教室にいるシンデレラ

最終章

平日の夕方ということもあり、駅前は学校帰りの学生や会社帰りのサラリーマンの姿がチラつくようになった。

そんな人達を全国チェーンのカフェの窓から眺めていると亜夢がさっき注文した飲み物を2つ持って帰ってきた。

亜夢から飲み物を受け取ると、プラスチックのカップの下の方に何か書いてあるのが見えた。そこに目をやると『デート楽しんで下さい♡』という文字があった。

このカフェはカップに色々書いてくれるのは知ってたけど、まさかこんなことまで書いてくるとは思ってもなかった。やっぱりカップルに見えるのかそう思いながら亜夢の方を向くと、亜夢はスマホでその飲み物の写真を撮っているようだった。

「なぁ、亜夢」

「何!?」

一瞬ビクッとしてそう答える亜夢。

「亜夢はなんか書いてあった?」

「書いてあったって?」

「カップ」

「あー、カップ…」

そう言ってカップの方を覗きながら顔を赤らめる亜夢。

「見る?」

「見る」

亜夢は黙ってカップのメッセージが書いてある部分をこっちに向けてきた。

そこには『美男美女カップルで羨ましいです!』と書いてあった。

こんな少女漫画が原作の映画みたいな展開アリか?と思いながら店員の方をチラりと見ると、店員は慌てて俺と目をそらした。

多分、あの定員恋愛漫画とかいっぱい読んでるんだろうなと思いながら目線を亜夢の方に戻した。

「亜夢、店員となんか話した?」

「少しだけ」

「何て?」

「美男美女で良いですね〜って言われた」

「で?」

「私がなんで返したかは秘密!」

亜夢は顔を赤くして叫ぶように言うと飲み物を一口飲むともごもごした声で言った。

「頼…彼はかっこいいと思いますって返した」

「え…」

「やっぱり今の何でもない!なかったことにしよ!ね!」

亜夢はそう言うとまた飲み物を飲みはじめた。

保育園の頃から今までラブレターやそういう目で見ていんだろうなと分かる内容のLINEを何度も貰ったことがあったから自分で言うのも変だけど自分はモテる方なのかとなんとなく思っていたし自覚はあった。だからと言って、自分のスタイルや顔に自信があるわけではなかったし芸能人なんかと比べたら自分なんかダメな方と思う。だから、なんで女子が寄ってくるのか自分でもイマイチよく分かってなかった。

むしろ、亜夢はスタイルが良いし本当に美人だと思う。玲羅みたいに特別女子力が高い訳じゃないけど、明るくて誰とでも仲良くなれる人だから近寄りやすいキャラなんじゃないかなと思ってる。

そう思いながら飲み物を一口飲もうとすると、スマホがなった。通知を見ると、玲羅からだった。

「頼くん、今日学校休んでたけど大丈夫?」

「大丈夫」

そう送信すると、すぐに既読がついた。

「亜夢も休んでたけどあなた達大丈夫?」

「大丈夫って何が?」

「色々と。あの後、どうなったのか気になってて」

玲羅は続けてメッセージを送ってくる。

「あなた達2人とも昨日の夜家帰ってないんでしょ?」

玲羅のその言葉に正直ドキッとする。

「それ、なんで知ってるの?」

「安西先生が言ってたから。ねぇ、今どこにいるの?」

多分、黙っていても後々バレてしまいそうな気がして正直に今いる駅の名前を玲羅に教えた。

「その駅なら今日中に帰ってくることできるよね?」

「できると思う」

「先生には黙っとくけど頼くん、ちゃんと帰ってきてね」

「分かった」

そう送信すると、玲羅からシンデレラの「気をつけて」というスタンプが送られてきた。確か、亜夢も持ってるスタンプ。玲羅もシンデレラ好きなのか?と思い、聞いてみると返信はすぐきた。

「小さい頃から大好き」

その言葉に続けてこう送られてきた。

「頼くんに会えて、救ってもらってからもっと好きになった」

その意味がどういうことなのかなんとなく分かった気がした。多分、日曜日玲羅の話を聞いたあの時のことを玲羅が言いたいということも分かった。

『シンデレラ』は不幸だった少女が魔法の力…いや、自分の力で幸せになるというストーリーだ。でも、人は1人じゃ何もできない。それと同じで、1人じゃ幸せになることだって難しいかもしれない。少なくとも、きっかけをくれる人や自分を支えてくれる人が必要なのだと思う。

