Bunny Blossom

和対/藉波こまど@冬コミ原稿なう
@watsi_komado

プロローグ

「で、バニブロってなんなの?」


高校の昼休み。

机を並べてくっつけた状態でランチをしている生徒たちの中から、素朴な疑問の声が投げかけられた。それは常に行動を共にしている男女――いわゆる"いつものメンバー"というやつで、彼らにとって仲間内から質問のひとつ、ふたつが出ることぐらいは日常的な風景なのだが、今日はいつもと少しだけ違った。


今日は、一人だけ"いつものメンバー"が欠けている。

質問の内容は、その一人にまつわることだった。


『バニブロとは、なんなのか』


「バニブロ……って、都市伝説の? そうじゃなくて?」

「えー? お菓子の名前でしょ?」

「アイドル……いや、魔法少女だったと記憶している」

「アニメのキャラクター」

「何言ってるの、ぬいぐるみのシリーズだよ」


各々が自分の知っている"バニブロ"の情報を提供するが、一切重ならない。てんでばらばらだった。中には何も知らないのか、無言を貫く者すらいた。


「みきゆん、どれが正解なわけ」

冒頭に質問を投げかけた女子生徒が、隣で小さな弁当箱をつつく同級生に話を振った。もの憂い気にうつむいていた彼女がぱっと顔をあげると、輪になって昼食をとっているメンバーの全てが、全員食事の手を止めて彼女の方をじっと見つめている。そのプレッシャーが強かったのか、彼女は「ひっ」と小さな悲鳴すら上げていた。目だけをきょろきょろと忙しなく動かし、逃げられないことを悟ってから、彼女は小さく呟く。

「あの……どれも正解、だよ?」

「嘘つけ。こんなバラバラな情報、全部が正解なわけあるか」

「そうだね。だいたいバニブロって、あいつがもぬけの殻になるぐらいのモノなんだろ。だったら彼女であるみきゆんなら、もっと詳しいこと知ってるに決まってるじゃん」

「こ、声大きいよお……!」

「んー、男子の発言にデリカシー無いのは確かだけど、誰が付き合ってる・誰が別れたなんて、この教室にいるほぼ全員が知ってるデータよ、みきゆん。気にしたら負け」


涙目で唸りながら、"みきゆん"と呼ばれている女子生徒は箸をくわえる。教室の中では様々な会話が交わされており、このやり取りが大きくクローズアップされることは無かったが、話の中心に意図せずなってしまった彼女は、顔を真っ赤にしていた。


その様子がやりきれなかったのか、無言を貫いていた女子生徒が制止の声をあげる。

「やめなよ。無理に追及するのも、ゆんに聞くのも、おかしいでしょ。そっとしておくってのができないの?」

「けど、あれだけあいつが『バニブロー! バニブロー!』って大声で叫んでたら気になるじゃないの! 別にバニブロとの馴れ初めを聞こうってんじゃないのよ、バニブロが何なのかを知りたいだけなのよ!」

「そーだそーだ。いいか? もしここで『推しアイドルが芸能界引退を発表した』だったら、なるほどってなるじゃねーか。『アニメの主役級キャラクターが作品内で死んだ』でも、なるほどってなるじゃねーか。そういうことなんだよ」

「それをほっとけって言ってるんだけどな……」


全開になった窓の向こうを、物静かな女子生徒が見やる。三階の教室からは青空が見えるばかりで、校庭の芝生の色は見えない。だが女子生徒はそれが見えないかと、わざわざ席を立って眺めに行った。

ちょうど今は、制服も冬服から夏服に衣替えする節目の季節。外から吹き込む風にはそっと、教室の生ぬるい空気を拭って頂きたいものだが、今の風はさやかに流れるだけだった。

校庭の景色をまじまじと眺めてから席に戻った彼女は、机の上に置き去りにしていたサンドイッチを、再び口に運んだ。


「行ってあげなくていいの? 彼、まだ校庭でもぬけの殻になってた」

「……うん。今はそっとしておいた方がいいのかなって、思ったんだ」

「じゃあこうしよ、みきゆん。五限が始まる前までにあいつが戻りそうになかったら、みきゆんが迎えに行く。それでいいでしょ。はい皆、意義はありますか」

「意義なーし」


結局昼休みが半分以上経過しても戻る気配のない男子生徒のため、彼女が校庭まで出向くこととなった。なんだかんだ言いながら男子生徒のことを心配している他の生徒たちも、昇降口まで彼女を見送りに来ているほどの過保護っぷりだった。

彼女は無理やり作った笑顔で、外履きに履き替えた足を校庭に向けた。あまりにも痛々しくて、"いつものメンバー"の一部が無理をさせてしまっているのではないかと、気を揉むぐらいの様子だった。


ただ、彼女は二、三歩進んでから、くるりと後ろに控えている皆の方を向き、

「あのね。バニブロは、皆がだーいすきな、アレのことだよ。あ、れ。ちゃんと調べてね!」

とだけ言い残して、陽の光が当たる場所まで駆けだしていったのだった。


少々予想外なその言葉に唖然としながらも、二人を心配する彼らは大きな声で笑うのだった。

「そこをちゃんと教えてよ! 全くもー!」



さて。

バニブロとは、いったい何なのだろう?

著作者の他の作品

この鳥はきっと雀なんだろう。けれど雀だとは信じたくない。それでも懐かれて...