衝突

いっそぶつかり合えたら、ラクになれるかもしれねーのにな。深夜の自室の思考回路は、ついつい言い訳がましくなる。


今日もあいつからは連絡なし。何が気に障ったのか、数日前から素っ気ない。話しかけようとはするのだが……業務以外の話題となると、すぐに切り上げられてしまう。


「……って、違うな」


そうじゃない。


こっちがちょっと強引に出れば済む話だ。今までもそういうやり方で、あいつの悩みとか聞き出してきた。それこそが俺の役割なのだと、自認もしていた。


ただ……最近は俺も、低空飛行だった。妥協の末に納品してしまったコピー。後輩とのちょっとしたコミュニケーションミス。そういうのが続いて、少し弱気になっていた。これであいつを傷つけてしまったら、ちょっと立ち直れない。


寝返りをうち、耳を澄ますと、遠くで子供が泣き喚く声がした。


その悲壮感がどうにも耳について、その夜は布団を被って無理矢理寝た。



***



「隕石レベルの、出会い」


涼しげな表情で、気鋭の若手女優がコピーをキメている。国産カメラメーカーと初コラボを果たした、大手携帯電話キャリアの新CM。この日は終日、その撮影現場に立ち会っていた。


「うん、いい感じ!」


明るい声のカットが響き、それを合図にスタッフが動き出す。実際のCMでは宇宙を背景に、隕石をイメージした目映い光が交錯する。今は味気ないグリーンバックのスタジオだが、見えない完成図を共有出来ている現場は心地良い。


「どんなもんですかね」


指名で入った仕事ということもあり、監督直々にお声がかかった。


「さすがの空気感ですね」


そう返すと、監督は機嫌良さそうに笑った。


ああ、今回は良い仕事が出来た。公私が低調だった分、少しほっとした。周囲からは天才だの何だの言われるが、こうした安堵感は抜けることがない。きっと、これからもそうだろう。


「お疲れさまです」


その夜。撮影に同行していたあいつが、帰社後に菓子を差し入れてくれた。


「……おう」


……率直に言って、かなり嬉しかった。結局俺からは何もしてやれず、少し情けない気はしたが、この際どうでもいい。ニヤける口元は敢えて隠さず、俺はあいつに向き合った。


「お前もお疲れ」


ここで髪をくしゃっと撫でるかどうか、逡巡していた時だった。


「キリさん……やっぱりスゴいです」


あいつの方から切り出した。


「何だよ」

「実は……ここ数日仕事のことで悩んでたんですけど……なんかどうでもよくなっちゃいました」



……そっか。



お前、悩んでたんだな。



「あのさ」

「はい……?」

「俺けっこう寂しかったんだけど」

「すみません……」

「ゆるさねー」


そう短く言うと、俺はあいつのこめかみを抑え、ゆっくり……こつんと頭と頭をぶつけた。


「隕石レベルの、出会い」


なんちゃって。


恋人だからって、何でもかんでも共有すればいいってもんじゃない。俺もあいつも、それぞれの案件や悩みを抱えて動いてる。世間も仕事も、俺たちを待ってはくれない。


ただ……やっぱりすれ違いは寂しい。それに、俺は俺なりに、お前には運命感じてるつもりだ。


どうせなら、ぶつかっていこーぜ。そんな思いを、ひそかに込めた。

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