猫はひだまりの夢を見る

にゃーさん
@nyasan_pso2

証の鍵

 静かな昼下がり、心地よい天候につられ、オレはベランダに置いたベンチに、愛読書と、少し季節外れのアイスコーヒーを持ち出し、活字を追うのに没頭していた。

 高所にあるアークス用のルームエリアからは、市街地の建物群が見渡せる。なんとなく人々の気配を感じるが、オレは誰の目にもさらされることなく、安全地帯にいるような。ここにいると、そんな不思議な感覚になる。オレはこの場所が好きだ。


 人混みやイベントごとがあまり得意でないオレが、否応なしに参加させられていたハロウィンパーティーで、ドラキュラとやらの仮装をさせられたのはつい昨日のことだ。同じく人混みが苦手な癖に、なんでも興味津々な年頃(というのもおかしいが)のにゃーが、魔女の仮装をして、一緒に行こうとねだるので、かぼちゃの形のカゴにクッキーを山ほど入れてお祭り騒ぎに参加したのだが、挨拶すらもしたことないような連中がすれ違いざまにどんどん声をかけてくるので、オレは疲労しきりだった。にゃーの仮装が可愛くて、ついほだされてしまったが…来年は絶対に行かない。

 今日は、そんな疲労を回復するべく、一人で静かな時間を過ごす事にしたのだった。にゃーが一緒でもよかったのだが、最近ようやく一人で出歩く事を覚えたにゃーが、読書にふけるばかりのオレに退屈したのか、ロビーを散歩してくると言って出ていったので、思いがけず優雅な読書タイムを堪能していた。

 出会った頃は一人だったにゃーが、独りは嫌だと言ってオレの傍にきてから、オレたちは常に行動を共にしていた。にゃーは人見知りだ。任務を受注するときも、買い物をするときも、にゃーは店員や管理官と会話できず、全てオレの背後に隠れていた。頼られるのは嬉しかったし、可愛いとも思っていたが、これで今までよく一人でアークスとして戦ってこられたものだと逆に感心していたのだが。

 最初の頃から比べると、にゃーは明るくなったと思うし、いつも会う管理官や、よくすれ違うアークスとは挨拶もできるようになった。今では一人で散歩にでかける。

 にゃーは成人している年齢だが、過去に色々あって、知能は10歳児程度だ。見た目も幼い、「子供」なのだ。できなかったことができるようになってきていることは、きっと成長だ。それは嬉しくもあるが、離れていってしまうようで、少し寂しくもある。

…にゃーが一緒でもよかったのだが、などと言ったが、そう、正直オレは、寂しく感じていた。オレは子供の頃から独りだった。一人の時間が寂しいなんて思う日が来るとは、思わなかったな。


 アイスコーヒーの残りを飲み干して、オレは空を見上げた。秋といえば肌寒くなってくる季節だが、適切に温度管理されたこの艦の中では、この季節と言えど、長袖を着ていれば快適な気温だ。

昨日の疲れと心地よさが相まって、オレは重くなってきた瞼に抗うことなく目を閉じた。読みかけの本を裏返して膝に置き、腕を座面に下ろした。脱力しても体が倒れなさそうということだけ確認して、オレは、襲い来る睡魔に体を委ねることにした。



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