月光幻想曲・災難の船旅[女性向けミステリー風(っぽい(^_^;))ファンタジー]

senka/mitsuki
@mistuki666

第一幕 盗賊だらけの船にご用心(4)

一等船室の玄関に、一人のウェイトレスは倒れている。真っ白な顔で体を抱きついて、震えが止まらない。

悲鳴に引き寄せられた乗客と船員は他にも何人がいたけど、残念なことで、熱血少年はチケットのクラスが違うという理由で船員に扉の外に拒められていた。

「あ、あそこに、おおとっ、おとこが……」

「落ち着いてください、お嬢さん。ゆっくりでいい」

ウィルフリードは紳士のふりをして女の子に寄せ、慰めの言葉をかけた。

「は、はい! ありがとうございます……」

ウェイトレスはウィルフリードの目をじっと見つめ、少し冷静になった。

やはり、あの外見は人を騙すものだ。

「あの、準備室で、大男がいるの。ナイフを持っていて、わたしを見たら迫ってきて……とっても怖くて、片付けたばかりの食器を彼に投げてやっと逃げ出したの……」

「大男……ナイフ?! 例の殺人犯かもしれない!」

警備隊長の肩章をつけている高い船員は早速反応した。

「ど、どうすればいい?!」

「早く捕らえよう!」

「皆様、ここは危険です。一旦ホールに戻ってください。出口はここしかない、犯人はまだ船室にいる可能性が高い!」

騒ぎ出す乗客たちに指示を出し、警備隊長は船員たちに向けた。

「お前たち、俺についてこい!」

「ちょっと待ってください」

ウィルフリードは船室に飛び込もうとする船員たちを呼び止めた。

「中に物音は全然しません。犯人はまだいるとすれば、どこかに隠れたのか、人質を取った可能性も考えられます。この勢いで突き込んだら、彼を刺激するかもしれません。中にいる乗客たちは危険です」

「あっ、それもそうだけど……」

警備隊長は困りそうな顔をした。

「提案があります」

ウィルフリードの口元は少し上がった。

「あの犯罪者名簿と殺人事件があって、皆さんもさぞご不安でしょう。心細いお客さんたちに、僕たちからお休みの挨拶を差し上げたらどうですか?」

「挨拶のふりをして、状況を探るということですね」

簡単なことなのに、なんで遠回しな言い方をするの。性格の悪さのゆえか。

「そう、何かおかしいところがありましたら、すぐここに戻って皆さんにお知らせを、何もなければそのまま情報を中の乗客たちに伝える。というのはいかがでしょう」

「いいと思う。宴会で知り合った人もいる。彼の部屋を俺に任せてください」

 乗客の中にその提案に賛成する人がいた。

 警備隊長の了承を得て、船室の平面図と情報をもらった。一等船室の部屋は二十室、その中に七つは空き部屋。私とウィルフリードを含め、ここにいる部屋の持ち主は六人。

「では、乗客のほうは二人一組で、三組に分けましょう」

そう言うと、警備隊長は不思議そうな目で私を見た。

「二人一組で三組? お嬢様も入るのですか?」

「そうです」

「しかし、これは大変危険な行動です。お嬢様はやはりホールで……」

ゆっくりお茶を飲みながら待つのは柄じゃない。適当に理由を作って、船員を説得しよう。

「入らせてあげてください」

私は話す前に、ウィルフリードは口を挟んだ。

「こんな美しいお嬢様を目の前にしたら、いくら賊でも惚れて、手足がゆるくなるでしょう」

……人の忍耐には限界がある。拳を抑える神経が切れる前に、その戯言をやめてほしい。

「というのは冗談です。女性の乗客もいるから、挨拶をしに行くなら女性がいたほうが便利でしょう。怪しいところがありましたらすぐ戻ります。それに」ウィルフリードは私に優しい微笑みをかけた、「僕がついているから、大丈夫」

まるで、彼を信じてと言っている……

その偽善の微笑みのせいか、心のどこかが軽く搔かれたような不思議な感じがした。

「それでは、空き部屋は船員の皆さんにお願いします。僕たちは部屋にいる乗客たちに挨拶をしに行きます」


「お休みなさい、セフル奥様」

「では、いい夢を、エニラお嬢様」

「また明日、レディーマリベール」

ウィルフリードはその「エルハルソン公爵の息子」の身分で乗客たちの部屋に訪問した。

上流社会の挨拶はつまらなくて無意味に長引きになるもの。変わらない笑顔で聞き飽きたセリフを何回も繰り返したウィルフリードは、貴族ではなくても、それなりの訓練を受けたことがあるでしょう。でないと、恐ろしい才能の持ち主だ。

気のせいかも知れない、彼の口から状況を知った女性たちは不安になるどころか、かえって機嫌がよくなったようだ。

訪問したいくつの部屋に怪しいことはないけど、なんだか引っかかったような……

「全部、女性だった」

ふっと気づいた。

「あんたが訪れた部屋は、全部女性の部屋だった」

「やきもち? 嬉しいです」

その軽々しい口調は本当にむかつく。

「真面目に返事しろ! この自己惚れ野郎!」

! 私、何を言っている……!