1人じゃ何もできないけど、一緒にいてくれる誰かがいれば人は強くなれる。

今、自分がするべきことが分かった気がする。

亜夢を連れ戻すこと。現実逃避という名の魔法を終わらせること。

12時の鐘をはやく鳴らすこと。「帰ろう」と声をかけること。

大丈夫。シンデレラは絶対幸せになれる。

今が苦しくてもちゃんと生きること。

頑張って大人になること。

今頑張れば幸せなれる。

今ならこの物語をハッピーエンドで終わらせることができる。

「亜夢」

「何?」

「いつ帰る?」

「え?何言ってるの?」

戸惑いながらそう言う亜夢に俺は返す。

「言葉の通り。いつまでもここにいても何も変わらない気がするから」

「え…」

亜夢の目が少し潤んだのがわかった。それでも、俺は続ける。

「辛いかもしれないけど、前を向かないと何もはじまらない気がする」

「でも、だからって戻る必要はないじゃん!」

亜夢が涙を流しながら怒鳴った。他の客が俺達の方を見てくるがそんなの御構い無しに。

「何が嫌なのか自分でもよく分からないけど、私はあそこで息をするのが苦しかった!」

亜夢は泣きながら続ける。

「何が気に入らないのかも分からない。普通に高校に通えて、頼と話して、部活して、頼と晩御飯食べて。この生活全部に満足してる!」

亜夢は呼吸を整えると続けて言う。

「でも、その場から消えたくなることがあった。勉強してる時とか親といる時とか。」

周りの目がこっちに向いてるのが分かる。多分、店員がこっちに来てる気配がする。

それでも、亜夢は言う。

「だから、ずっと、頼といれたらどんなに幸せかと思ってこんなことしたの!」

亜夢は席から立ち上がると叫ぶように言った。

「シンデレラみたいに私をあそこから連れ出して欲しかった!だけど、よく分かった。私達はまだ子どもでお金も少ないしできないことだってまだまだたくさんある!」

亜夢は続ける。

「だから、頼の言う通りだなって思った。前を向かなきゃ何もはじまらないよね」

亜夢はそう言うと、リュックを背負い俺の方に来て言った。

「魔法はいつか必ず解けてしまう。幸せは自分の力で勝ちとるものだって気づいた」

「亜夢…」

「もう1回頑張ってみる。私には頼がいるから大丈夫」

亜夢はそう言うといつものように「行こ」と言うと俺の手を引いて早歩きで歩き出した。流石の亜夢でも今の姿を周囲に見られていたことは恥ずかしかったのだろう。


改札に入る前、亜夢がちょっと付いて来て欲しいと言いわれ一緒に入ったのは改札前にあるコンビニだった。亜夢はそのコンビニで晩御飯の他にハサミを買うと「トイレ行ってくるから待ってて」と言い、俺にリュックを預け行ってしまった。


亜夢が帰って来たのは、乗ろうてしていた電車が発車する5分前だった。

「自分で切ったからこれ変かな?」

照れた顔でそう言いながら肩の上で切りそろえた髪の先を触る亜夢。

「変って…それどうした?」

「切った」

「なんで?」

ずっと、ポニーテールだった彼女の髪型がガラリと変わってしまったことに少しショックを受けながらそう聞き返す。

「弱い自分と別れたんだ」

「そうなんだ」

「だから、そんな顔しないで。髪はまた伸びるから」

亜夢は小さい子を慰めるようにそう言うと、俺から荷物を受け取り、改札へと向かった。


こうして、短い旅は終わった。


最寄駅に着くと、言ってもないのに改札で待っていて玲羅と担任をはじめとした高校の教師何人かいた。玲羅は俺を見るとすぐに抱きついてきた。

「良かった。もう、帰って来ないと思ってた」

泣きながらそう言う玲羅を俺は抱きしめ返し「色々と迷惑かけてごめん」と返す。まるで、飼い主をずっと待ってた犬のように玲羅は暫く俺から離れなかった。

亜夢はと言うと、担任やその場にいた先生にこっぴどく叱られていた。でも、亜夢はいつものように泣かずに先生の説教を軽く受け流していた。

亜夢がフォローをしてくれたこともあってか、俺はそこまで怒られなかったが2人して1週間特別指導として謹慎となった。


1週間後、冬休み中の補習でクラスメイトと再会した時、クラスメイトの何人かに「駆け落ち」とからかわれたが亜夢はいつものように言い返していた。

そんな亜夢の姿を見ながらいつか亜夢を彼女の夢であるシンデレラにしてあげたいと思った。

チャンスはいくらでもある。でも、言わなきゃ伝わらないことだってある。

亜夢にいつか、ちゃんと自分の想いを伝えよう。


物語はまだ第2章に入ったばかりだ。

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教シンに出てきた小谷と高津が主役の短編小説です。

“ネット恋愛”をしていた両親に当時の話を聞く中学生の話です。