アズカバンの囚人

マローダーズマップ

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。



 後ろを振り向かずに階段を上るサクラ。

 太った婦人レディの代理であるカドガン卿へ合言葉を述べる。彼に元気がないことを指摘されるが、何でもないとだけ答えて壁をよじ登って穴を潜った。

 何故こんなにも悲しい気持ちになるのか、まだ言葉では表現出来ない。

 寝室から羊皮紙や教科書などを持ってきて談話室で課題を熟そうとするも、進捗率は悪い。

 何かがあったことをハーマイオニーには察しられたようだが、彼女へ打ち明けるタイミングがなかった。


――何が悪かったって、自分の対応が悪かった。


 ドラコに写真を持っていると告げられ、自分はどのような反応をしただろうか。

 ずっと黙りこくって何も言葉を発しなかった。

 これを、自分に置き換えて考えるとどうだろうか。自分がドラコの写真を持っているとカミングアウトした後、彼が黙り込んでしまったら。

 ドラコが何を考えているのか分からず、自分がどう彼に受け止められたのか不安で怖くなる。


――じゃあ、どういう反応をすればよかったのか……。


 そのときのサクラは、ドラコの真意が掴めず気持ちも分からずに、黙りこくってただひたすら疑問や不安、恐怖を感じていた。それがドラコにとって、感じが悪く思われただろう。


――マルフォイくんの気持ちが分からなくても、訊くのが怖くても、でも……お互いに大事にしようねくらい言えばよかったんだ。


 自分の対応の悪さに辟易する。

 もっと自分に自信があれば、あのようなことはしなかっただろうか。


――でも、どう足掻いても自分はこういう人間。悲しい。


 こういう人間でなければ、もっとその場その場で秀逸な対応、振る舞いが出来るだろうか。

 けれども、自分はこういう人間なのである。頭の回転が悪いし、自分に自信がない。


――だからこそ、マルフォイくんの前では魅力的な人間になるために演じなければ……。


 しかし、演じてきたつもりだが、あのときはもっとああすればよかった、などと思い返すことが多くある。

 演じても演じなくても、自分は所詮その程度の人間なのである。


――そう考えると、何だか、何もかもが……めんどくさい。


 ホグワーツに入学して組分けされるとき、組分け帽子に面倒臭がりな性格だということを指摘された。それ以来、何事にも面倒臭く思わないように心掛けてきたつもりだった。

 しかし、やはり自分は元来面倒臭がりな性格のようである。

 性格は、簡単には変えられない。


――やっぱりあたしは、何も変わらない。何も成長していないんだ。


 ベッドに入り、引き出しからドラコの写真を取り出す。彼は、少しだけ不機嫌そうな表情ながらも、こちらを見つめ返してくる。

 そんな彼を見て、恋しくて切なくて、胸が苦しくなったのだった。

 先程中庭からグリフィンドールの寮へ戻るとき、自然な流れでドラコがサクラを送ってくれた。それなのにお礼も言わなかった。

 別れ際のドラコに見た悲し気な笑みは、傷ついた表情だったかもしれない。



 学期の最後の週末に、ホグズミードへ行けることになり、ハリー以外が喜んだ。

 ハーマイオニーは嬉しそうに、両親にハニーデュークスのミント味の糸楊枝型菓子を贈ることを述べていた。

 サクラも例に漏れず皆と同様に、そのときにクリスマスショッピングをしようと考えた。今年のクリスマスも帰らない旨を綴った祖父母への手紙をクルミに託したので、彼らへのプレゼントを買う事も忘れない。

 ホグズミード行きの土曜日の朝、出掛けられないハリーはいつにも増して元気がなかった。最も、ハリー愛用の箒であるニンバス2000が折れてからは元気を失くしている。

 この箒は、ハリーが1年生のときにクィディッチチームへ加入する際、マクゴナガルから贈られたもので、ハリーにとってはとても大事な箒だった。だが、この前の試合でディメンターに襲われたとき、箒が暴れ柳のところへ落ちてしまい、そこでばらばらに折られてしまったのである。