慌てて両手で口を遮って、廊下を見渡す――よかった、誰も居ない。

好きで淑女のふりをしているわけではないけど、それは大変便利なものだ。「欲しいもの」が手に入る前に、まだ壊すわけにはいかない。

頭に水を被らせた時も怒らずにいられたのに、なぜこいつの戯言なんかに……

こいつのせいだ、絶対こいつの……

「分かった分かった。いくら僕のことでも、そのような目に睨まれたら罪悪感があります」

罪悪感という言葉の意味が分かって言ったの。

「淑女たちの身の安全を心配しているから、か弱い女性は危険人物に狙われやすいです」

「そうかな、一等船室は下の船室より狭い、犯人はここに入り込んだのは取り乱した行動と思う。人質を取ろうとしても、部屋にいる人の性別は簡単に分からない、男性と女性の確率は均等……」

ちょっと待って……

「部屋を選ぶ時に、あんたは一番目だった。まさか、最初から部屋にいるのは『女性だけ』だと知っているの?」

「またやきもち? 知ったとしても、真夜中に潜り込むつもりはないし、ごっそり連絡先を交換するのもしませんよ。心配しなくていっ! おっと」

――飛び出した手首が掴まれたのは二回目。

「頬にキスするなら、お手はなく、唇でお願いします」

あのきれいな顔に青あざもよく似合うと本気に思った。

「どうせ部屋登録とかを覗いたでしょう。犯罪のために」

「一人で旅をする女性として、周りの物事をよく見て、警戒心を強く持つのはいいことだ」

! いきなり、ウィルフリードの顔が私の目の前に突き出された。

「けど、オレといる時に余計な心配はいらない。欲しいものだけを見ればいい」

はじめて気づいた。ウィルフリードの目はよく見られる青色ではない。夜の海と思わせる深い海の色だった。

「なにかありましたか?」

質問の声に誘われて後ろに振り向くと、「挨拶」をしに行った乗客たちがいた。

「残念です。なにもないです」

ウィルフリードは私を離れ、四人の乗客に向かった。

情報交換した結果、調べ終わった部屋はすべて異常なし。

「船員さんはまだ空き部屋と準備室などを調べています。残ったのは二階の一番奥にある二部屋だけです」

「カルロスの姫様とブリストンの若旦那の部屋ですね」

やはり、ウィルフリードはどの部屋に誰がいるのをはっきり知っている。

「あの二人はホールでトラブルがあったらしい、邪魔しに行くのは……」

「姫様の部屋は私に任せてください」ほかの人が迷っているうちに、先手を取った、「ホールでお世話になったから、お礼をしに行きます」

「では、僕たちは姫様のところに、ブリストンの若旦那のほうは皆さんにお願いします」

「なにがお願いします?」

噂をすれば、子爵の末っ子が現れた。

「ブリストン様、ちょうどいいところです。少し面倒なことがありまして」

ある中年紳士はブリストンに迎えた。

「面倒なこと? 入口で船員から例の事件を聞いたが、それですか?」

「入口で? 封鎖が解除された後まだ部屋に戻ったことはないですか?」

「ああ、ずっと船尾で体を冷やしていた」

「では、詳しい話はこちらへ」

中年紳士はブリストンを別の方向に案内しようとした。

私の隣を通る時、ブリストンは突然に足を止めて、視線を私に向けた。その人を刺さる目線は意味不明、少なくとも友好の意味ではない。

「お前、一体何者?」

水かけの挨拶をしたのに、私のことが知らないというの?

「例の事件のほうは緊急です。ご協力をお願いします」

私が口を開く前にウィルフリードは返事をした。

ブリストンは唇を噛みしめ、中年紳士の後に続いた。 途中で一回振り向いてもう一度私を睨んだ。

「お知り合いですか?」

「知らない」

私を知らない人を知る必要はない。

「もしかして、あなたに一目ぼれして、あなたの関心を引き寄せるためにわざと嫌がらせをしたのでは」

「どこかの三流ロマンスか!」

「冗談です。でも、三流ロマンスは意外と気持ちを楽にする効果がありますよ。たまに読んでも悪くないと思います」

普段はそんなものを読んでいるの……

「犯人はまだいるとすれば、カルロスの姫様の部屋にいるでしょう」

遊びはもう十分なのか、ウィルフリードは本題に戻った。

「あんたもそう思うの」

「あなたもそうですよね。我先に行くと言い出して、何か手掛かりでもありますか」

「特にない。犯人はあのブリストンの部屋に入ったら、こんな静かなはずがないと思っただけだ。けど、さっき彼は部屋にいなかった。その判断は間違ったのかもしれない」

「いい考えではありませんか? 他人の導きに頼る人より、自分で考える人が好きです。たとえその判断が間違っていてもね」

たとえ、間違っていても……


姫様の部屋の前に、ウィルフリードと目で合図を交わし、ベールの糸に手を伸ばす。

その時――!!またきた!

冷たい刃に刺されたような痛みがお腹に襲う。

壁に背中を寄せ、腕で体をきつく抱きしめ、倒れないように必死に両足を支える。

「大丈夫?!」ウィルフリードは私の肩を支えてくれた。

「だ、大丈夫よ、よくあること……すぐ治る」

幸い、痛みは数回だけで止まった。さっそく呼吸を調整して体勢を整える。

ウィフリードはただ私に視線を送り、何も言わなかった。

「それじゃ、入りましょう」

調子が良くなったのを感じ、ベルを鳴らした。


(次回『覗きは堕落への第一歩』、ウィルフリードに悪事を強要されたフィルナが見たのは思ったよりも大変なこと……)