月を見上げて。

ゆめみる 💥
@Ymmr_22

その日は雲一つない空だった。

だからぼくは君を連れて、出掛けることにしたんだ。最近の君は少し寂しそうだったから。


「……」

「……」


沈黙。


ぼくが声を掛けるべきなんだけど、なんだか気まずくなってしまった。急なお誘いだったし、もう秋になるから肌寒い。それに彼女も、もしかしたら一人になりたかったのかもしれない。ぼくなんてどうせ、何も出来ないただの……。

なんでぼくは何も考えずにこんなことを……。


「ねぇ」


歩いてるばかりでどこにも行かないのも駄目な気がする。だけど今月のお小遣いはもう先月に前借りしてしまった。先月と言えば、遊園地に誘った時も彼女はあまり楽しそうじゃなかった気がする。


「ねぇ!」

「え! はい!!」


声を掛けられていたことに気付けなかった。この前もそれで怒られたのに。いつもぼくは自分のことばかりで、彼女の声すら聞き逃してしまう。


「なんで、誘ったの。いきなりこんな夜にさ……」

「め、迷惑だった!?」

「別に迷惑とかじゃ、ないけど。その……ちょっと驚いた」


毛先を弄りながら、口をモゴモゴさせてそう言うのが可愛らしくて、唖然としてしまう。

あぁ、やっぱり彼女は可愛い。


ぼくは今そんな彼女を独り占めしてる。


「なにニヤニヤしてるのよ」

「え! 顔に出てた!?」


ヤバい、恥ずかしい。彼女にだけはかっこいい姿を見てほしいのに。


「ふふ。ばーか、嘘よ。でもいやらしいこと考えてるのは分かった」

「い、いやらしいことなんて考えてないよ!」


良いじゃないか、ぼくだって思春期なんだ。好きな君が近くにいたら、少しぐらい嬉しく思ったって良いはずだ。


「変わらないね、昔から。そのままずっと変わらないでほしい」


あぁ、まただ。寂しそうな顔。

そんな顔しないでよ。


「恐いの。私ね、変わるのが恐い。友達も家族もみんな変わっちゃった。私も昔の方がいろいろ上手だった気がする」


彼女は学校ではいつも一人だった。ぼくといる時だけ、彼女は強くなる。昔のやんちゃだった君に戻る。


「ぼくも、君に変わらないでほしいって思うことあるよ。どんどん美しくなって、遠くに行っちゃいそうって恐くなる」

「……そう」


でもぼくはやんちゃな君も、静かな君も好きだ。だってどう変わったって、やっぱり君は君なんだって思うから。


「僕は変わらないよ、ずっと変わらない」

「なんで分かるの」

「君がいるから。君がぼくを忘れない限り、ぼくは変わらない」


空を見ると綺麗な月が見えた。


「月が綺麗ですね」


そんな在り来りな言葉を紡ぐ。今ぼくから伝えられる言葉なんて、このぐらいだ。


「変わったよ、強くなった。でも変わらないね、不器用で……本当変わらない」


君もぼくも少しずつ変わっていく。だけど根本的な所は変わらないままなんだろう。


月を見上げて、ぼくらは笑った。

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