 クィディッチの練習では、シューティングスターという学校の古い箒を使っているようだったが、動きが遅くぎくしゃくしていて扱いづらいという。

 ニンバスを失い、練習も思うようにいかず、更に自分だけがホグズミードへ行けないことを考え、ハリーは尚更元気がないのだろう。


――なんでハリーがこんなに悲しい目に遭わなくちゃいけないんだろう。でも、あたしにできることなんか……おみやげを買ってきてあげることくらいしか。


 玄関ホールまで見送ってくれたハリーと別れ、サクラとハーマイオニーとロンは他の生徒に混じってホグズミード村へ向かった。

 ロンが、最初にゾンコの悪戯道具専門店へ行きたいと言っていたので、3人はまずその店へ入る。店内には、そのようなものいつ使うのか、使う必要があるのかと疑問を抱くようなジョークグッズが所狭しと置かれて売られている。

 ロンが商品を手に取りながら物色するのを、サクラとハーマイオニーが両脇で眺めていた。


「――いい気なものだな」


 背後からの声に、サクラの心臓が飛び跳ねる。

 サクラ達が振り返ると、そこには今日も腰巾着を連れたドラコが立っていた。


「失せろ、マルフォイ」


 何がいい気なものなのか分からなかったが、ロンは彼へ言葉の意味を尋ねることもせずに、にべもなくそう言い放つ。


「両側に女子を抱えているということは、グリフィンドールではウィーズリーでも人気者になれるということか」

「黙れよ」


 ロンをバカにするような言い方のドラコと、彼の言葉にげらげらと笑うクラッブとゴイル。そんな彼らを、ロンが睨み付ける。


「気にしないでおきましょう」


 ハーマイオニーがロンの肩を押す。

 これはチャンスかもしれないとサクラは思った。あの夜でのことをドラコへよく言っておく必要があるのなら、丁度よくドラコが現れた今がチャンスかもしれない。


――いや、でも、どうやって? ここで、あのときはごめんね、とか言うつもり?


 無駄な混乱や詮索を避ける為、出来ればふたりきりになったときの方がよさそうなので、サクラはドラコの方を見ながら思い留まった。


「まあ、君の人気振りは心底どうでもいいが、僕が用あるのは――」


 ここでドラコがこちらに視線を向けた。目が合った衝撃で、再び心臓が跳ね上がる。


「あー、ちょっといいか?」


 咳払いをしながら、ドラコがそう告げた。こちらを見ているので、サクラに言っているのだろう。

 すると、サクラが何かを言う前にロンが一歩前へ出る。


「お前、サクラをどうするつもりだ? また泣かせる気か?」

「ロ、ロン」

「お前には関係ない。黙ってろ」

「サクラも、好かれるならもっとまともな奴の方がいいに決まってる。だろ?」

「ロン! そんなこと言ってない!」


 ロンの言い方に、ドラコも彼を厳しく睨み付ける。


「もうサクラに近づくな。行こう」


 ロンがサクラの腕を引っ張り、ハーマイオニーの肩を押して店から出ようとした。

 サクラはどうしたらいいのか分からず、ロンに腕を引かれながら後ろを振り返った。ぽかんとする腰巾着の中央で、ドラコが床を睨みつけていたのだった。

 店を出ると、吹雪が容赦なく3人に吹き付ける。


「まったく、あいつどうかしてるぜ。サクラと釣り合うはずないのに」

「……庇ってくれてありがとう。でも、マルフォイくんにそんなつもりはないよ」


 3人は、とりあえず雪の積もる村の道を歩き出した。


「どうだか。あいつはしょっちゅう僕やハリーに突っかかってくるいかれた奴だ。ハーマイオニーにだって、平気でひどいことを言ったじゃないか」

「でも、マルフォイは一体サクラに何の用があったのかしら」

「知るもんか。きっと大したことじゃない」

「…………」


――本当に、何を言おうとしてたの、マルフォイくん。


 3人は次に、ハニーデュークス店へ訪れた。カラフルな品々に溢れかえる店内を見回し、若干目が眩む。

 ハーマイオニーは両親へのプレゼントであるミント味の糸楊枝型菓子を探し、ロンは爆発ボンボンや蛙型ペパーミントを手に取る。サクラはいつものように、砂糖羽ペンと綿飴羽ペンを選んだ。

