文スト短編集

エンカウント(中原中也)

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だれかこの状況を説明してください。


わたし、名字名前と申します。

こう見えて、かの有名な武装探偵社の社員です。といっても、事務方ですが。


そんなことはさておき…いや、むしろそのことが問題なのです。

先程も申し上げたとおり、わたしの勤め先は武装探偵社。なのですが…


「手前、なにボケっとしてんだ?」


向かいに座るこの男。名は中原中也。ポートマフィア幹部のひとり。

…そう、ポートマフィア。

武装探偵社とは敵対関係にあるはず。

その彼と、なぜわたしは喫茶で向かい合っているのでしょうか?


「あの、中原さん…」


「あァ?」


うわ、怖っ。滲み出るガラの悪さ。

わたしみたいな異能力も持たない、しがない事務員にはお手柔らかにお願いしたい。

嗚呼、もしかして、しがない事務員ゆえに認知されていないのでしょうか?


「あの、その…もしかしたらご存知ないかもしれませんが、わ、わたし、武装探偵社のものなんです。」


「ん?あァ、んなこと知ってるよ。名字名前だろ。」


えええ…しっかりフルネームで認識されているようです…

余計に不可解さが増すだけでした…


だれか、わたしにこの状況を説明してください!


<1時間前>


わたしは探偵社の皆さんのために、(主に乱歩さんのための駄菓子を求めて)買出しに出ていました。


「このところ、物騒だからね。名前ちゃん、気をつけるんだよ?ついでに街に美女がいたら保護してきてくれたまえ。」


などと出際に太宰さんに言われたこともあり、出来るだけ早く、せめて暗くなる前には帰らなければと思っていました。

ちなみにこの発言の後、彼の背後に殺気を纏った国木田さんを見たような気がします。


買い物も終わり、あとは帰るのみとなったとき。


「お嬢ちゃん、ひとり?」

「荷物重そうだね?ちょっと休憩しない?」


面倒なことになってしまいました。


なんとかこの男たちを躱して帰ろうとしたのですが、与謝野さんからのお使いのお洋服や化粧品などで大きくなった買い物袋を奪われてしまい、無視して帰るわけにもいきません。


「あの、ほ、他をわたってください!わたし、これでも仕事中なので…」


「大丈夫だって、ちょっとお茶するだけじゃん?」


「わっ、ちょっ、あの」


強引に腕を掴まれ、彼らにいよいよ連れていかれそうになったとき。


「手前、こんなところにいやがったのか。」


彼、中原さんが現れたのです。


「おら、仕事戻るぞ。

…手前ら、俺の部下が世話になったな?」


「ひぃ!」


さりげなくわたしの肩を抱いて低い声でそう言った彼の威圧感は、それはもう凄いものでした。逃げ出した男たちの気持ちも分かります。


「あ、あのっ、ありがとうございました。助けていただいて…」


「礼なんかいらねぇよ。その代わり、ちょっと付き合え。」


そう言って中原さんはさっさと歩き出してしまう。

その彼の手には先ほど奪い返した荷物がしっかりと握られているし、断ることは出来ないでしょう。そもそもポートマフィアの幹部ともあろうこの人が、なんの見返りもなしにわたしを助けるわけがなかったのです。


わたしは覚悟を決めました。




そして今の状況に繋がるのです。


「覚悟を返してください…」


「あ?どうした、覚悟?」


「イエ、ナンデモアリマセン」


いけない。声に出てしまった。

誘拐、拷問などの諸々を想像していただけにただ長閑にお茶をしているだけ、のこの状況をどう捉えて良いのか分からないのです。



その後、何故か中原さんに探偵社の近くまで送っていただけることになり、二人で並んで歩く道すがら、ずっと抱えていた疑問を投げかける。


「あの、中原さんはポートマフィアの方ですよね?わたしとこんなことをしていていいんですか?その、先ほどのお礼として情報などを求められたところで、そもそもわたしにはそんな重要な案件は回ってきませんし…」


声は次第に尻すぼみになる。

ですが情けなくとも本当のことなのです。

勘違いされるわけにはいきません。


そう伝えると、中原さんは深い、それは深い溜め息をつきました。


「手前なぁ…ちげぇよ、この俺がそんな姑息な手を使うかよ。」


「じ、じゃあ誘拐とかでもないんですか?」


「しねぇよ!ったく…

……まあ、手前が俺に攫ってほしい、ってんなら話は別だがな?」


そう言って突然、息が当たるほどまで距離を縮められ、耳元で囁かれてしまえば。

なんだか背中がぞくぞくするような感覚に襲われて、驚きやらなんやらで硬直するほかありません。

そんなわたしを中原さんはじっと見つめながら、ゆっくりと離れていきました。その口角はにんまりと上がっており、彼はこの状況を心底楽しんでいるようです。


「本当にたまたま通りかかったから気分で手を出しただけだ。だから礼だの何だの気にすんな。」


「そ、そうでしたか…

ありがとうございました。」


優しく諭すようにそう言われて、わたしの口からも素直に感謝の言葉が出てくる。


先程の言葉はわたしの緊張をほぐすための冗談だったのでしょう。

中原さんは聞いていたよりずっと優しい人のようです。


そうして探偵社の近くまで着いたところで荷物を受け取る。


「本当にありがとうございました。

……その、中原さんとお茶するの、楽しかったです。」


自然と言うつもりのなかった言葉が滑り出てしまう。けれどそれは本当のことで。彼と二人での時間は不思議と心地よいものでした。


照れ笑いを浮かべるわたしを中原さんは少し目を見開いて見つめたあと、先ほどのように身を寄せて。


「あまり俺を試してくれるなよ

…連れ去りたくなる」


「へっ?わっ!ひゃっ!!」


耳にぴりっとした刺激を感じる。

甘噛みをされた、と自覚した頃には中原さんはもとの場所で笑みを浮かべていました。


「いいか、俺は冗談は言わねえからな。

…次会った時は、覚悟しておけよ?」



中原さんは、やっぱり優しいだけの人ではないのかもしれません。