デコボコ三人組

結城隆臣
@Takaomi_Yuki

リラの左目の話

失明した左目を治療するため、友人達からの声援を受けつつリラは若干の不安を残しながらもドミニオン界へ再び足を向けた。

その治療法は見えなくなった左目を摘出し、新たに人間用に改造されたDEMの目を移植するというものだった。

人間への移植はこれが初めてだと言う医師や研究者の言葉に、リラは戸惑った。

考えたいとエミル会へ一度戻ったのだが、自分目でこの臨床実験が成功すれば、後から続くたくさんの目が見えない人達が幸せになるかもしれないと言う考えにいたり、覚悟を決めたのである。






―――リラが片目を失明したのは数週間前に遡る。





レベル上げをしたいと言う親友のチャドウィッグウィッグを手伝うため、リラはその日レベル40になるかならないかというチャドウィッグに憑依してサウスD・3階へと向かった。

現地に着いて数分経ったであろうか、いや、断っていないかも知れない。

まがまがしい気配と共にそれは姿を現した。

風を身に纏い威風堂々と佇む白い巨躯……それは、サウスDの主たるからかも知れない。

いち早く気付いたのはリラだった。

リラはすぐにチャドウィッグの体から憑依を抜けると、風盾をすぐ飛ばした。


「チャド、早く逃げて!!」

「!? ラ、ライオウ!?」

「俺が倒す、だから!」


手を振りチャドウィッグを促しながら、リラはライオウと戦うための準備を着々整えていく。

全ては完璧だった。


ただ一点を除いては。


低レベル者からの憑依解除、それは自分のステータスが最低から元の数値に戻ることを示している。

ステータス上は問題無く戦える状態だった、だが、HPやMPなどの数値は全て下がっていた。


鞄をまさぐるも、入っていたのは濃縮マジスタが一本のみ。

一か八か……やってみるしかない。


風爆で取り巻きを一掃。

気付いたのかライオウがゆっくりとこちらに振り返る。

そして、放たれる風の魔法。


属性盾のおかげでダメージは0。

物理攻撃においては耐える他なかった。


意外にも全ては順調に見えた。

だが、ライオウが2度ダウンし、最後の1度となったときだった。

ゼン中に訪れたキメラとラーミア……。


キメラにより混乱し、ラーミアから石化の魔法を浴びる。

運が悪かった、運が……悪かったとしか言いようがない。

そこにライオウからの物理攻撃が届く!

一瞬何が起こったのかリラには分からなかった。

左顔に走る激痛、左側にあったはずの世界が何も見えない……。


やられたっ……!


