とある世界線での出来事

偽者は巡り巡る、囚人は眠り眠る

誰がそれを呼んだか、今となってはわかるはずもなく。

勿論彼自身が誰かすらもわからない。

ただわかることは、自分が新たなるダークファルスの一人であることだけ。


ダークファルス【囚人ルサルカ】は全ての記憶を失っていた。


ダークファルスとして覚醒したにも関わらず、いったい何をしたらいいかわからない。

何も思い出せない、何も自分には残っていない。

手にするものは全て零れ落ちて、掴むこともできない。


「……ここは、どこ? ここは、何をするところ? どうしてぼくはここにいるんだ?」


何を思い出そうにも、酷い頭痛がして思考を妨げられる。

崩れ落ちたがれきの破片を拾い上げては、それが壊れて消えていく様子を眺めた。


この白いがれきまみれの場所を自分は知っている。

とても大切な場所だったような気がする。

だけどそれが一体何なのか、思い出せるはずもなく。


結局思い出すのは諦めた。

もう何も考えたくないし、思い出したくもなかった。

ダークファルスになった自分ができることは、きっと何もないから。


「でも、一人ぼっちは嫌だ……寂しい、なぁ……」


激しい頭痛に苛まれ、考える思考も気力も削り取られていく。

そういえばこうやって一人で泣いているとき、いつも慰めてくれる人がいた気がするんだけどな。

でもどうせ、その人だってもういないんだろ。

知らない、思い出せないんだから。


「……いらない……もう、いい……知らない……」


ぐらりと傾く身体、薄れる意識、それでもなお自分を苛む何かの痛み。

まだ眠ってはいけない、諦めてはいけないと言われているような気がした。

その痛みは意識が消えてなくなる最後の最後まで、残り続けていた。





「ダークファルス【囚人ルサルカ】はどんな夢を見たと思う」


一人の少女が誰かに語り掛ける様に呟く。

返事がなくとも、少女は続ける。


「幸せな夢、悲しい夢、楽しい夢、残酷な夢。きっと彼はこのどれにも当てはまらない夢を見たんじゃないかな」


少女は優しく微笑み、ぐったりとして動かなくなった【囚人ルサルカ】の頭をなでる。

ぼさぼさになった髪が彼女の指から流れ落ちた。


「そうだね、【深淵なる闇】の復活は近い。もし復活した暁には、この世界を滅ぼしてもらおうか。ねぇ、【囚人ルサルカ】。みんなもきっと待っているよ」

「ふざけたことをぬかすな、博士」


パン、と渇いた音。

少女の目の前の壁に小さな穴が開いた。

少女はさして驚いた表情もせず、声のした方を向いた。


「あら、あらあら。誰かな、キミは私の知らない人じゃないかな。それとも、もしかしてダークファルス【偽者レプリカ】かな?」

「黙れ。脳みそまで腐ったお前にその名で呼ばれたくない」


再度渇いた発砲音。

少女の帽子についていた飾りの一つがぽとりと床に落ちた。


「キミはずいぶん乱暴者だね。私の大切な大切な娘の身体に傷をつけないでくれないかな?」


少女は愛おし気に自身の肩を抱く。

儚げな少女の表情が垣間見え、狼狽えた【偽者レプリカ】は銃の引き金にかかった指を僅かにずらしてしまう。

その瞬間を逃さず、少女は彼の銃をテクニックで吹き飛ばす。


「甘い甘い、ダメだよ【偽者レプリカ】。そんなのじゃ【囚人ルサルカ】も殺せない。私も殺せない、キミじゃ誰も救えないし殺せないよ」


吹き飛ばされた銃が床に転がり落ちる。

偽者レプリカ】は舌打ちし、片方だけ残った銃をもう一度彼女に向けた。


「俺はお前を殺す。お前に造り出され、武器として扱われるのは俺だけで十分だ。それ以上ノアやルサルカたちを苦しめるな!」

「嫌だね。キミに指図される筋合いはないよ。いつからこの世界に来ていたかは知らないけど、これ以上私の邪魔をしないでくれないかな」


それじゃあね、と少女はにこやかに手を振って姿を消した。

偽者レプリカ】が咄嗟に発砲するも、既に彼女は消えた後だった。

残されたのは少女の身に着けていた帽子の飾りと【囚人ルサルカ】。


「くそっ……逃げられたか」


彼は苛立たし気に銃を拾い上げ、腰のポーチにしまい込む。

そして、未だぐったりとして動かない【囚人ルサルカ】を肩に抱えてどこかへと歩いて行った。








彼は救いたかった。

誰を?

彼は助けたかった。

自らの存在意義を失ってでも?

それでも彼は諦めなかった。

闇に堕ちてもなお?


「また、救えなかった」


繰り返しましょう、永遠に。

終わりにしましょう、今回で。


貴方が救われるまで、彼は永遠とめぐり続けるでしょう。

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そして彼女は彼女ではなくなった。

誰かの、誰かのための偶像。うちよそです。