とある世界線での出来事

博士が怖い

「ルサルカ、キミはダークファルスを造れると思うかい?」


リビングで寝転がっていた博士が唐突にそう呟いた。

ダークファルス、それは確かアークスの敵じゃなかったか。

【深淵なる闇】から生み出されるダーカーのすごく強いやつ……だっけ。


「ダークファルスを造れても制御できるとは考えられない。博士が自分で造った僕たち全員を制御できていないみたいに……多分だけど」


博士はごろりと寝がえりとうち、それはそうだねと頷いた。

彼の言う通り、命令は聞いてくれても普段から一緒にいるわけではないし、彼らを人として扱ったことは一度もない。

果たしてその状態で、ダークファルスなど造っても意味がないのでは。


「できないことはないのだけどね。【深淵なる闇】自体が存在している限り、ダークファルスもまた存在するんだよ。そうだね、依り代さえあれば……」


気味の悪い笑みを浮かべる博士から、ルサルカは思わず目を背けた。

怖い、この人は自分たちの事を人間と思ってない気がして。

まるで人の皮を被った化け物みたいだ。


「ルサルカ。余計なことは考えない方がいいよ」


いつの間にか目の前に博士がいて、しかも恐ろしい笑みまで浮かべていた。

小さく悲鳴を上げて後退りするが、彼女はそんなこと関係ないと言いたげに手を伸ばした。

冷えた手のひらがルサルカの頬に触れる。

背筋がぞくりと粟立ち、立っていられなくなってその場にへたり込む。


「ふふ、そんなに怖かったの? かわいそー。娘なら喜んで抱き着いてくれるのになぁ。あー……ノワールに会いたいな」


博士はすっと真顔に戻ると、へたり込んで動けないままのルサルカを一瞥してどこかへ去っていった。


「……は、はは……なんだ、あの人は……」


彼女がいなくなってもなお震えが止まらない。

実は人間じゃないと言われても違和感がないくらい人間味がないし、自分たちを人として扱ってる風には思えないし。


「博士の娘も可哀そうだ……あんな人の娘なんて……」


彼は博士の過去の姿を知らない、知るはずもない。

だから彼らは博士を恐れる。

目的を果たすためなら、自分で造った彼らすらも殺してしまうから。




――――ルサルカがダークファルスとなるまで、残り××日。









「お母さん……?」


ノワールは背後から視線を感じ、恐る恐る振り返る。

そこにいたのは黒い青年を連れた博士だった。


「ノワール。いい子にしていたかい?」


にこりとも笑わないまま、彼女はノワールに手を差し伸べる。


「迎えに来たよ、ノワール。私と一緒に、帰ろうか」

「……おかあ、さん……」


早く、と言いたげに博士はノワールをじっと見つめる。


「来ないのかい? ノワールは私と、お母さんと一緒には来ないのかい?」


彼女の髪がふわりと揺れ、僅かに目が細められた。

その瞬間、ノワールは意識を失った。


「博士。それはあまりにも酷いのでは」


ナハトは倒れたノワールを受けとめ、優しく抱き上げた。


「彼女は私の娘なんだから何をしたっていいでしょう? それに、ノアは【深淵なる闇】になれるかもしれないんだから」


娘をなんだと思っているんだ、ナハトはそう叫びそうになったが、きっと博士には通じないだろう。

博士ならばどんな人間でも殺せるし娘にすら手をかけるだろう。

ナハトには理解できない、理解したくもないことだった。


「……はい、博士」


博士はこくりと頷くと、一足先にワープして消えた。

残されたナハトは博士が消えたことを確認し、別の場所へと歩いて行った。

眠ったままのノワールを抱えて。






「ナハト!? なんでここに……? ってノワールまで!?」


ナベリウスの調査をしていたシギの目の前に、ナハトが突然ワープしてきた。


「詳しい話は出来ない。ただ借りを返しに来ただけだ」


ナハトはシギにノワールを渡すと、すぐさまどこかへ消えていった。

シギは何も言えないまま呆然とその場に立ち尽くすだけだった。


「ナハト……? 君は一体何を……」



――――その後、彼がシギの前に姿を現すことはなかった。


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誰かの、誰かのための偶像。うちよそです。

お母さんが造った、それは何か。わからないけど、きっとそれはいいもの。