僕の居場所

兎狸
@uri_3391

# 出会い

ある日のよく晴れた夕方。

1人の小柄な少女が、公園のブランコからオレンジ色に染まった空を見上げた。雲ひとつない茜色の空が独りぼっちの少女を嘲笑っているように少女の瞳に映った。


キィ…と金属が擦れ合う音が僅かに聞こえて、少女はふと顔を上げた。少女の乗っているブランコは錆び付いていて今に壊れてもおかしくない。

まるで自分の心のようだな…。と少女は思った。


行く当てもなく彷徨い続けて、早くも2か月が経とうとしていた。

家を追い出されて居場所を失い、お金に困って犯罪に手を染めた。そんな自分を哀れに思っても、どうしようもないことだ。


日が暮れる前に寝床を探しに行こうと思い立った少女は、ブランコから立ち上がりオレンジ色に染まった空の下を裸足のまま歩き出した。


街には入れば、晩御飯の買い物をしにおばさんたちが訪れていた。

少女は手持ちのお金を見て、ひとつため息をついた。そして静かに買い物客の間を抜けて行った。


寝床を探して二時間ほどが経過した。この街に来てから寝床はもちろん安らげる場所すらどこにもない。


自分がなんで生きようと足掻いているのか、分からなくなっている。家を追い出されたなら…お金がないなら…居場所がないなら…死んだほうが楽なはずなのに。そう思っていても体は、行く当てを探している。


アスファルトの上をトボトボと歩いていると、いつのまにか来たことがない場所にたどり着いていた。やけに劇団が多い街にやって来たなと思い、周りをキョロキョロしてみると、少女の立っている通路の奥の方に、ひっそりと建っている美術館があった。


何かに導かれるように少女は美術館へと足を運んだ。閉まる時間ギリギリだったため、容易に中に入ることができた。

今まで美術に興味がなかった少女は、作品の一つ一つをじっくり見ることなく足を進めた。

興味もないのに美術館に来た自分が急にバカらしく思えて踵を返そうとした瞬間、足を止めて目の前の作品を見つめた。否、目を奪われた。


少女が目を奪われた作品は、春夏秋冬の花が一つの紙に描かれている絵だった。


特に目を惹くようなものはないもののその作品は、少女の心を惹いた。しばらく目を奪われていた少女は、誰かの足音を聞いてハッとなって我に返った。だが、時すでに遅し。少女の目の前には見回りをしていた警察だった。


少女は見つかることは予想外だったため、驚きと恐怖で体が硬直した。言い訳をする言葉も出なければ、頭がうまく回らない。


「…っ!」


見回り警察につまみ出された少女は、アスファルトの地面と膝が擦れて血が滲み出てきた。痛さというよりも寂しさがじわじわと広がった。

警察は少女を横目で一瞥しただけで、背を向けて去って行った。


少女はゆっくり立ち上がり、覚束ない足取りで歩き出した。

けれど、ご飯をまともに食べていない状態に加えてゆっくり寝たこともない少女の体は、気がつけば地面の方向に倒れ込んでいた。少女の意識はすでに遠のいている。




____日の光が目に差し込んでくるように少女を照らす。いつもの硬い地面の感触はなくふかふかのベッドのような感触に気づいて目が覚めた。


見慣れない場所、見慣れないベッド、見慣れない天井…。少女は辺りを見回し警戒した。その瞬間、ガチャッと茶色の扉が開いた。

少女の目に飛び込んできたのは、ピンクっぽい色の髪に桜色の瞳の少年。


「あ、目が覚めたんだ。よかった。」


朝日のように温かみの含んだ微笑みを少女に見せ、少年は安心したようにそう言った。少年の表情と声色を聞いて少女は少しだけ警戒心を緩めた。

そして少女はゆっくりと口を開いた。


「…ここは…どこですか…?」


初めて聞いた少女の声は、透き通るように綺麗で可愛らしい声だった。

少年は、少女の問いかけに優しく答えた。


「ここは、俺の家だよ。」


水の入ったコップを近くにあった机に置いて、少女と視線を合わせてそう言った。

少女は少年の言葉に再び警戒心を宿らせた。何をされるかわからない他人の家で保護された自分を酷く責めた。

こうなるなら地べたに捨てられてたほうがマシだと強く思った。


「大丈夫、何もしないから。」


少年はそう言いながら、少女に手を伸ばして安心させるように優しい手つきで頭を撫でた。少女は警戒していたため少年の手が伸びてくる瞬間にギュッと目を固く閉じた。

けどあまりにも優しい手つきだったので薄っすらと目を開けた。


少女の目に飛び込んできたのは温かみを含んだ瞳で、少女の瞳を見つめ返す少年の姿だった。


この人は、信じて見てもいいかもな……。


目の前にいる少年を見つめながらそう思い、そのまま意識を飛ばした。