アズカバンの囚人

思い出、未練

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。


 中庭の花壇を何者かに荒らされてから約1週間後の日曜日。サクラは昼食後に心優しい生徒達と中庭へ訪れた。

 空は雲に覆われているが、雨の心配はないようである。

 メンバーは、グリフィンドールではハーマイオニーとネビル、ハッフルパフではモーリス、レイブンクローではルーナとそして、あの時声を掛けてくれて手伝うと申し出てくれた7年生のポーラ・ダーリングとリンジー・ニコルズ。

 サクラは、再び祖母からアネモネの球根を送ってもらい、それから既に開花しているシクラメンも送ってもらった。


「ばあちゃんが、ちょっとは緑もあった方がいいって、アイビーを送ってくれたんだ」


 ネビルが、生き生きとした緑のアイビーの小さな株を持ってきてくれた。

 ハーマイオニーがルピナスの種を家から送ってもらい、モーリスがビオラの苗を、栗毛のセミロングでノンフレームの眼鏡を掛けたポーラがヘルボレスの種を、ブロンドの髪をポニーテールに結ぶリンジーがまだ咲いていないスノードロップの苗を持ってきてもらった。

 残るはルーナだが、彼女が持ってきた植物が原因で皆ルーナから距離をとっていた。


「ルーナ、それは?」


 それはイソギンチャクのような形の植物で、何本もの触手のようなものが立ち上がり、その先端は黄緑から赤黒く変色しているように見える。表面にはきらきらと光る細かい毛がたくさん生えていた。

 それは魔法植物のようで、うねうねと気持ち悪く蠢動している。

 ルーナがその魔法植物の名前を教えてくれたが、サクラには初めて聞くものですぐには覚えられなかった。


「何だかすごく恐ろしそうだけど……」

「食虫植物なの。せっかくきれいに咲かせても、虫が来たら残念だと思って」

「あ、なるほど」


――流石ルーナ。着眼点が違う。


 その見た目では、他の植物まで取って食べてしまいそうであるが、ルーナ曰く虫しか吸収しないので大丈夫らしい。

 そのおどろおどろしい魔法植物に皆が顔を引き攣らせたが、サクラにとってはありがたくも思えたのだった。

 以前、イギリスのガーデニングを少し調べてみると、花も重要だが「自然」を表現する為に緑もあった方がいいということが分かった。それから、高さの違う植物を使って奥行きを作るのがイギリス風であるようだった。

 サクラ達は、綺麗にしておいた以前まで花壇だったところへ花を植え始める。バランスを考えながら、奥には背の高い植物が、手前には背の低い植物が咲くように植えた。

 ルーナの食虫植物をどこに植えるか一番悩んだが、結局端の方へ植えることにする。その様を見て、皆は再び顔を引き攣らせたのだった。

 サクラの方は、これはこれでいいと思えてきて出来栄えに満足した。


「OK.それじゃあ、仕上げに魔法をかけるね」

「それ、私達もやってみていいかしら?」


 ポーラがそう言い出した。


「でも、失敗したら怖いじゃない」


 隣でリンジーが不安そうに述べる。


「失敗してもいいと思うよ。失敗したら花がかわいそうだけど、でも、また次成功すればいいんだから。でしょ?」

「そうだよ、サクラの言う通りだよ」

 

 サクラが述べると、モーリスが頷いて同意してくれた。


「ばあちゃんが、必要だったらまた送ってあげるって言ってた。だから、僕のアイビーは枯らしてもいいよ」

「そうね、失敗したらまたみんなでやり直しましょう」


 ネビルとハーマイオニーのポジティブな言葉に、リンジーも安心した表情で頷いたのだった。


「じゃあみんな、杖を出して」


 サクラが告げると皆が杖を取り出した中、ネビルだけがずっと自分の体をまさぐり続けていた。


「ネビル、どうしたの?」

「あー、僕、杖を寮に忘れてきちゃったみたい……」

「もうネビルったら」


 サクラは思わず吹き出してしまった。


「わたしの杖を貸してあげるね」

「ありがとう」


 サクラはアネモネの球根が植わっている土に向かって成長促進の呪文、色や潤いを保持する呪文、保護呪文を掛けて皆にそのやり方を教えた。

 ネビルは、自分の持ってきたアイビーにサクラの杖を向ける。色や潤いを保持する呪文を唱えると、アイビーは茶色の煙を出して枯れていったのだった。


「ごめん、僕、やっぱり失敗しちゃった……」


 ネビルは表情を曇らせ、消え入りそうな声で呟く。


「大丈夫だよ、ネビル。あなたさっき言ったでしょ? おばあちゃんが、必要だったらまたアイビーを送ってくれるって。またお願いできる?」

「あ、うん、もちろんだよ。サクラのために、またばあちゃんに送ってもらえるように手紙を出すよ」

「お願いね」


 枯れてしまったアイビーを取り除いた花壇を、皆と一緒に眺めるサクラ。

 ルピナスは、種を持ってきたハーマイオニーが呪文をかけて一発で成功し、既に細長い葉を携えた可愛らしい芽が出ている。ルピナスは縦に長く伸びて花を咲かせるので、奥の方に植えられている。

