蛇の島

しらさぎ
@sagi_shira

プロローグ①

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
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 どうやらこの辺鄙な島に大勢の優秀なスポーツマンが来るらしいと知ったのは、つい先日のことだった。

 爽やかな蒼天、眩い太陽、海の匂い、草の匂い。自然に溢れた我が地元は、本州から船で三時間近くかかる場所に位置する小さな孤島だ。

 真夏の潮の匂いは独特だな、と島で唯一の港(と呼ぶにはあまりにも小さい)に立ちながら思う。冬よりも主張が強くなっている気がするのは何故だろうか。キラキラと太陽光を反射して揺れる波は、いつもと何ら変わらず穏やかだというのに。


 ―――アンタと同じ中学生の凄い男の子達がたくさん来るのよ、失礼のないように迎え入れてね。


 水面を眺めていると、ふと昼ドラが大好きな叔母さんの笑顔が脳裏を過った。

 私が今、こうして手持ちぶさたに港に立っているのは、これからやってくるスポーツマン達を島中の民泊に案内するという役目を担っているからだ。担っているというよりは、拒否権がなく背負わされたと言うべきだけれど。  

 なんでそんな優秀な人達がわざわざこんな島に来るんだろうな、というのが繕っていない本音だった。そのせいで夏休みだからって雑用を押し付けられるし、大人達は久しぶりの大口客に浮き足立っているし、……島に男子がほとんどいなくて慣れてないから、ちゃんと案内が出来るか不安だし。

 叔母さんの話を聞くところによると、どうやら彼らは施設や身内の加護から離れた遠い島の自然環境に触れることで、より心身を鍛えようとしているそうだ。言いたいことはまぁわかる。わかるけれど、……なんて、愚痴を言っても仕方がないか。

 はぁ、とため息を吐いて、顔を上げて水平線を見る。それと同時に、小さないくつかの白い点が、徐々に姿を大きくしながらこちらに近付いて来ているところを捉えた。

 ああ、来たのか。ついに島に来てしまったか。私は口元を右手で覆い、鼻から肺に沢山の空気を送って覚悟を決めた。

 船首の尖った真っ白なモーターボートが、小さな港に入るために順番に列を作って速度を落とす。一番最初に入ってきた船を誘導して港に付けてもらうと、中からぞろぞろと人が降りてきた。


「うおー!すげぇぞ越前、島だ!」

「そりゃ島っすよ……」

「うるせぇぞ桃城、ちったぁおとなしく出来ねぇのか」

「あ?なんだよマムシ、合宿早々やる気かぁ?」

「上等じゃねぇか」 


 我先にと飛び出してきた男子が眠そうな帽子を被った男子を引っ張り、続いて出てきたバンダナを巻いた男子が一番最初に出てきた男子と突然喧嘩をし始めた。え、なに?こ、怖いんだけど。目の前で繰り広げられる見知らぬ男子達の喧嘩のせいか、背中に嫌な汗がつぅ、と流れる。


「桃、海堂、やめないか。先方に迷惑だろう」

「大石先輩……チッ、おいマムシ、決着はコートで着けんぞ」

「たりめぇだコラ」


 そう答えると、バンダナを巻いた男子はフシューと深く息を吐いた。……どうやらおっかない二人の喧嘩は収まったらしい。もはやどのタイミングで代表者に声を掛ければいいのかもわからず、ただ事態を見つめているだけだ。自分の案内人としてのスキルの低さにさっそく挫けそうになっていると、最後に船から降りてきた落ち着いた雰囲気の男子が、迷いのない足取りでこちらに近付いてきた。


「はじめまして。本日から数日間、こちらでお世話になります。青春学園男子テニス部部長の手塚です」

「あ、はじめまして。今回皆さんのお手伝いをさせていただく名字です。よろしくお願いします」


 この集団の責任者らしい手塚さんは、落ち着いた雰囲気に違わず、冷静な口調でまっすぐに目を見て話しかけてきた。思わず圧倒されそうになるも、自分の役目を思い出して話を進める。


