fine after rain

雨の日は好きではない。



それは雨が降る日は、私の中で悲しい思い出しか無いから。

良い思い出などなかった。




貴方に会う、あのときまでは・・・




夕方の電車は、帰宅する学生や会社員の人でいっぱいだった。


そんな中、私も大会が終わり自宅に帰ろうとしていた。



中学最後の大会・・・

結果は、負けてしまい今日で引退することになった。



まだ実感が湧かない私は、街の景色をただじっと見ているだけだった。



何分かして電車が私の降りる駅に到着した。


誰よりも早く、ラッシュアワーのホームをすり抜けて行った。



誰にも負けないように・・・

誰にも追い越されないように・・・



とローファーを響かせる。



外に出るといつも見慣れた景色が広がっていた。

そんな景色を、私はゆっくりと息を整えながら見ていた。



(あの時・・・私がミスさえしなければ終わることなかったのに)

(こんなはずじゃなかった。)

(今までずっと勝ってきたのに・・・)

(どうしてこのタイミングで・・・)



様々な感情が渦巻いて、ため息が出そうになったが閉じ込めた。



落ち込んでも、すぐに切り替えて次に進む。

それが、私のプライドである。



『いつまでも引きずっていてはダメだ。明日から切り替えるぞ!』


自分に言い聞かせ、家に向かって歩き出す。




歩き出してから数分後、今まで晴れていたのに急に土砂降りの雨が降ってきた。



『えっ嘘でしょ!?傘持ってきてないのに!?』


最初は焦っていたが、何故かだんだんと落ち着いてきた。



(また雨かぁ・・・はぁ)




雨の日は好きではない。


良いこと、嬉しいことがあった試しがない。


例えば、小学校の時に仲良かった友達が遠くへ引越す時もそうだった。


離れたくなくて、ずっと泣いていたのを覚えてる。


その時も雨が降っていたな。




それだけではない。

大好きだった先輩に告白をし、振られたときも雨が降っていた。



そして今回も・・・



雨は止むことを知らずに、私の制服を濡らしていく。



雫が頬に伝っていく。

その雫が雨水か涙なのか、分からないくらい降り続く雨。



『やっぱり、雨の日には良い思い出はないな・・・。』



歩く足を止め、立ち尽くしていた私は切ない声でそう呟いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



部活がいつもより早めに終わった俺は、街のスポーツ店に行くことにした。


目的は、部活で使うテーピングなどの消耗品を買うためだ。



「あいつらテーピング使い終わるの早すぎるべ。この間買ったばかりなのに。」

一言チームメイトに対しての文句を吐いて目的の場所に歩いていく。


少し歩くと急に雨が降り出してきた。



「いきなり降ってきたな。傘差すべ。」

たまたま学校に忘れていて今日持って帰ってきた傘を差し再び歩き出した。



傘を差して歩いていると向こう側に女の子の姿が見えた。



傘も差さずに、雨宿りもせずにただその場所に立ち尽くしていた。


(あの子何しているんだろう?傘も差ずに)


彼女はどこか切ない表情をしていて、その姿は今にも人波に流されて消えてしまいそうだった。



そんな彼女を見失いたくなくて、俺は人込みをくぐり抜けて走っていった。




「あのままだと風邪ひいちゃうべ。」



彼女のことは知らないはずなのに、何故かほおっておけなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あれからどのくらい時間が経ったのだろうか。



制服も髪もびしょ濡れで寒くなってきた。


『寒い・・・。』


あまりにも寒かったので早く帰ろうと歩き出そうとした。


その時だった、後ろから声をかけられた。



「こんなところにいたら風邪ひくべ。」



『えっ?』



振り返るとそこには、銀髪の男の子が傘を差し出して立っていた。




「いきなり降ってきたから、傘持ってなかったよね。あっ、制服濡れてるから俺のタオルで拭いていいべ。」

 


彼は笑顔でタオルを渡してくれた。



『すみません、ありがとうございます。』



私は、タオルを受け取った。

とても優しい人だなと感じた。



彼の暖かさが身に染みて、今まで堪えてた思いが溢れてきた。



ふと一滴の涙が私の頬を伝った。


『あっ・・・』



「どうしたの!?大丈夫?」



『だい・・・じょうぶ・・・です。』



言葉ではそう言っても、涙は止まらなかった。

色んな感情が溢れてでくる。



そんな姿を見ていた彼は、少しして私を包み込むように優しく抱きしめた。



『ふぇ・・・!?』



突然の事で驚いて、変な声がでてしまった。



『何があったかは知らないけどさ、辛いなら泣いていいんだよ?胸貸してあげるからさ。』



彼は優しい口調で言ってくれた。


その優しさに甘えて、私は何も言わずずっと泣き続けた。



彼は、私が泣き止むまで何も言わずにずっと傍にいて抱きしめてくれた。




『あの、ありがとうございました。傘とかいろいろ・・・。』



「いいよ、落ち着いたみたいで良かった。じゃあ、俺は行くね。」



『えっ!?傘はどうするんですか?まだ雨降ってますよ。』



「キミにあげるよ。風邪ひいたら大変だからね。俺は大丈夫だから。じゃあね。」



彼は、笑顔で片手を挙げて走って行った。



そんな彼の背中を私は、いつまでも見ていた。


(ドキドキしたけど、すごく優しい人だったな。また、会えたらいいな。)




抱きしめられた温もりを感じながら家へと歩き出した。

帰る途中で雨も止み、傘を折りたたんだ。



『いつか、雨の日にあの人にかえさないとな。』



好きじゃなかった雨の日が、貴方と出会って少しだけ好きになりました。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あの出来事から一年が経った



傘は、あの時から私がずっと持っている。



いつか返せる時が来るまで大切にとっていた。



当時、中学3年生であった私も現在は高校1年である。



高校は、かねてから憧れだった烏野高校に入学することができた。




そして今日は、排球部の部活の見学に行くことにした。




自分が選手として果たせなかった夢を今度はマネージャーとして選手を支えながら一緒に果たしていこうと思った。



『いよいよ見学初日だ。さっそく体育館に行こう!!』



体育館に向かってまっすぐ駆け出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「大地、今日新しいマネージャーが来るんだよね。」



澤村「あぁそうだ。一年らしいぞ。」



田中・西谷「かわいい子だとイイっすね!!」


ニヤニヤしている田中・西谷にチョップをする澤村。



澤村「さぁ、練習やるぞ!」


主将の声が体育館に響く。



(マネージャーか、どんな子だろうな。)



彼、菅原孝支はそう思いながら練習を開始した。







この時はまだ知らなかった。


雨の日に出会った2人は、1年後同じ高校で再開することを。


そのことを知るのは、まだちょっと先の話。



あの雨の日に止まっていた2人のメロディが再び流れ出すまであと少し・・・。