恋する動詞111題・011~020

みもち(創作アカ)
@mimochi_sousaku

013. 慰める:ジャッカル桑原

「まぁたダメでしたー…」

教室に入るなり真っ直ぐ俺のところへ来たお前が、机に突っ伏してぼそりと零した。

「今度は誰だったんだよ」

半ば呆れつつもそう尋ねると、

「野球部の、次期エース…」

消沈した声が返ってくる。


ミーハーなお前が恋をするのは、いつもそういうタイプの男だ。

分かりやすく目立つ男に簡単に恋をしては体当たりで突っ込んで玉砕し、そうして俺の所へやってくる。

泣きそうな顔をして。


「お前はいつも一直線だなぁ」

「ときめきは、瞬発力勝負なの」

すん、と鼻をすすりながら、それでも強気な台詞を吐くお前に、苦笑いが零れる。

「どれだけときめきゃ気が済むんだよ」

「ときめきに際限なんてない」

「それでそんなに泣いてちゃ、世話無いな」

「涙もときめきの一部なの、自分を磨く為には必要なの」

「そうか」

強情の引っ込みがつかなくなったお前の頭に手を乗せて、くしゃり、と髪をかき混ぜる様に撫でてやる。

途端に、お前の強張っていた肩から力が抜けていく。

安心したように、お前が静かに涙を流し始める。

柔らかいくせ毛が指に絡みつく感触を、ひっそりと味わいながら、俺はお前が泣き止むのを、ただ、待つ。


いつもの儀式だ。


俺に慰めてもらって、お前は元気を取り戻し、そうしてまた、次の恋へと向かっていく。

そうやって恋をする度にお前は眩しくなるけれど、その恋に破れる度、こうしてお前は俺のところへやってくる。

お前のときめきの射程外にいるからこそ得られるこの立場は、嬉しくもあり、もどかしくもあり、悔しくもあり。


「…これで運動部、全制覇したんじゃないか?」

お前の涙が止まったのを見計らい、お前がバツの悪い思いをしないよう、いつもの様に軽い口調で言う。

「………まだ、残ってるよ」

けれど、返ってきたのは、いつもと違う真摯な声。

「えっ…どこだ? 弓道部…は半年前にあったし、剣道部は二か月前…だったか? あとは…」

軽く狼狽えつつ、お前の恋愛歴を頭に巡らせていると、

「灯台下暗し」

お前がくすりと笑いながら小さく呟いた。

「は? 何だって?」

「あのね、特別な、一番のときめきはね、最後にとっといてあるの」


さっきまで泣いていた顔に、今まで見たことのない柔らかい笑顔を浮かべながらそう言ったお前に、俺は少しだけ見惚れてしまった。