気がちだったのあり本を読む事は好きだった。本は現実を忘れさせてくれ違う世界に連れて行ってくれるから。だけど、私は小説は読むのだが漫画に手をつけた事が無かった。「漫画なんて、」と内心思っている自分がいたからだと思う。余命を通告され暫く経ったある日、私は待合室で誰かの忘れ物だったのか、ポツンと置き去りにされているONE PIECEの1巻を手に取って読んでみることにした。ONE PIECEの内容はクラスメイトの男子達がよく話していたのを聞いていたので何となく知っていたから。


私はいとも簡単にONE PIECEの世界に入り込み、ハマってしまった。それからというもの、母に無理を言ってONE PIECEを全巻買って貰い、毎週ONE PIECEが掲載されている週刊少年誌も求め買いに行ってもらった。


そして私が今手にしているのはONE PIECEの57巻。ONE PIECEの話はどれも好きなのだが、その中で1番泣いてしまうのは主人公ルフィの兄エースを奪還しに行く頂上戦争編だ。もう何十回読んだのか把握しきれてないが、読む度に涙が止まらない。


半年間。私は何度も何度もONE PIECEを読む返した。今ではセリフ、話の流れ、キャラクターごとの能力や身長などの微細なところまで記憶している。暇人と言われたら私は何も言い返せない。実際超が付くほどの暇人だったから。


話は飛ぶのだけど、もしONE PIECEの世界に行けたら私はあまり重要なポジションじゃなくて海兵とか、島の人とかモブポジションでルフィとか皆の事見守れれば十分かな。だって、重要ポジションとか引きこもりの私には到底無理。身体を動かす事は好きだけど、あまり学校に行けていなかったから頭が少し弱い。だから私はあの世界でやっていける自信は毛頭ないし、大好きなエースの救済だってする気もない。海軍大将相手にするとか正直に言って無理ですもん。ルフィ本当にスゲーよ。尊敬するよ。


なんか、雪を見てたら眠くなってきた。


私は真っ白な雪が降る外の様子を見つめながら瞼を静かに閉じた。



***



あの後、私は二度と目覚めることは無かった。私の17年の短い人生は終わりを告げたのだ。


そして私はまた新しい命を授かった。だけど不思議なことに前世の記憶を保持したまま、それに加えて私が現在生きている世界は前の世界とは何もかもが違っていた。そう、まさかの"ONE PIECE"の世界だったのだ。この世界では"ナギ"と名付けられた。だけど如何にも健康的で元気な普通の女の子となる事は出来なかった。何故なら、


「ナギ遅いぞもっと走れ!」

「頑張れナギ!」


私の前にあの"エース"と"サボ"が走っているから。しかもそれだけではない。


「姉ちゃんはやくー!」


私は主人公"モンキー・D・ルフィ"の姉なのだから。


ねぇ、私モブポジションがいいって言ったよね?!