短編小説・単発小説

Kuzunoha
@kuzunoha_ff

猫とソーセージにまつわる話

 いつもの固定の打ち合わせの最中、ずっとパタパタパタパタとうるさい音が響いていた。

 リーダーであるルガディンのナイトの言葉を遮る絶妙なタイミングで鳴り響く音は、彼の相棒であり、この固定のサブタンクであるミコッテの戦士の尻尾が椅子を叩く音だ。

「じゃあ、前回1層初っ端から落ちた詩人と忍者は位置取りに注意して……」

 ぱたぱた、ぱたん。

「今回から侍からモンクになるから……」

 ぱたん、ぱたん、ぱたたたたた。

「赤魔は次元波動で範囲ヒールから漏れてるから注意し……」

 ぱたたたたた、ぱたん、ぱたん。

「うるさい!!尻尾止めろ!!止められないなら握ってろこのクソネコ!!」

 ナイトの怒声に尻尾を膨らませた戦士の青年が目を吊り上げる。

「謝らない誰かさんのせいだろうが!!」

「お前まだ朝のこと根に持ってんのか、しつこいぞ!」

 人目をはばからず怒鳴り合いを始めた二人のタンクに、ララフェルの白魔道士とエレゼンの占星術師がため息をついた。この二人は出会った頃からいつもそうだ。喧嘩をするほど仲がいいとでも言えば聞こえはいいものの、なにかとすぐに喧嘩ばかりする。

 その割には気づけば同じ家に暮らして寝食をともにしたり、誰かを仕事の相棒に選ぶ時、示し合わすことがなくとも相手を選ぶ程度にはいつも共にいる。

 とはいえ付き合っているかといえばそんなこともなく、ベッドはおろか寝室自体別だと言う。

「今日の喧嘩はなんにゃ」

「朝ごはんのソーセージ、戦士が最後に取っておいたやつをナイトが食べちゃったんだって」

 呆れ顔で頬杖をつくミコッテの詩人に、ララフェルの赤魔道士が肩をすくめる。

「最後のとっとき食うとか怒っていいやつ」

「食べられたくなきゃ最初に食べちゃえばいいのに。私が貴女を食べたように」

 侍改めモンクのハイランダー娘をからかい、ショートケーキのいちごは最初に食べる主義のエレゼン嬢の忍者が「ねえ?」と話を振ると、ヒーラー夫婦は揃って顔を見合わせた。

「どっちでもいいよー、最初でも最後でも白魔が食べちゃうし」

「だって占星ってば結局いつも残すんだもん、もったいないじゃん」

「まぁあんたらの家庭事情は置いといてぇ……」

 わいわいと騒ぎ出した固定の面々を押さえ、まずはタンク二人を止めねばとまとめに入った忍者の声を遮り、ぱあんといい音を立てて戦士の尻尾が椅子を打つ。

「お前の一口と俺の一口はサイズが違うんだよ!!一本に対する体重比率考えろ!!」

「うるせえ、たかが一本だろうが!!だいたい俺とお前じゃ面積が違うのに頭割りのダメージは同じだろうが!!」

「それとこれとは話が違うだろおおお!!!返せ俺のソーセージ!!!」

 モップのように膨れた尻尾を立てて怒り狂う戦士に、流石にナイトもたじたじとたじろいだ。

 たかが一本のソーセージだ。表面をカリカリに焼いたソーセージの一本ごときが、こんなにも火種になるとは思わなかったのだ。

「お前のソーセージ美味しいのに!!!3日前から楽しみにしてたのに!!!」

「いかんにゃ、戦士のインナービーストがたかまってるにゃ」

「食べ物の恨みでも原初の魂って反応しちゃうの?」

 逃げに入った詩人に抱えられ、赤魔道士が素朴な疑問を呈する横で、戦士が延々とナイトの仕込んでいたソーセージへの渇望をぶちまける。

「つまみ食いしないで待ってたのに!!!」

「わ、悪かった、悪かったから落ち着け、帰ったら好きなだけ食え……」

 落ち着け落ち着けと押さえにかかっても、苦手なお預けを頑張ったミコッテの怒りは高まるばかり。巻き込まれたらたまらないと遠巻きに逃げながら、これは狩りの時間まで落ち着かないなと皆遠い目をする。

「っていうか怒ってるけど惚気だよね」

「そうだね、旦那のご飯が美味しいっていうね」

 白魔道士と占星術師の素朴なつぶやきは、まだ当分続くだろう戦士の怒りの訴えに掻き消されていった。