 ハリーには何を買ってあげようか、と人がごった返す店内を歩き、ロンが「異常な味」と書かれた看板の下で足を止める。そこの棚のトレイの中には、血の味がするというロリポップが入っていた。


「血? 血の味ってどうなの?」


 果たして血の味は美味しいものなのか。


「うーん、だめ。ハリーはこんなもの欲しがらないわ。これってバンパイア用だと思う」


 まるで凝血したような飴を見て、サクラもハーマイオニーも顔を顰める。

 するとロンは、じゃあこれは? と何やら瓶を掴んで見せてきた。その中にはゴキブリの形をしたものがびっしりと入っている。それはゴキブリクラスターのお菓子だった。


「――絶対いやだよ」


 またも背後から声がして心臓が飛び跳ねる。ロンは持っている瓶を落としそうになった。

 振り返ると、そこにはくしゃくしゃの黒髪をした眼鏡の少年が立っている。彼は紛れもなくここにいる筈のないハリーだった。


「ハリー!」


 びっくりしてハーマイオニーがハリーの名前を呼び、サクラとロンも目を見開いた。

 ハリーは、何も防寒具を着けていない格好をしている。


「な、何でここに? どうやって……」


 サクラは混乱して上手く言葉を紡ぐことが出来なかった。


「ウワー!」


 ロンが感嘆の声を上げる。

 

「君、『姿現しの術』ができるようになったんだ!」

「まさか。違うよ」


 ハリーは、何やら使い込まれた羊皮紙のようなものを取り出してきて、声を落としながら3人に説明した。

 それは、先程ホグズミードに行く前のフレッジョから譲り受けた「マローダーズマップ」というものらしい。


――マローダーズマップ? マローダーズってなに?


 それは、ある呪文を唱えるとこの羊皮紙上に地図が浮かび上がり、人や動物の位置も記されるというものらしい。そして、この地図は誰も知らない城内の抜け道までも記されているという。そのいくつかある抜け道のひとつを通って、ハリーがここへ来られたようだった。


――フレッジョらしい代物だな。


「フレッドもジョージも、何で僕にくれなかったんだ! 弟じゃないか!」


 ロンが憤慨するのも分かる気がする。


「でも、ハリーはこのまま地図を持っていたりしないわ!」


 もちろんハリーはそんなことなどしない、というような言い方のハーマイオニー。


「マクゴナガル先生にお渡しするわよね、ハリー?」

「僕は渡さない!」

「でもそれ、そんなに危ないもの? 今までフレッドとジョージが使ってたものなんでしょ?」

「うん。ふたりが1年生のとき、フィルチの部屋から持ち出して以来ずっと使ってたみたい」


 いくらいたずら好きなふたりであっても、本当に危険なものをハリーに渡す筈がないだろう。


「おい、ハーマイオニー。こんないいもの渡せるか?」

「僕がこれを渡したら、どこで手に入れたか言わないといけない。フレッドとジョージがちょろまかしたってことがフィルチに知られてしまうじゃないか!」

「それじゃ、シリウス・ブラックのことはどうするの?」


 ハリーへ自身の危険を忘れさせない為、ハーマイオニーが少し強い語調になる。


「この地図にある抜け道のどれかを使って、ブラックが城に入り込んでいるかもしれないのよ! 先生方はそのことを知らないといけないわ」

「ブラックが抜け道から入り込むはずはない」


 ハリーがすぐに反論した。

 ハリーが言うには、この地図に書かれる抜け道は7つあるという。

 フレッジョ曰く、その内の4つは既にフィルチが知っている。残りの3つの内、1つは崩れているので通り抜けることは不可能。もう1つは、出入り口の真上に暴れ柳が植わっているので、出られないし入れない。あとの1つは、今し方ハリーが通ってきた抜け道である。