HPは残り少ない、四の五の言っていられる状況ではない。

何とかライオウを倒した後、リラは意識が遠のいていくのを感じた。




左顔の痛みで目を覚ますと、リラはテントの中にいた。

見渡すと近くには、申し訳なさそうな表情のチャドウィッグが座っていた。


「逃げるんじゃなくて、一緒に戦えば良かった……」

「何言ってるの、何とかなったし大丈夫だよ。 それより、チャドが無事で良かった」

「大丈夫なわけあるか! 現にお前は――っ!」


瞬間、ずきんと左顔に痛みが走り、リラは手を当てた。


「っつ……」


チャドウィッグが唇をかみしめながらそっぽを向く。


「すまない、その左目は……損傷が激しく、治せなかった……」

「……っ! ――そ、そう……」


そうか……俺は左目を失ったのか……。







様々な人の思いを胸に、リラは再び『自称:腕の立つ医者』の元を訪れた。

その医師は、対DEMのレジスタンス軍の軍医。

腕の立つ医者を自称しているが、実際腕は確かに良く様々な外科手術において秀逸した技術を持っている、まさに戦場を駆ける名医だった。

ただ、義手や義足を必要とする患者を相手にすると人格が豹変し、改造したくてたまらなくなるらしい。

医者はリラの顔を見るなり、目の前にいる怯えた患者を放置してリラの方へ駆け寄った。


「君は先日の……」

「目の件で、来ました」

「……どうやら、覚悟を決めてきたようだね」

「はい」

「いいねいいね、君をステキに改造してあげよう。まだ診療中だから、スナブの所で待っていて貰えないかな?」

「分かりました」


リラは、医師に一礼するとその場を離れた。


スナブというのは、ドミニオン界でDEMを研究している男のことである。

気味の悪い外見と行動を除けば、その道のプロフェッショナルであると認めざるを得ない。


スナブの元でDEMの魅力を彼から無理矢理聞かされながら待つこと数時間。


「いやぁ遅れたね!」


医者が嬉々とした表情で現れた。


「えーと、まずは目の状態を見せてくれないかい?」


リラは眼帯を外すと静かに目を開けた。


「これは酷い。詳細は検査をしてからになりそうだが……」


ゆっくりと医師が振り返った。

その方向を見ると、スナブが部屋の奥から大事そうに箱を抱えてやってくる。


「これがDEMの目を改良した……ものだネェ」


箱の中にはいくつもの目が転がっていた。


「人の目に……似ているダロウ?」

「これを君の目に、入れる。まずは、説明からしようか……」


中から1つの目を手にとって、医者とスナブが語り始めた。




彼らの説明に寄れば、DEMのシステムは意外にも人間に近く、体を動かす指令は頭部にあるチップからの電気信号に従って動いているそうだ。

そのため、人間への流用という考えは、比較的早い段階で話が出ていたらしい。

問題は彼らの体が金属物質で出来ていることで、人によってはアレルギー反応を引き起こす場合もあり、その解決策を見つけるのに時間を要した。

アレルギー物質に対抗するため、様々な実験と検証を繰り返したらしい。

まずは、義手や義足から、取り外しが可能なものであれば身体に異常をきたしてもすぐ対応することが出来る。

電気信号の伝達方法が若干人間と違っていたり、様々な困難が彼らを待ち受けていたらしいが、そこははしょって貰うことにした。

そして、目の移植について。

取り付けた後、何かがあって外した後は視神経を弄ることもあり、2度と取り付けることが出来ないと可能性があると言うこと、4~5年に1度はメンテナンスが必要なこと、眼球のリハビリに酷い痛みを伴う可能性があると言うこと、今まで通りの視力が戻るかどうかは分からないこと、アレルギー症状が出た場合DEMからの移植は将来に渡って2度と不可能なこと。


リラは全ての話しを聞いた上で、ゆっくりと言葉を発した。


「どうか目を見える様にして下さい、お願いします」




検査後、リラの身体と、痛めた左目は移植に問題無い状態が分かり、手術は数日内に行われる日取りとなった。


スナブや医師から暗視ゴーグル機能や赤外線アイ、目からビームなど色々機能を付けた実験をしてみたいとリの申し出があったが、まずは見える様になるかも分からないのにそんな無茶振りだと断った。


病室で1人ぼんやりと空を見上げていると、ふとsaitamaの顔が頭をよぎった。


何も言わないで1人でドミニオン界に来てしまったことをリラは思いだした。

今頃『りらりらにおいていかれたにょすー!』とか叫んでいるのではないかとか……そんな姿を想像してぷっと笑いがこのぼれたと同時に少し寂しくなった。


saitamaに不安がった姿を見せたくなくて、明るく振る舞いながら1人でここに来たというのに……ダメだなぁ……と、軽く頭を叩く。


その時、病室のドアを叩く音がした。

リラがその方向を見ると、そこにはsaitamaの姿があった。


「りらりら! やっと、みつけた!! なんでおいていくにょす!!」

「saitama……! どうしてここに?」

「へへん、さいたまをなめちゃいけないにょすよ! りらりらの行動はお見通しにょす!」


えへんと、胸を張るsaitamaだったが、呼吸が荒く見える。

きっと、あちこち走りまわってリラを探したのだろう。

リラは胸が熱くなるのを感じた。


「手術はいつにょす?」

「2日後」

「大丈夫にょす、ぜったい成功するにょす! さいたまが成功させるにょす!」

「saitamaが!?」


saitamaと会話していると、不思議と不安な気持ちがなくなって行くそんな気がした。


「それは心強いなぁ」








手術当日になり、saitamaが術中のリラにつきそう、リハビリも手伝いたいと申し出たが、リラはそれを断った。


どんな結果になるか分からない手術、痛みを伴う辛いリハビリをしている姿をリラはどうしてもsaitamaに見せたくなかった、余計な心配を抱かせることになるのは目に見えて分かっている。


「ちゃんと治るまで、saitamaには見せたくない……」

「りらりら……」

「今日まで付き添ってくれてありがとう。後はエミル界で待っていてもらえるかな、必ず治して帰るから」

「いやいやいやいや!!! ぜったい嫌す!!!」

「saitama……」

「りらりらがダメって言ってもインビジってこっそり行くにょす……だって支援するのがさいたまのお仕事だもん!!! 一番大事な人を……支援できなグブゥ……んて、やだもん……」


