平凡くん。オプショナル・ラブ

小日向 奏 秋M3 第一展示Q-10b
@kohinata_kanade

オプショナル・ラブ


千尋「真琴、お前に紹介しておく。ガキん頃の俺と宮城が世話になった、ここの孤児院のシスターだ」


──…


組同士のあのゴタから数日。

千尋さんと宮城さんの地元に、千尋さんが俺を連れてきてくれた。

季節が冬だったら……雪、見てみたかったなあ…。


色んなところを見て回り、千尋さんの思い出の場所に触れることができた気がする。

泊まっている宿で、んへへ…と俺が頬を緩ませていると、酔っ払った宮城さんが俺の前でどかっとあぐらをかいた。



「まーーこちゃんっ」


「ひぁ…っ、な、なんですか…?」


「ふふん、真琴きゅんにイイもん見せたげるぜ〜」


「……?」



いつも身につけている黒の革手袋を、宮城さんが片方の手袋を噛んでするりと外す。

そして、あらわになった左手の薬指を右手で隠すようにきゅっと握って見せてきた。



「マジックをお見せしまーす。一瞬だから逃しちゃだーめ。準備おけ?」


「マジック…!は、はい!」



宮城さん、そんな事もできるのか。すげー…!

わくわくで、ドキドキとはやる胸の鼓動。

その一瞬を逃さないために、俺はじーと宮城さんの隠された小指を凝視しする。



「いなーい、いなーい……バア」


「────…っ!?」



宮城さんがぱっと勢いよく右手を外すと……彼の小指がずっぱり切断されてしまった。

俺はしばらく目を見開いたまま息を飲んでいたが、はっと我に返り、震える声で宮城さんに尋ねた。



「あ…あの…、手品…ですよね、これ…?」


「さあーて……どうかな?」



薄い微笑を浮かべた宮城さんの瞳には光がなく、低い声は俺の不安をねっとりといざなう。

宮城さんは切断された小指の先を、俺に向かってそっと差し出した。



「はい。少し大人になったまこちゃんに、俺からのプ・レ・ゼ・ン・ト♡」


「〜〜〜〜ッ」



じわりと目尻が滲むのをごまかすように、俺はぎゅうっと目をつぶってこぶしを握る。

そして、宿が揺れるんじゃないかってくらいの悲鳴を、喉から絞り出した。



「うあああああああああっっ!!!」


「んおっ!?」


思わず顔をしかめる宮城さんと、俺の悲鳴を聞いたのか、洗面所から半裸で駆け込んできた千尋さん。

その形相は今まで見てきた中でベスト3に入るんじゃないかってくらい、険しい般若の顔をしていた。



「──どうした、真琴…!?」


「千尋さん…っ、宮城さん、宮城さんの…、指、指がぁ…っ」


「……あ”?」



千尋さんは宮城さんの左手を掴むと、切断された小指をじっと見つめる。

…かと思った瞬間、千尋さんは舌打ちをして宮城さんに頭突きを食らわした。



「──痛ッ〜〜!」


「てめェ……またガキでからかって遊びやがったな」


「ごめんってば、すまんすまん!あどけない顔してたから、つい!」


「…よっぽど俺にシメられてぇようだな…あぁ”?」


「え…?えっえっ…?」



わけも分からず、慌てふためく俺。千尋さんは落ちていた宮城さんの小指を拾うと、切断面を俺に見せてきた。



「…ただの義指だ。中が空洞になってるだろ」


「あ……」


「あーあ、ネタバレしちゃやーよ♡…ってアッアッ、ごめんヒロまじでごめん」



俺…騙されてたのか…。本当、単純で情けない。

こんなんじゃ、いつまでも千尋さんみたいにかっこよくなれない。

千尋さんを…守れる漢になれねぇじゃんか…。


下唇をぎゅっと噛んで俯いてると、頭にあたたかい重みを感じた。

顔をあげると、千尋が俺の頭に大きな手の平を添えていた。



「……ガキがくだらねぇ事で悩んでるんじゃねぇ」


「千尋さん……」



頬がほんのりと熱を帯びるのを感じた。千尋さんに気にかけてもらえてる。それだけで、俺はすげー幸せだ。


横で俺達の様子を見ていた宮城さんは、ごほんと咳払いをすると、冷蔵庫から缶ビールと缶ジュースを一本ずつ取り出し、差し出してきた。



「良い機会だし、ヒロとまこちゃんの兄弟盃、今やっちゃえば?」


「…あ?」


「え……?兄弟…さかずき…?」


「義兄弟になりましょう〜って儀式。ヒロ、前にお前とやりたいって言ってたから」



え…?ち、千尋さんが──…!?

お、俺と!? 聞き間違いじゃ、ないですよね?