「……出入り口はここの地下室にあって、なかなか見つかりはしない……」


 出入り口がそこにあるって知っていれば別だけど、とハリーが最後には口籠りながら説明した。

 つまり、ブラックがそこに抜け道があることを知っていれば、入り込めることになってしまうということだろう。


――あ、でも、ブラックはこの村に入れないんだっけ?


 サクラが店の貼り紙のことを思い出すのと同時に、ロンが咳払いをしてハリーの注意を引きつけたのだった。

 ロンは、店の出入り口のドアの内側に貼ってある貼り紙を指差す。



 魔法省よりのお達し

 お客様へ

 先般お知らせいたしましたように、日没後、ホグズミードの街路には毎晩ディメンターのパトロールが入ります。この措置はホグズミード住民の安全のためにとられたものであり、シリウス・ブラックが逮捕されるまで続きます。お客様におかれましては、買い物を暗くならないうちにお済ませくださいますようお勧めいたします。

 メリークリスマス!



「ね? ディメンターがこの村にわんさか集まるんだぜ。ブラックがハニーデュークスの店に押し入ったりするのを拝見したいもんだ。それにハーマイオニー、ハニーデュークスのオーナーが物音に気づくだろう? だってみんな、店の上に住んでるんだ」

「それは、そうだけど、でも……」


 ハーマイオニーは考えて、そして再びハリーに呼び掛ける。


「ねえ、ハリー。やっぱりホグズミードに来ちゃいけないはずよ。許可証にサインをもらってないんだから。誰かに見つかったら、それこそ大変よ! それに、まだ暗くなっていないし……シリウス・ブラックが現れたらどうするの? たった今!」


 ハーマイオニーの言うことは最もだと思うし、同意出来る。


「こんなときにハリーを見つけるのは大仕事だろうさ」


 ロンは格子窓の方を顎でしゃくる。そこからは、外の吹雪を窺い知ることが出来た。


「いいじゃないか、ハーマイオニー。クリスマスだぜ? ハリーだって楽しまなきゃ」

「僕のこと、言いつける?」


 ハリーがにやっと笑って見せる。

 ハリーも、ハーマイオニーがここまで来てしまった自分を強く咎めることは出来ないと分かっているだろうし、彼女が告げ口などする訳がないと信じているのだろう。そして、遂にホグズミードへ来られた嬉しさを抑えきれないのかもしれない。


「まあ、そんなことしないわよ、でも……ねえ、サクラ」


 不安そうに、ハーマイオニーがこちらを見遣る。


「確かに危ないかもしれないけど、この状況ではハリーを見つけるのは大変だろうし。それに私達、ずっと4人でここへ来たいって思ってたじゃない?」

「ええ、そうね……」

「じゃ、決まりだな。ハリー、フィフィ・フィズビーは見た?」


 ロンが、早速ハリーの腕を引っ張って店内を歩き出したのだった。


「ナメクジゼリーは? すっぱい飴アシッドポップは? このキャンディー、僕が7つのときフレッドがくれたんだ……そしたら僕、酸で舌にぽっかり穴が開いちゃってさ。ママが箒でフレッドを叩いたの覚えてるよ」


 ハリーに次々とお菓子を見せるロン。


「ゴキブリクラスターを持っていって、ピーナッツだって言ったら、フレッドがかじると思うかい?」


 ロンが、アシッドポップの箱を見つめながら、兄へ仕返しを考えた。

 それからサクラ達3人は自分のお菓子の代金を支払い、ハリーと共に店を出て、大雪の中へ繰り出したのだった。

著作者の他の作品

言いたいことが色々あって我慢出来ず、このような場を作ってしまった。作品の...