今日も僕らは思考する

乃の✼̥୭*ˈ
@tomtom_0725

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夏の暑さも過ぎ、近頃は夜も冷えてきた。

人里離れた此処では煩わしい喧騒もないし、秋虫の鳴き声が情緒を刺激する。…こんな夜は何か書けそうな気がする。





一人物思いに耽けていると、不意にドアがノックされた。





「…はい」

「あ、此処に居らしてたんですね朔太郎先生」





失礼しますと透き通る様な声で挨拶して部屋にやって来たのは、僕が助手を務める君だった。

彼女はいつものように微笑むと当たり前のように僕の側に歩み寄る。


その行動に近頃は意識してしまう事を彼女は気付いていないのだろう。






「夕ご飯はもう召し上がられましたか?」

「ああ、うん」

「今食堂で中原さんや太宰さん達が呑んでましたけど、先生はご一緒されないのですか?」

「ああ…うん。今日は、いいや」





緊張で彼女の目を見れない僕は視線の置き場に困り、幾度か彷徨わせた後、空にぼんやりと浮かぶ月に向けた。





「あ、満月ですね」




僕の視線を辿った彼女が同じ様に月を見上げる。

きらきらと陰りを知らないその瞳はどの夜空よりも瞬いていた。





「ああ、だからか」

「ん?」

「いえ、食堂で皆さんが何やら愛だの好きだのと盛り上がっていらっしゃったんですけど…」

「(本当に行かなくて良かった…)」

「あれ、夏目先生の月の言葉の真似してたんですね」

「ああ…えっと、〝月が綺麗ですね〟ってゆうあれかい?」




何気なく、視線を彼女に向ければいつもよりも丸くなった瞳がまじまじと此方を見つめていた。




「君?」

「あ、あはは…吃驚しちゃった…朔太郎先生にその、告白されたみたいだったので…」




すみません、と恥ずかしそうに顔を隠す彼女を僕も直視出来なくて再び視線を月へと戻した。

そんなつもりではなかったけど、顔に熱が集まる。


彼女の仕草が、言葉がこんなにも僕を乱す。前はこんなんじゃなかったのに…


それからはお互い特に何も発する事もなく、ただ顔の火照りが治まるまで月を見上げていた。






22時を告げる時計のベルが三度鳴った頃、彼女は徐に口を開いた。






「…でも、私は月を見ると夏目先生のよりも朔太郎先生を思い出しちゃいますけどね」

「…僕?」

「はい。覚えていますか?出会う前から私ずっと先生のファンですから」





では、おやすみなさい。といつもの様ににこりと笑って彼女は書斎を後にした。


…覚えているさ。あの日初めて僕が君と出会った時、君は両手で大切そうに僕の本を抱えていた事を。




僕らはもう戻れないのかもしれない。けれどそれでいいのかもしれない。


僕のこころが彼女から遠く離れていないように、

彼女のこころも僕から遠く離れていない。



僕はやっと、見つけたのだ。

僕を愛してくれるこころのまづしい乙女を。




ただ、この想いを告げるのはもう少しあとにしよう。この世界が平和になった時、僕は彼女に告げるのだ。



おれの心は、君を愛することによつて涙ぐましくなるのだと。




(月に吠えたのは蛙か犬かはたまた愛を知ったさびしい男か)




2017929.


月には吠えないし、死にたくもない。

ただずっと二人で空を見上げるそんな日々を夢みてる。