ニートな彼氏

アルマジロ@イン率激低下中
@typ_e_X

六話 よく考えたらツンデレでした

 酔い潰れてから、二時間が経過した頃。

 亜鶴は、恋が仕事をしている部屋の前に居た。

「恋、まだ仕事中?」

 問い掛けつつ、部屋の中へと踏み込んでいく。

 酒に酔って寝落ちていた間も仕事をしているのかと、その様子を覗き込んだ。

 パソコンのキーボードを叩く恋の指は止まらない。

「そろそろ構えよー」

 そう言いながら、後ろから思い切りハグをした。

 仕事をしている恋は、その腕を掴んで解放させようと試みる。

「おい、抱き着くな……仕事中なのを、見て理解出来ないお前じゃないだろ」

 しかし、力は亜鶴の方が幾分か強い。

「いいじゃん。抱き着いても減るもんじゃないし」

 ベッタリとくっついたまま離れない上に、とんだ言葉を返されて恋のこめかみに青筋が立った。

「仕事時間が減る! 体力も減る! ストレスが増える!」

「ほら、カリカリするとストレス溜まるからとりあえず落ち着けよ」

 全く悪びれない亜鶴。声を上げても無駄だった。

「誰のせいだと思ってる? ……良いから、離せ。仕事が出来ない」

「やーだ。死んでも離さないもんねー」

「……そうか、わかった」

 素直に聞き入れてくれたと思い込んだ亜鶴は、満足げに笑みを浮かべる。

「聞き分け良くて宜しい」

「……いっぺん、死んでみる?」

 ぽつり、と呟かれた言葉。

 亜鶴が理解するより先に、恋が懐からカッターナイフを取り出した。

 そのギラつく刃に思わず両腕を離し、亜鶴は後退る。

「……えっ、ちょ、ちょっと……恋? 何それ。なんでナイフなんか持ってんだよ? うあぁぁぁッ!!」


 ――――。


「っていう夢見たんだけど、恋に別の意味で襲われたんだよね。なんでナイフなんか持ってたの? 恋怖すぎ」

 恋の仕事部屋で、そう訴える亜鶴。

 どうやら酔いも眠気も覚めたらしい。

 パソコンに向かいながら夢での出来事を一通り聞かされたところで、恋はパソコンの電源を落とした。


 ……んなこと、俺が知るか!!

 

 夢の中まで関与出来るわけないだろと心の中で反論しつつも、恋は溜め息を吐いて相手に向き直り、その顔を見遣る。

「そもそも論だが、仕事の邪魔をするお前が悪い。夢で良かったな」

「ほんとほんと、夢で良かった良かった。だから構って」

 話題を転換するどころかぶっち切って紡がれた言葉の羅列に、恋は半目となった。

「どんな理屈だ。……けどまぁ、今日の仕事は済んだから構ってやる」

「うわ、偉そう。恋って何様?」

「俺様」

「……」

「……」

「…………ま、いんじゃね?」

 暫く続いた沈黙の後、溜め息混じりの言葉を返しつつ、亜鶴は視線を逸らした。

「な、なんだその薄い反応はッ! お前が訊いてきたから、折角乗ってやったのに……なんか、恥ずかしくなるだろ……」

 恋なりに、精一杯紡いだ言葉だった。それも、ボケの部類に入る言葉。

 しかし、相手の反応はあまりにも冷めきっていた。

 次第に羞恥が沸き上がり、恋の頬が赤らんでいく。

 その様子を盗み見て、亜鶴はニヤリと口角を上げた。

「羞恥に悶えてる恋も、可愛いよ」

 果たして、悪意があるのかないのか。

 恥じらうことのない台詞に続き、まるで慰めるかのように優しく肩を叩かれた恋は、その手を振り払う。

「嬉しくないッ! 悶えてないッ! ……ったく。それで? 構えって、何をするんだ?」

 興奮しかけたところで本題に戻し、視線を向けた。

 話題への執着心が薄い亜鶴は、その問い掛けにあっけらかんとして口を開く。

「考えてない」

「だろうな。そうだと思った」

 何かしようと思っていたわけではない。ただ、構って欲しかった。

 そんな亜鶴の本心を悟っていた恋。

 なんて自分は愛されているのだろうかと考えてみれば、つい表情が緩んでしまいそうになる。

 悟られないようにと、恋は椅子から立ち上がり踵を返した。

「俺の考え読めるとか、恋ってエスパー?」

「んなわけないだろ。誰でも想像がつく」

 本当は『誰でも想像がつく』なんて嫌だと思う。それでも、口をつくのは天の邪鬼にも似た答え。

 そこで、恋は、はたと気が付いた。


 ……あぁ、そうか……。俺って、ツンデレなんだ。


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