 手前に植えたビオラは既に綺麗に咲いているので、モーリスが一先ず色や潤い保持の呪文と保護呪文を施した。ビオラが枯れたりすることはなかったので、成功したと見える。

 ヘルボレスの種を持ってきたポーラは、何度か挑戦して今は瑞々しい緑の芽が出ている。

 開花がまだのスノードロップの苗にリンジーが成長促進の呪文を施すと、蕾が膨らみ、今にも白い花弁が咲き零れそうになった。

 ルーナが、その食虫植物には必要なさそうな色や潤い保持の呪文をかけ、それに重ねて保護呪文を施す。


「サクラ、ありがとう」


 こちらがお礼を述べる立場であると思っていたが、サクラはリンジーにそう告げられた。


「卒業前に、またひとつ思い出ができたわ」

「とっても楽しかった」


 ポーラも優しい表情を向けてくれる。


「こちらこそ、ありがとう。わたしの花壇を気にかけてくれて。わたしもとても楽しかった」

「僕も参加させてくれてありがとう。また時間があるとき、自分の花に保護呪文とかかけさせてよ」

「もちろん」

「サクラ、ごめんね。せっかくの君の花壇なのに、一番に失敗しちゃって」


 すまなそうに項垂れるネビルに、サクラはすかさず首を振るう。


「ううん、そんなことないよ。わたしだっていっぱい失敗してきたもん。気にしないで。おばあちゃんによろしくね」


 そう告げると、ネビルは頷いで笑顔を見せてくれた。


「ルーナもありがとう。わたし、全然害虫対策とか考えてなかったよ」

「こちらこそありがとう。私、ホグワーツに入って今日が一番楽しかったよ」


――え、それ本当!? それってすごい!


 ルーナの言葉に驚くも、心から嬉しくなる。

 ルーナの柔らかな笑みに、サクラも一段と心が温かくなった。


「サクラ、私からもありがとう」


 サクラは、多忙の親友と向き合う。


「ハーマイオニーも大変なのに、一緒にしてくれてありがとう」

「いい気分転換になったわ」


 ハーマイオニーの微笑みに、サクラも笑顔を返す。

 心優しい友達に囲まれ、素敵な花壇を目の前にしてサクラは満たされた気持ちになった。


――花壇を荒らされたのはすごく残念で悔しいけど、でもみんなとこんなに楽しく花壇の作り直しができて、本当によかった。


 サクラは、改めて皆に感謝の言葉を述べたのだった。


――種や苗を送ってくれたご家族の方、それにふくろうにも感謝しよう。



 夕食時にハリー達と大広間へ入り、サクラはスリザリンのテーブルに目を向ける。ドラコが既に座っていたが、隣にパンジーの姿もあった。

 ハーマイオニーに、ドラコの元へ行ってくるとこっそり伝え、勇気を出して彼へ近づく。

 

