黙示の錬金術師

女性のカンと嫉妬心

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次の朝、グレイシアさんが若い時に使ってたワンピースをお借りして、

それに着替えて出かけることになった。


「気をつけていってこいよ。」


「ええ、ありがとう。」


朝から仲むつまじいヒューズ夫妻を目にして、俺は穏やかな気持ちになる。

ヒューズ中佐に抱えられたエリシアちゃんも元気に手を振ってくれていた。



「今日、付き合ってくださってありがとうございます。」


街並みを歩きながら、俺はグレイシアさんにお礼を言った。


「いいのよ、私もちょうど用があったから。

あの人が娘を見てくれてるから、オウカとはのんびり買い物が楽しめそうね。」


確かに天気はいいし、買い物日和なことは間違いないだろう。



「あの人のこと、ごめんなさいね…。」


先ほどまで微笑んでいたグレイシアさんだったが、

やがて彼女はやや困ったように打ち明けるのだった。


「あなたのことを妹みたいに可愛いと思ってるみたい。からかってるのよ。」


ヒューズ中佐は冗談からか…大佐との仲を応援する発言が玉に傷ではあるけれど、

大佐のよき理解者でもあるし、優しい人柄は人として好ましいと思う。


「…グレイシアさんが謝ることじゃないですよ。

ただ、妹みたいってどういう事ですか?」


「あの人が話してたの。

貴方のこと…。会ってまだ間もないんだけど、

少し危なかしい所があって、目が離せないんですって。」


中佐にそう思われてたとは知らず、

俺は戸惑いながらも、うれしかった。


(ただ危なかしいって…そうなのかな?)

自分にとってはやや自覚に欠ける認識である。



「…オウカはロイさんの事、あまり好きじゃないのかしら?」


グレイシアさんは穏やかな口調で、不思議そうに問いかける。


「好きじゃないというか、

元より男嫌いな所があるから、よく思えないだけで…。


好意とは違うけど、感謝はしています。

今、東方司令部にいられるのは大佐のおかげだから。」



東方司令部に所属してから、徐々に大佐のイメージにも変化があって、

苦手意識は、当初よりも薄れている。



「そうなの。

きっと向こうではよくしてもらっているのね。面倒見がよさそうな人だもの。」


率直な思いを打ち明けると、くすりとグレイシアさんが笑う。


「そうですね、確かにいいかもしれません。」


こうして街に出てみると、

大佐と外食したり、ウィンドーショッピングした事も思い出す。



「たまにですけど、大佐と休日に買い物にいくことがあるんですよ。

俺は日用品の買出しだけでいいって言ってるのに、

大佐は必ず寄り道していくんです。」



そして女性服の店に立ち寄ったり、

人気のスイーツお店だとかに吸い込まれるように入って行っては、

何かについておごろうとするのだ。


俺は職業病ならぬ、体に染み付いてるクセだと思っているんだけど、

『大佐って大丈夫かな?』とたまに素で心配してしまうんだよな。



「勝手に洋服やスカートを当てて

『これは似合うから買うことにしよう』って押し切るんです。


仕方なく俺がパンツスタイルがいいと軌道修正すると、

すごく不満そうな顔になって、ちょっと面倒なんです。」


そんなやりとりを経て、

押しの強さに折れた末に、大佐趣味の洋服を必ず一着は買う羽目になるのだ。


財布を出そうとしても止められるし、

有難いけれど、居心地がちょっと悪いんだよなぁ…。



「それは大変ね。

でも、私もオウカは女の子らしい服装も似合うと思うから、

ロイさんの気持ちは少しは分かるわ。」


グレイシアさんは可笑しそうにくすくすと笑う。


「いえ、大佐のはただの下心ですよ。

あの人は軍の女性陣全員に対して、ミニスカ履かせたい野望を持つ男ですから。」


嘘はついてないが、大佐がこの場にいたら、

どやされそうな発言でもある。


でも仕方ない、そんな上司が悪い。(という事にしよう。)



「でも嬉しいことでもあるわね。

普段から女性としても、個人としても、

自分の事をちゃんと見てくれる人がいるって。」



女性のカンと言うべきか…ある意味、確信をついた一言を言われて、

俺の心のなかは一瞬、ぐらついた。


(ーー…まさか、嬉しいって思ってる?)


よぎった感情を追い出して、いやでもと思い直す。



「大佐は部下としてしか俺のことは見てないと思いますけど。

綺麗な女性になら困っていないだろうし。」



まるで、自分にそう言い聞かせているような言葉に思えた。


全て承知の上で、大佐の家に居候したつもりなのに。

何故いまさら、不快になっているのだろう…。


(これじゃ嫉妬しているみたいだ…。)


グレイシアさんが、俺の感情の変化に気づいたのかは分からなかった。



「それはどうかしらね…?」


ただちょっと悲しそうな目をして、そっと微笑んでいた。


「グレイシアさん?」


俺は問いかける。

けれど、彼女は首を横に振った。

――それを言うべき相手は、自分ではないと知っていたから。



「いいえ、何でもないわ。

店に着いたから入りましょうか。」


「はい。」


目的地が見えて、グレイシアさんは店の扉を開ける。


買い物に夢中になるうちに、

それらの感情は忘れ去られるように消えていった。



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それから数日間、

セントラルで俺はヒューズ中佐から頼まれた仕事にあたった。


分からない事は自分で調べに資料を探したり、

図書館で借りてきた錬金術の本を参考にした。


知識不足はまだまだあるものの、

自分でそれを補おうと考えるのは、いい経験になったとも思う。



(大佐が言ってたな。

自分の足で経験して、そこから自分の出来ることを探せって…。)


今になってあの時の言葉が沁みた。


「この数日間、お疲れさん。」


ヒューズ中佐に最後の書類を提出すると、ねぎらいの言葉をいただいた。


「いえ、こちらこそお世話になりました。」


「仕事じゃなんも手伝ってねぇぜ。」


そう中佐には笑われたが、

やはり集中できる環境を整えてくれたのは大きい。


「これも、中佐が生活の基盤をサポートしてくださったおかげですから。」


「言うねぇ、お前はやっぱロイんとこの部下だよ。」


にやりと笑ったヒューズは書類に目を通して、

不備がなかったのを確認してから、それを机の上に整えて置いた。

無事おわったことに、俺はほっと胸を撫で下ろす。


「ホント、うちんとこに来てくれねぇのが惜しいぜ…。」


「すみません。

俺の居場所は今のところ、東方司令部だけのようです。」


俺は微笑んで口にした。


「居場所といわれや、無理には譲ってもらえそうにないな。

ロイのやつもお待ちかねだ。これ以上延長したら、俺が怒られちまう。」


残念そうにヒューズ中佐が苦笑する。

そして退出際に「今日はお別れ会だな。」と呟いた。


「明日。早速、帰れるぞ。」


仕事の進捗状況から予測して、

すでに明日には帰せるだろうと大佐には連絡済みだったらしい。


どうやら大佐は昨日、

「部下をいつまでこき使う気だ?」と小言の電話をしてきたらしい。

きっと東方司令部に帰ってからも、忙しいだろう。


「ありがとうございます。」


「こっちこそ、ありがとな。

また何かあったら頼むぜ。」


にっとヒューズが笑う。

その瞬間、俺はこの人の笑顔が好きだと思った。


「その時は事前に連絡をお願いします。」


「おうよ。」


快くヒューズは頷いて、俺はその部屋を退出したのだった。