恋する動詞111題・011~020

みもち(創作アカ)
@mimochi_sousaku

016. ときめく:黒羽春風

廊下の曲がり角を曲がった所で、ドン、と誰かにぶつかった。

「おっ?」

「わっ!」

ぶつかってきた相手は俺に弾かれて、尻餅をつく。

「いたた…」

「すまねぇな、大丈夫…」

それほど強い当たりじゃなかったので、軽めの謝罪を口にしかけたが、相手が女子であること、そしてその彼女が目を手で覆っていることに気付き、途端に焦る。

「わ、悪ィ! どっか打ったか!? 保健室行くか!?」

「や、大丈夫大丈夫」

「だ、大丈夫って、でもお前泣いて…」

「え? …あぁ、ゴメン違う、これはコンタクトがズレて…」

座り込んだまま右目に当てた指を暫く動かして、やがて彼女は「…ん、よし」と呟いて立ち上がった。

「ほ、ホントに大丈夫か…?」

「大丈夫だってば。心配性だね、黒羽くんは」

そう言って朗らかに笑う彼女に、俺は見覚えがなかった。

「……え、っと。どちら様…デスカ?」

「は? 何言ってんの、私だよ」

それでも首を傾げている俺に、彼女は「もう!」と業を煮やし、

「これで分かる!?」

と、ポケットから取り出した眼鏡を掛けてみせた。

「………あー!お前!」

指を差したその顔は、見慣れたクラスの委員長のもの。

「人の顔を指差さない!」

「あっ、ワリ…いや、しかしビックリだ…全然わかんなかったぜ…」

「こっちだってビックリだわ、眼鏡じゃないだけで知らない人扱いだなんて」

「だってよぉ…いつもと違うしよぉ…」


眼鏡だけじゃなかった。

髪型も、いつものギッチギチなおさげじゃなく、緩く編んだりふわふわさせたり、可愛いピンとか使ったりしていて。

肌や唇も、多分、薄く化粧とかしてるんだろうか、ほんのり色付いていて。

そして、そういうことが、いつもと違う雰囲気を彼女に纏わせていて。


「お前…可愛かったんだなぁ…」

言った途端に、彼女の顔がボッと赤くなった。

「しっ……失礼ね!」

「えっ、あ、いや、スマン、そういうつもりじゃ!」

「分かってるわよ! 黒羽くんはもう少し女心学んだ方がいいんじゃないの!?」

捨て台詞のように言って、彼女は足早にその場を立ち去った。

取り残された俺は、暫くの間、そこから動けなかった。


女心わかれ、って言うならさ。

お前も、男心、わかれよな。


お前だってわかった途端、心臓が早鐘打ち始めた意味とか。

同時に「それ、誰の為?」って疑問が浮かんだこととか。

そういうのに今更気付いて、ああそっか、って、納得した俺の気持ちとか、さ。