恋する動詞111題・011~020

みもち(創作アカ)
@mimochi_sousaku

018. 触れる:柳生比呂士

「あっ」

小さな叫び声と共に、ばさばさばさっ、と紙の散らばる音がした。

振り返れば、足下に散乱した書類を拾い上げようとしている貴女の姿が目に入る。

「大丈夫ですか?」

駆け寄って隣にしゃがみ込み、一緒に書類を集める。

「ご、ごめんなさい」

「いいんですよ」

俯いたままの貴女と短い会話を交わし、そして最後の一枚に手を伸ばす。


瞬間、ピリ、と甘い刺激が走った。


驚いて見やった私の指先が触れていたのは、紙ではなく、貴女の指先。

しかし、その感触を認識するより早く、貴女の手はパッと逃げてしまう。

「ああ、すみません」

沸き起こった感情を押し隠し、謝罪を口にしながら顔を上げると、貴女の顔は赤く染まっていた。


「…これで、最後ですね」

その一枚を拾い上げ、立ち上がり、何事もなかったかのように貴女に差し出す。

同じように立ち上がり、貴女はそれを、少しだけ注意深く受け取る。

「―――ありがとう」

ぎこちない笑みと共に謝辞を告げ、そして貴女は身を翻し、足早に立ち去って行く。

ひどく熱い自分の指先を持て余しながら、私はその背中を見送る。


気付かれてしまっただろうか。

あの時、貴女の指先を、逃がしたくないと思ったことを。

もっとしっかりと触れて、叶うならば抱き締めてみたいと思ったことを。


そんな邪な感情を抱く私を、貴女にはまだ、知られたくないのですが。