俺が目を輝かせて千尋さんを見上げると、千尋さんは目をそらして宮城さんから乱暴に缶ビールとジュースを取り上げた。


そして片手で指をかけて蓋を開けると、そのジュースを俺に差し出してきた。



「持て。…落とすなよ」


「は、はい…──っ!?」



俺がジュースを受け取ると、向かい合って立っていた千尋さんが、ビールを持っている腕を俺の腕と絡ませるようにしてきた。

千尋さんの浅黒い肌が、俺の素肌と触れ合っている。



「立会人と口上は俺がやりまーす。準備はいいですか、お二人さん?」


「…あぁ」


「は、はい…!」



──…



兄弟盃の後。


「風呂、浴びてくるが……宮城、もう真琴で遊ぶんじゃねぇぞ」


「へいへい。行ってら〜」


「……」



……気まずい。

宮城さんはのんきに鼻歌を口ずさみ寝転んでいる。

が、俺は正直、宮城さんが苦手だ。


俺は落ちていた義指を拾うと、宮城さんに近づいて、そっとそばで膝を折った。



「……お。まこちゃんが俺から逃げないのは珍しーね」


「……」


酔いが回り、いつもより更にへらへら笑ってるけど、目はぎらついている。

……気がするから、俺は本能的にこの人が怖い。



「今日は…お世話になった、から…」


「まこちゃんってさ。俺の事、嫌いでしょ」


「……」



嫌い、というよりは。



「怖い、です。宮城さん、いつも俺に意地悪してくるし……今日だって、からかわれた」


「ひひ、それはな〜…お前が、あの女にどっか似てるからだよ」


「……?」


「俺が素直になれねぇーガキだってこと」


「……、…?」



意味が分からない。

義指を差し出すと、宮城さんはそれを受け取り、切断されている左手の薬指にはめた。



「…宮城さん」


「なーにー?」


「……ありがとう」


「──…」



はにかみながらお礼の言葉を口にすると、畳の上でごろごろしていた宮城さんはわずかに目を見開いて俺を見上げた。



「宮城さんは、正直、ちょっと掴み所がなくて苦手だけど……本当は良い人だと思うから」


「なぜー?」


「今日だって、兄弟盃のこと進めてくれたし…。それに…千尋さんのことが大好きだって事、いつも伝わってくるから」


「ぶふっ……!き、気色悪ィこと言わねぇーでくれよ…」


「ほら、そういうとこ。いつも器用なのに、自分の気持ちを表すときは不器用なんだなあ…って…思います」


「……」



宮城さんがはた、と笑わなくなったから、俺はわたわたと慌て出す。言ったらダメな事だったのか…!?


宮城さんはわずかに体を起こすと、「よっこいしょ」と、俺の膝に頭を乗っけてきた。な、何故…?



「まこちゃんは鋭いな〜。

……真っ直ぐな瞳をこうやってじっと見つめてると、吸い込まれてしまいそうだ」


「……宮城さんは」


「ん…?」


「宮城さんの瞳は……どうして時折、そんなに寂しそうな色をしているんですか…?」



宮城さんはまばたきをすると、口を開く。…が、唇をつむぎ、あまり見せたことのない微苦笑を浮かべた。



「……まこちゃん」


「何ですか?」


「俺の名前、知ってる?」



急にどうしたんだろう?

宮城さんは、宮城さんでしかないのに。



「宮城、さん」


「それ苗字。下の名前は?」


「…”涼”?」


「……そ。俺の名前は、”涼”だ」



……?結局…この人は名前を呼ばせて何をしたかったんだ?

俺がしかめっ面をして見下ろしていると、宮城さんはにひひと笑い、手を伸ばして俺の頬をするりと撫でた。



「こんなにも近ぇのに……高嶺の花、だな」


「……?」


「何でもねーよ。まこちゃん」


──…



今思うと。


「あいつ……あの時、俺に告白してきてたな」


旦那が呑んでいる缶ビールを見つめながら俺がぼやくと、千尋さんは殺気を帯びた目つきで俺を見つめてくる。



「あぁ”?誰がだ」


「…秘密です。ねぇ、旦那」


「…何だ」


「千尋さんも、宮城のこと大好きでしょ?」


「──ゲホッ」



ビールで噎せた千尋さんをじっと見つめていると、旦那は耐えかねてか、小さな声で呟いた。



「…………あぁ」


「ええッ!? ほんとかあっ、ヒロ!?」


「…っ、てめぇっ、酔いつぶれてたんじゃなかったのか…!?」


「やーねん、ダーリン♡私はずっと起きて……ちょっと待って、吐きそ…」


「…ッ、離れろ、早く──」



げろげろげろ〜…と床に嘔吐物を撒き散らした宮城を、千尋さんが突き飛ばす。

そのまま床に倒れ気を失った宮城を横目に、俺はやれやれとため息をつき雑巾を手にした。


……俺も。


「大好きだよ。…宮城お兄ちゃん」

著作者の他の作品

BL小説「平凡くんのオトし方。」原作の後日談です。原作読まないと分からない...