「青春学園の皆さんは、ここから一番遠い所にある民泊を利用してもらいます。ただ、すみません。宿への案内が出来る人間が私しかいないので、次の方達が揃うまでお待ちいただけますか」

「わかりました」


 手塚さんはこくりと頷くと、船から降りてきたメンバーに声を掛けて少し離れた場所へと移動した。……出来る人、というオーラが凄かった。本当にあの人は私と同年代なんだろうか。そうこう考えているうちに船は入れ替わり、また新しい人達が港へと降り立つ。


「おいお前ら、無意味にはしゃぐんじゃねぇぞ」

「はしゃがへんわ。ええ歳して恥ずかしいしなぁ」

「おい侑士、桃城がすげぇ目でお前のこと見てんぞ」

「ああ、別に桃城のことやないで。気にせんといて」

「うわ、桃城のやつ、不二に笑顔でたしなめられた瞬間速攻で引っ込んだぜ。怖いよなあの辺」

「岳人、気ぃ付けや。不二は笑顔が怒りのサインや」

「忍足。俺様の警告が聞こえなかったのか?」

「すまんなぁ、歳のわりにはしゃいでもうたわ」


 丸眼鏡を掛けた男子が、表情を変えずにポツリと言った。「侑士ってたまにバカだよな」独特なオカッパ頭の男子が、丸眼鏡の男子の半歩先を行きながら笑う。


「おいお前」

「はい」


 この人が次の集団の代表だろうか、と目を付けていた人が、後ろにとても背の高い男子を控えさせて予想通りに話しかけてきた。


「俺様は氷帝学園男子テニス部部長の跡部景吾だ。今日から世話になる」

「名字です。これから数日間、みなさんのお手伝いをさせてもらいます。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む。早速だが、この時間に到着するのはそこの青学と俺達氷帝の二校で、次のやつらはおよそ一時間後に到着する予定だ。そっちの段取りは?」

「問題ないです。青春学園のみなさんと一緒に、まずは宿まで案内させてもらいますね」

「わかった。おいお前ら、行くぞ」


 手塚さん同様、跡部さんは迷いのない口調で自分の学校のメンバーに集合を掛ける。私の学校では人数の関係で部活動自体が成立しないため実感はないが、優秀な選手がいる部活のリーダーともなると、その資質として統率力と自信も求められるのだろうか。

 氷帝の方々と同時に案内するために手塚さんへと視線をやると、手塚さんではなく、柔和な笑みを浮かべている男子と目が合った。うわ、え、なんで。予想していなかった事態で思わず目を逸らしてしまったけれど、いやなんでって、私が動かなきゃ話が始まらないんだから、こっちを見てても可笑しくないか。

 柔和な笑みを浮かべている男子は、勝手にドギマギしている私を余所にこの場の雰囲気を察したらしい。手塚さんの肩を叩いて何かを言い、手塚さんの視線がこちらに向いた。私は気持ちを建て直し、少し大きな声で「宿へと移動します」と告げる。手塚さんはまたこくりと頷き、部員を連れて歩き出した。


「よぉ手塚、今回は有意義な合宿にしようじゃねぇか」

「ああ。合同合宿に招いてくれたこと、感謝する」

「ふん、せいぜいこの機会を存分に利用するんだな」

「ああ」


 跡部さんが勝ち気な表情で手塚さんに言い、手塚さんは真っ向からそれを受け止めていた。なるほど彼らは優秀なだけあって、既にそういう人達のコミュニティで顔見知りらしい。これは移動中の沈黙で苦しんだりせずに済みそうだな、と考え、私はタイミングを見計らって口を開いた。


「では、みなさんの利用する民泊に案内させてもらいます。少し歩きますが、よろしくお願いします」


 案内人やら雑用やらを務めきれるのかは不安だが、どうやら悪い人達ではなさそうだ。私の後ろを跡部さんや手塚さんのようなオーラ全開の人が歩いている図は想像できないが、これから、やれるだけのことはやっていこう。

 なにより叔母さんがうるさいし。