とある世界線での出来事

きっとそれは余計なお世話

カラスの様に真っ黒な鳥型エネミーが何かをつついていた。

黒い塊を執拗に、やけに激しくつついていた。


「あのエネミーは一体何を……?」


気になってそのエネミーに近づいてみると、そこにはぼろ雑巾のようになった人間が転がっていた。

エネミーはシギの気配に気づくとそそくさと逃げていった。


「わ、わわっ! 大丈夫か!?」


シギが急いでぼろ雑巾の様になった人間を抱き起す。

それは自分も知りえる、ヴァイスに似た青年だった。

否、ヴァイスと同じ顔をした違う人間。


「ナハト……さん……?」


腫れあがった瞼を重々しく持ち上げ、先ほどまで襲われていた彼はシギの顔を確かめる様に眺める。

暫しの静寂の後、彼はかすれた声で呟いた。


「何故……たすけ、た……」


ナハトは迷惑そうな表情でシギを見つめた。

シギはふるふると首を横に振り、偶然通りがかったんだと彼に伝える。


「そうか……」


放っておいてくれたらよかったものの、彼からは呆れたような表情が見て取れた。

けれどシギはこんなぼろ雑巾をその場に捨て置けるほどひどい男ではない。

むしろ積極的に助けに行く、そのような少年であり青年であった。


「敵とはいえど、困ったときはお互い様。こんなぼろぼろになってる人を見捨てるなんて、アークスじゃないんじゃない?」


ふざけたようにくすくすと笑うシギを見て、ナハトは静かに舌打ちした。

なんでめんどくさそうなガキに助けられたんだ。

本当だったらいつものようにコイツをぼこぼこにしてやったのに。

今日は逆じゃないか、くそ、恥ずかしい。


「黙れ……優男が……いっ!!」


ナハトはさっさと逃げようと身を起こすが、シギが彼の腕をつかんだ。

丁度そこがエネミーにつつかれた部分だったらしく、彼はあまりの痛みに呻いた。


「き、貴様……!」

「ご、ごめんって。悪意はないよ」


シギが何と言おうとナハトの機嫌は悪くなる一方。

体のあちこちから血を垂らしながら、シギから逃げようと身をよじる。

時折ぶちぶちと嫌な音が聞こえて、ナハトの顔色がどんどん青くなっていく。


「ほら、やっぱりアークスシップに戻って手当してもらった方がいいって」

「何を……俺とお前たちは、敵なんだぞ……?」


それでもなおシギは引き下がらない。

何がそこまでシギを突き動かしているかはわからない、けれどここで諦めてはいけない気がしたのだ。

何が何でも、この人間をこちらに引き込まないと。


「今回は諦めてこっちにおいでよ。みんなには内緒にしておくからさ」

「……くっ……今回、だけだからな……」


ナハトは渋々了承すると、シギの肩を借りて立ち上がる。

おぼつかない足取りの彼を何とか引っ張り、二人はアークスシップへと戻っていった。





この後、すぐさまヴァイスたちにばれて怒られるのはまたの機会に。

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