恋する動詞111題・011~020

みもち(創作アカ)
@mimochi_sousaku

015. 待つ:柳蓮二

雑踏を一通り見まわしてから、手頃な柱に寄りかかり、おもむろに文庫本を広げる。

それが、君を待つ時間の、俺の過ごし方。


流れ込んでくる雑多な音に耳を傾けつつ、ぱらり、ぱらりと頁を繰っていると、やがて待ち望んでいた足音が聞こえてくる。

徐々に近付く軽やかなその音に、けれど俺は暫く気付かない振りをする。


「―――ゴメン、また待たせちゃった!?」

息を切らせて俺の元に辿り着いた君がそう言ったところで、ようやく視線を上げて微笑んで、それから時計を見遣る。

「いや、時間より少し早い位だ、気にするな」

「蓮二はいっつも早いね。待たせないようにって思ってるのに、全然出来ないよ…」

「それこそ気にするな。俺としては多少待たされた方が、読みかけの本が読めて寧ろ都合がいいんだ」

言いながら、紐の栞を開いた頁に挟み込み、ぱたりと閉じる。

ポケットにしまいかけた文庫本を何気なく見た彼女が、不意に声を上げた。


「あれ? その本、先月も読んでなかった?」


ドキリ、とする。


「…そう、だったか?」

「まだ読み終わらないの?」

「少し…難解な話なんだ」

「ふぅん。速読が特技の蓮二でもそんなことあるんだ」

不思議そうに首を傾げながらも俺の言葉を素直に受け取った君に、そっと安堵する。


本当は、君を待つ間に繰った頁に書かれていたことなんか、一つも頭に入っていなかった。


君との待ち合わせの時は、いつもそうだ。

君がいつ来るか、いつ俺を見つけるか、そしてどんな顔をして駆け寄ってくるか。

そんなことばかり考えて、気持ちが浮ついてしまって、落ち着いて本なんか読んでいられない。


普段の俺なら、それを非効率的な行為だと笑うだろう。

けれど。


「こんな騒がしい場所でそんな難しい本読めるなんてすごいねぇ」

「そうか?」

「うん。なんか余裕ある感じで、…カッコいい、よ」

最後の方は小さな声で、微かに頬を染めながら、君が言う。

「そうか。嬉しいな、ありがとう」

彼女の頭を撫でながら、笑って俺は言う。


君の前では、いつも格好のいい男でいたいから。

少しでも余裕のあるところを見せたいから。


だから、それがどれほど非効率的な行為であろうとも。

この先も、俺はやっぱり頁を繰りながら、君を待つのだろう。