恋する動詞111題・011~020

みもち(創作アカ)
@mimochi_sousaku

011. 逃げる:幸村精市

物音に引かれて覗いた美術準備室。

一番に視界に飛び込んできたのは、小さな台の上で爪先立ち、棚の上へと腕を伸ばす君の後姿。

指先の微かな震えと少し反り気味な背中に溢れる、緊張感。


危なっかしい君の様子に、笑みが零れた。


ここで声を掛けたりしたら、きっとバランスを崩してしまうだろうな、と思いながら、

「どうしたの、危ないよ」

俺は声を掛ける。

「え…っ、きゃ…!」

思った通り、君の身体はぐらりと揺れて、後ろへと傾いだ。

両腕を広げて待っていれば、無防備な君が自らそこに飛び込んでくる。


そう、これは全て予測通りのハプニング。


「…っと。大丈夫かい?」

「あ…うん、ありがとう、助かった…」

「どういたしまして」

にこやかに受け応えながら、ゆっくりと腕を回す。

君をそっと、後ろから縛るように。

安堵に弛緩していた君の背中に再び緊張が走り始めたのを、胸で直に感じる。

「あ、あの…幸村くん?」

「なに?」

君の困惑に気付かないフリをして、そのまま君を抱きしめようとした瞬間。


「…ごめんなさいっ、ありがとう!!」


俺の腕からするりと抜け出して、君は脱兎の如く部屋の外へ駆け出してしまった。

少しだけ呆然として、それから俺は再び笑みを浮かべる。


君はそれで、俺から逃げられたと思っているのかな。

だとしたら、とんでもない思い違いだよ。


遠ざかる足音を聞きながら、クスクスと笑う。


逃げたいのなら、気が済むまで逃げてみればいいよ。

俺の腕を振りきって、どこまでも、どこまでも。


だけどね。

どこまで逃げたって、多分、無駄だよ。


だって、今、君の頭の中、俺で一杯だろう?


要するにね、君はもう、俺に捕まっちゃった、ってことさ。