「マルフォイくん、ちょっといいかな」

「ああ。向こうに行こう」


 パンジーが鋭く睨んでくるが、ドラコは直ぐに頷いてくれた。

 大広間から出て、出入り口の大きな扉の前まで来てサクラは今日のことを彼へ話した。


「もしよかったら、マルフォイくんも時間のあるときに見に来て」

「分かった。じゃあ、今夜いいか?」

「え、いいけど……」


――そんな急にじゃなくてもいいんだけどな。


「夕食の後、いいか? 君と見たいんだ」

「う、うん、もちろん、いいよ」


 ドラコの言葉に胸が高鳴り、若干かたことになりながら頷く。

 夕食後に中庭で落ち合う約束を交わし、サクラはドラコと別れてグリフィンドールのテーブルへ向かった。



 夕食後、寮に戻って念入りに身なりを整え、コートを羽織ってマフラーを巻いたサクラは中庭へ赴いた。

 花壇の前には既にドラコがいて、同じくコートとマフラー姿である。ドラコは夜の闇の中、城からの淡い灯りに柔らかく照らされていた。


「どうかな。前よりもにぎやかな花壇になったと思わない?」


 中庭へ下りて、ドラコへ石畳に沿って歩み寄る。


「ああ。でも、どうしてもそれが気になるな」


 苦い表情でドラコが指さすものは、おどろおどろしく蠢く食虫植物。

 ドラコの気持ちも分かり、サクラは苦笑した。


「それはルーナが持ってきてくれた食虫植物なの。わたし、害虫対策とか全然してなかったから。今日ね、6人の友達が苗と種を持ち寄ってくれて、一緒に植えたの」

「クジョウはどれを植えたんだ?」

「わたしのは、このアネモネとシクラメン」

「全部咲いたら、きれいだろうな」

「うん。すごく楽しみ。あとね、ネビルのおばあちゃんからアイビーっていうきれいな緑の植物もお願いしてあるの」

「……ロングボトムもか」


 ドラコの雰囲気が変わったのは気のせいだろうか。


「うん。ネビルが手伝うよって言ってくれて、おばあちゃんにお願いしてくれたの」

「ちなみに、他には誰がいたんだ?」

「他にはハーマイオニーと、あとハッフルパフで4年生のモーリス、レイブンクローで7年生のポーラとリンジー」


 そう告げると、ドラコは眉を顰めた。


「モーリスっていうは男だよな」

「うん」

「クジョウの友達なんだな」

「そうだよ。何で?」

「いや、何でもない」


 首を振ったが、ドラコの雰囲気が先程と違うことが分かる。

 何がそうさせてしまったのか分からず、サクラは少し戸惑った。


――怒ってる? そんなことないよね?


 ドラコを伺うと、彼はいつも通りに戻って話題を変える。


「そういえば、僕の写真なんか撮ってどうするつもりなんだ?」


 こちらをからかうように口角を上げて訊くドラコ。

 サクラはどきりとして慌てふためいた。


「あ、それ、は、その、あの……」


――マルフォイくんになんて説明するか全然考えてなかったあたしのバカ!


「なんていうか、えっと……」

「まあいい。写真を持っていたいと思うのは、お互い様だよな」

「え?」

「もう戻ろう。寒いから風邪を引く」


 ドラコの言葉が利理解出来ず、城の中へ入ろうとする彼を引き止める。


「ちょっと待って。どういう意味?」


 サクラもドラコを追いかけて城の中へ入る。


「僕も持ってるってことだ」

「何を?」

「君の写真を」

「ま、まさか。うそでしょ?」


 彼の言葉が信じられない。自分の写真を持つ意味が理解出来なかった。


「だってわたし、写真なんて撮られてないよ」

「それは、僕が君みたいなヘマをしなかったからさ」


――ヘマ? どういうこと?


「クジョウはクリービーに、僕に知られずに撮って来いと言ってなかっただろう」

「そ、それはそうだけど」


 てっきりコリンは、ドラコのことを怖いと思っていると思い込んでいたからである。だから、こちらが言わなくてもコリンはこっそりと彼の写真を撮ってくるものだと思っていたのだった。


「マルフォイくんも、その、コリンに頼んだの?」

「さあ、どうだろうな」


 はぐらかそうとするドラコに疑問を抱く。何故、ドラコは自分の写真が必要なのか。

 サクラは当然、彼のことを想っているから彼だけが映る写真が欲しかった。ドラコだけを映す写真なら、彼だけがサクラに視線をくれて、そして写真の彼を自分が独占出来るからである。

 このような理由は、恥ずかしくて人には到底言えないが。


――でも、どうしてあたしの写真を? まさか、そんな、まさか。


 どうしても、ドラコが自分と同じ気持ちなのではないかという考えに行き着いてしまう。しかし、それは自意識過剰にも思える。


――訊いてみる? 本当に、あたしのことが好きだからって言ってくれるの?


 先程の大広間で、パンジーが隣にいるドラコへ勇気を出して声をかけることが出来たが、今は勇気が出ない。

 ドラコへ訊こうか迷っている間、妙な沈黙が流れる。


――訊いてみて、マルフォイくんもあたしと同じ気持ちだったらいいけど、でも、もし、違う言葉が返ってきたら?


 望む答えをドラコがくれなかった場合、果たして自分は対応出来るのか、と考えてしまう。

 廊下の壁に飾られる絵画達が様々な言葉を掛けてくるが、今のサクラには気にならない。


「グリフィンドールとスリザリンの生徒の仲がいいなんて嘆かわしい」

「いいじゃないですか、微笑ましくて」


――あたしは、マルフォイくんに好きって言ってもらいたい。それ以外言われたくない。もし、それ以外だったら?


 悩んで考えて不安になるが、結局訊いてみないとドラコの気持ちが分からない。

 サクラは意を決して口を開く。

 丁度階段に足を掛けるところだった。


「ねえ……」

「クジョウ」


 階段には上らずに立ち止まったドラコに名前を呼ばれる。

 そのとき、階段が動き始めて大きく揺れた。サクラは咄嗟に手すりに摑まる。


――そうか、ここはもう動く階段だったのか。


 この階段を上ればグリフィンドールの寮に続く廊下である。だからドラコは手前で立ち止まったのである。


――さっさと訊けばよかった。あたしのバカ!


「あ、じゃあね、マルフォイくん。おやすみ!」

「ああ、おやすみ」


 何故かそのときのドラコは、悲しそうに笑んだ気がした。

著作者の他の作品

言いたいことが色々あって我慢出来ず、このような場を作ってしまった。作品の...