みじかいみじかいお話。

綱の上の短い話

さあさあみなさま、今宵お目にかかりますのは綱渡り。


とは言ってもただの綱渡りじゃあござんせん。渡るはなんと齢5つのちいちゃなちいちゃな女の子!


どうぞ一目ご覧くださいな。チケット売り場はあちらにございますよ。






繊維のちくちく生えたなんの変哲もない綱。やわらかな足をのせるときぃと鳴いてゆるく撓んだ。


だぁれもいないテントの中で、今日の目玉はもくもくと練習をくりかえす。


つま先に食い込む太い縄の痛みなどなんにも感じない。


くぅくぅ鳴って左右にすこしだけ揺れる綱に、ほんのすこしの体重がバランスよくのっかって、それでもあまりの軽さにふわりと落ちてしまいそう。


繰り返す練習は外のざわつきのために。ひいてはチケットもぎの小遣いのために。ライオンのごちそう骨つき肉のために。団長のご機嫌のために。


まっしろなやわらかい足にすこしづつのっかった重みは、たやすく彼女を綱の上から振り落とそうとする。


それでも決して落ちはしない。だって床はとっても固いのだから。




観客の野次がいくら綱を揺すろうと、彼女は落ちない。きつく縛ったポニーテールが上へ引っ張ってくれるから。


団長の鞭がテントに響いても、落ちたりはしない。短いチュチュが羽のようだから。




それなのに、彼女は落ちた。


仲良しピエロの首は、重すぎたのだ。