シクラメンと悪魔たち

アルマジロ@イン率激低下中
@typ_e_X

闇夜の森で

 

 月明かりの下を、一人の青年が駆ける。


 ――ジジジジッ……


『……カガリ……その先の森に……』

「わかってるって。殺せば良いんだろ」

 胸ポケットの無線機から響いた雑音混じりの言葉を切らせるように、カガリと呼ばれた黒髪の青年は、愉しげに口角を吊り上げて言葉を返し、木々の生い茂る暗闇へと姿を消した。


 ――『精霊を抹殺するため』。


 その為だけに、青年は森を行く。

 月明かりすら入らない暗闇。

 しかし、足を取られることもなく、素早い動きで悠々と木々の間をすり抜けていく。

 そうして進んだ先で、青年は目を細めた。

 

 ……近いな。


 不穏な気配を察し、微かな警戒心を身に纏う。

 人間でも動物でもない、異質な気配。

 やがて駆けていたペースを落とし、そのまま足を止めた。

 目の前に現れたのは、月光が降り注ぐ開けた空間。

 中央には、大きな湖が静かに広がっている。

 そして、異質な気配もまた、そこにいた。

 畔に、一人の少女が腰掛けて青年を見つめている。

 輝くような銀色の髪に、エメラルドの瞳。まるで見惚れてしまいそうな可憐で美しい少女に向かって、青年は口角を上げたまま歩を進めていく。

「人間の姿に化けるってのァ、本当みてェだな。俺を欺くなんて無理だけどッ……」

 語尾を言い終えないタイミングで、青年が片足を踏み込んだ。かと思えばその場から姿を消し、次の瞬間には少女の眼前へ。

 間髪を入れずに右手を掲げると、一気に振り下ろした。

 ひゅん、と風を切る音だけが短く響き、次いで少女の身体が湖へと倒れ込む。

 それまで鏡のように月を映し出していた水面が、大きな水音と共に激しく歪んでは、何事もなかったかのように再び月の姿が浮かび上がらせていく。

 その様子を眺めることもなく、青年は踵を返した。

 放置気味になっていた無線機を胸ポケットから取り出すと唇を寄せる。

「……任務完了。湖のアンシーリーコート・ケルピーは抹殺。湖に落ちたけど濡れたくねェから放置。あとはテメェらで片付けとけよ。……じゃ、眠いんで帰りまーす」

 気怠げな声色でそう告げては、相手の反応を待つことなく電源を落として、胸ポケットへと押し戻し、闇に覆われた森を戻っていった。