目に大粒の涙を浮かべて鼻をすすりながら喋るsaitamaにリラは諦めざるを得なかった。


「分かった。だったら、1つ約束。何があっても、何を見ても、苦しくても、悲しくても、saitamaだけは笑顔で居てくれると約束してくれる……?」

「うん……!」




手術は順調に進んだ。

さすがはドミニオン界1~2位を争う外科医とDEMの博士である。

口では改造だ、ビームだ、赤外線だと言いながらも、そこはプロ、やるときはやってくれる。

問題無く終了し、医者から注意点を聞いた後、病室へ戻る。

左目に時々痛みが走るが、無かったものがある安定感がそこにはあった。


「痛そうにょす……」


不安げな表情でこちらをみるsaitamaの鼻をリラはつねった。


「笑顔って言ったよ」

「わ、分かってるにょす!」


ふと、心に浮かび上がってきた不安をリラは握りつぶした。









その日の夜、saitamaはリラのうめき声で目を覚ました。


「ん? りらりら……? 大丈夫にょす?」


リラは汗をかき、左目を押さえて辛そうにしている。


「りらりら! す、すぐ先生を呼んでくるにょす!!」


saitamaは病室を飛び出すと、医師の元へ駆けつけた。

運良く医師はまだ起きており、スナブと共に研究トークに花を咲かせているところだった。


「先生!! りらりらが!!」

「ん? すぐ行こう!」


医師とスナブが真剣な面持ちでリラの左目を見つめている。


りらりら……すごくつらそうにょす。……左目、なくなっちゃう……?


saitamaはこみ上げてくる涙を抑えるので精一杯だった。

リラに言われた常に笑顔を守ろうと必死であがく。


「ふむ……」


不意に医師が呟いた。


「先生! りらりら、どうなっちゃうにょす?」

「んー良くないね……少しだけど拒絶反応が出てる。ちょっと薬を打って様子を見てみるが……症状が治まらない場合、摘出手術をすぐに行う事になるね」

「てきしゅつ……手術……」

「そんな……心配するほどじゃないネェ」

「彼は冒険者だろう? 身体も丈夫なはずだ……耐えてくれるはずだ……。そう信じる。君は様子を見ていてくれないか、また何かあったら呼んで欲しい」

「わ、わかったにょす……」


病室を後にする医師とスナブを見送った後、saitamaはすぐさまリラの側に寄り添い、その手を握りしめた。


「さい……たま……?」


薬が効いてきたのだろうか、リラがsaitamaの方に顔を向ける。


「りらりら!!」

「……そんな、顔……しないで……。俺は、平気……だから……」

「うー……」


空いている方の手でリラがsaitamaの頭を撫でる。

辛いのはリラなのに、慰められている自分がsaitamaは不甲斐なく感じられた。


「……すこし、眠るよ……」

「……うん」


saitamaはその夜ずっと、リラの様子を見ていた。

顔に水滴のようについた汗をぬぐってあげたり、頭を冷やしてあげたり、布団の厚さを調整してあげたり、自分に出来る気付いたことを全部リラにしてあげた。


そして、そうこうしている間に空が白み始め、saitamaはついにリラの布団に顔を埋めるようにして眠りについた。






頭を撫でられているような気がして、saitamaは目を覚ました。


「う……?」

「おはよう、酷い顔になってるよ」


声の方を見る、そこには起き上がってこちらを見ているリラの姿があった。


「寝ずの番してくれてたんだね……ありがとう」

「りらり……!!」


急にリラの腕がsaitamaを包んだ。


「……りらりら……」

「ありがとう、saitama……。目はもう大丈夫みたいだ」

「ほ、本当にょすか!?」

「うん、一週間何もなく過ごせば……リハビリを始めて良いらしい。ありがとう」

「さいたまは、何もしてないにょす……」

「してくれたよ、いっぱい」


リラが優しくsaitamaの顔を撫で、saitamaは静かに目を閉じた。






それからというもの、人工のDEMの目とリラとの間に異常は見られなかった。

症状は安定し、視神経とDEMの神経との接続面も問題無く繋がった。

医師やスナブは非常に喜び、これからは全ての部分で神経を繋ぐことが出来るかもしれないと言い始めた。


リラはゆっくりと、DEMの目を使って世界を見渡してみた。

ぼんやりと写る映像。

でも、確かにそこには失った世界が広がっていた。


目の前を落ち着きなく動いているのはsaitamaだろうか。

こちらに手を振っているのか、何かをしている。


手を振り替えしてみる。


『見えるにょす!?』


と言う声かが聞こえた。


これからゆっくりと、リハビリをして……自分の目と同じように動かせるようになろう。

リラはそう決心した。

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