夢見る者たちの平行世界

名前を呼ばないで

「兄さん!?」


突然目の前に現れた青年は、僕を見てそう叫んだ。

僕は首を傾げ、青年を見つめる。


「……人違いじゃないですか?」


自分に弟がいた覚えはないと彼の言葉を否定するのだが、彼はなぜか引き下がらなかった。

僕の事を兄と呼び、手の届かないところにいる憧れの者とも言った。

けれど僕にはさっぱりわからなかった。


「ごめん……僕は、僕には……」


過去の記憶がないんだ。

彼が本当に自分の弟だとしても、きっとその名を呼ぶ資格なんてないのだろう。


「記憶喪失……なのか」


彼は悲し気に口元を歪め、強く唇をかみしめる。

もし僕に記憶があったならば彼との再会を喜べたかもしれない。

……嘘をついてでも彼を喜ばせた方がよかった?


過去の記憶がない僕にはわからなかった。

悪いことは言わない、だから僕の事を兄と呼ばないでくれ。


兄と呼ばれると、頭が酷く痛んで苦しいから。

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教祖と記憶喪失がいちゃつく話。

ただ一人生き残ったモネちゃが逃げたりなんなりする話。